「見ているだけでいい」続!
綱吉がXANXUSに電話してから4日がたった。
つまり今日は10月14日、綱吉の誕生日である。
会いに行く宣言をされ、0時になったときから綱吉はソワソワしていた。
普段は閉めきっている窓も開けてみたりしたのだが、いつまで経ってもXANXUSは表れず、気がつけばもう日がのぼっていた。
少し悲しかったがXANXUSが忙しいのは分かっていたし、正直ホッとしていた。
だって、あんな電話をした後に会うなんて、気まずい以外のなにものでもない。
本当に会ったらきっと何も言えず、何もできないまま、心臓だけを苦しいぐらいに高ぶらせてしまうのだ。
しかし、それでも会いたい。
様々な矛盾した考えが綱吉の中を巡っている。
XANXUSがもし本当に会いに来たならば渡したいものがある。
机の中に数日前からひっそりとしまい込んであるのだ。
電話したその次の日に、新しいゲームを買うつもりで貯めていた貯金を叩いて買ったネックウォーマー。
黒いシンプルなそれはこれからの季節にちょうどよい。
最初はマフラーにしようと思っていたのだが、きっと面倒と言うXANXUSを考慮しての選択だ。
「本当に来るのかなぁ…」
丁寧にラッピングされたネックウォーマーを見ながら綱吉は呟いた。
母に朝ごはんだと呼ばれ、台所に行くと待ち構えていた獄寺と山本におめでとうと言われ、プレゼントを渡された。
登校中に出会ったハルからも綱吉はプレゼントをもらい、学校では京子からももらった。
しかし綱吉の心は晴れない。
確かに嬉しいが、1番おめでとうと言ってほしいのはXANXUSからだ。
綱吉の考え虚しく一日はゆっくりと過ぎて行った。
*
綱吉はもうXANXUSは来ないのではないかと思いはじめた。
1番来そうな早朝も来ないし、家に帰っても来ていない。
もうすぐ日も暮れる。
XANXUSが忙しいことぐらいちゃんとわかっている。
あれでいて自分の立場はしっかり分かっている人だから、もしかしたら突然任務が入ったということもありえる。
けれど、やはり期待を裏切られるのは少し悲しい。
綱吉はふいに泣きたくなった。
そのときだ。
窓からノックする音が聞こえた。
ベッドに俯せで沈んでいた綱吉ははた、と目を開けてカーテンをめくった。
そこに、XANXUSがいた。
急いで来たのかいつものコートがなく、息も切らしながらXANXUSは窓を一枚隔て、そこに立っているのだ。
綱吉は夢かと思った。
しかしあけろという口パクを読み取り、窓を開け、その瞬間に感じた体温に夢ではないことを嫌でも認識させられた。
「え、!?」
窓から入ってきたXANXUSにそのまま抱きしめられたのだ。
綱吉は最初何が起きているのか理解出来ずにいたが、少し時間が経ってようやく事の重大さに気付き、慌てはじめた。
かといってこの状態は恥ずかしくはあっても嫌ではないので抵抗できない。
「遅れてすまない」
誰も喋らない中、XANXUSがようやく喋り出した。
「本当は0時ぴったりにくるはずだったんだが、これを集めててな」
そう言って取り出したのは薔薇だった。
しかも1本ではなく、数えられないほどの薔薇だ。
こんな薔薇、なかなか用意できない。
「もしかして、これを探して…?」
「ああ、すまない」
それを聞いた瞬間、綱吉は思わず笑い出した。
「っ、笑うんじゃねぇ」
「ごめ、だって!」
この薔薇の似合わない男が、自分のためにこんなに用意してくれて。
嬉しくて嬉しくて、泣きそう。
「ありがとうXANXUS。俺からもあるんだ」
「…大切にする」
XANXUSはもらったプレゼントを大切そうにしまった。
「誕生日おめでとう、綱吉」
「ありがとう、XANXUS」
太陽がゆっくりと沈んでゆく。
そして二人はどちらともなく口づけしていた。
【三谷希】
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