10月10日はボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーの隊長、XANXUSの誕生日である。
ボンゴレという組織においては実質No.2である彼の誕生日は盛大に行われる…わけではなく、ヴァリアー内だけでひっそりと行われることとなった。


「なんで今さら教えるのさ!」
「別に必死ねぇからな」


この報告をボンゴレの次期ボスである綱吉がリボーンから聞いたのはXANXUSの誕生日当日の朝であった。
彼は誰かの誕生日の度に"えらい目"に会っているが、それでも誕生日を祝うのは好きだ。
その人が生まれたこと、そして出会い、隣にいれることに感謝したかった。

しかし綱吉がXANXUSを祝いたいのはそれだけではないのだ。
いくら誕生日を祝うのが好きだと言っても、自分を殺そうとしている人間を祝おうとは思わない。

最初は、こんな気持ちありえないと思った。
当たり前だろう、世間一般的には同性に向けるには異常な感情なのだから。
しかし思いは膨れ上がる。
それでも綱吉はただ見ているだけ、声を聞くだけでよかったのだけれど、せっかくの誕生日ならお祝いの気持ちを伝えたいと思うのは当然だろう。


「…イタリアまでって何時間ぐらいかかるっけ?」
「イタリアに着いた頃には10日は終わってるぞ、ダメツナ」


リボーンの現実的な言葉に綱吉はさらにうなだれた。







*


綱吉の携帯にはXANXUSの電話番号とメールアドレスが登録されている。
リボーンがこういう情報をボスである綱吉が知らないのはダメだとか、いざとなったときに呼べる相手は多い方がいいとかなんとか言って勝手に登録したのだ。
当たり前だがそれを活用したことなんてこれまでに一度もない。
リボーン曰くはいろんな工作がされていて綱吉からの電話は強制的に繋がるし、今はまだXANXUSから綱吉に電話をかけたりメールをすることはできないらしい。
電波から現在地を知られ乗り込まれてそのままあっさり死亡なんてことにならないためにである。
そんなことあるはずがない、とはっきり言えないために綱吉は反論しなかったが、綱吉の本心からしたらそれすらも嬉しいので是非とも位置を割り当て乗り込んできてほしい。

その話は置いておき、綱吉は今日はじめてその電話番号を活用してみようと決めた。
何か言われる前に一方的に言葉を発し、すぐに切ってしまえばいい。
そうすれば向こうから電話もメールもできない。
朝、リボーンに知らされてからいろいろ考えた結果、この方法が1番いい。
考えすぎて夜になってしまったが、まだ時間はあるし、ギリギリセーフだ、きっと。


「うわあ、緊張する…」


しかし、それでもXANXUS相手には並々ならぬ緊張があるわけで。
戦闘以外でここまで緊張したのは始めてだ。
今までもたくさん緊張してきたが、それを軽く上回っていると綱吉は思った。
心臓が口から飛び出してきそうな勢いで脈打っている。
緊張しすぎて気持ちも悪くなってきた。
しかし綱吉の中にはやらないという選択肢はない。
綱吉は通話ボタンを押そうとして、指に力を込めようとするが、やはりどうしても一歩が踏み出せない。
一旦深呼吸して、決意を新たにボタンを押そうとするが、やはり押せないままだ。

そんなことが何度も続き、気が付けばもう11時30分になっていた。


「どうしよう…!このままだと一日終わっちゃう!」


本格的に焦りはじめたその瞬間に、勢いあまって綱吉は通話ボタンを押してしまった。
どうしよう!
覚悟はあったのにいざかけてしまうとぐらりと覚悟がゆらぐ。
数回鳴るコールに出るな出るなと綱吉は必死に願ったが、綱吉からの電話はいつでも繋がるというリボーンの言葉を思い出して泣きそうになった。
これでXANXUSが出なければどれだけいいか。
綱吉はコールが切れた後、XANXUSが出ないことを祈った。

プルルルル。
一回目のコールがなる。

プルルルル。
二回目のコールがなる。

プルルルル。
三回目のコールがなる。

ピッ。
電話が繋がった音が聞こえた。
さぁ、切れ。いないフリをしてくれ。ていうかいないでくれ。
なんでもいいから出ないでくれ。


「…なんだ?」

(で、でたぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!)


期待とは裏腹に電話に出たXANXUSに綱吉は驚いた。
しかし出たからには伝えなければならない。
綱吉は口を開いた。


「きょ…今日はXANXUSの誕生日なんだってね!おめでとう!それだけ、本当にそれだけだから!俺が勝手に言いたかっただけだから!気にしないで!忘れて!じゃあおやすみ!」


綱吉が言い終わり、勢いのまま通話終了ボタンを押そうとすると、待て、とXANXUSの声が聞こえて綱吉は固まった。

これは、完全に怒られる。

うぜぇとか偽善者がとか今から殺しに行くとかきっとそういうことを言われる。
本当にパニックだ。
パニックになりながらも綱吉は自分の耳に電話を再度あてがった。


「な、な、な、なんですか…?」
「…嬉しかった」


ぼそりと本当に小さな声でそう返答がきた。


「え?」
「テメェに、1番祝ってほしかった」
「っ!」
「4日後、会いに行く。楽しみにしてろ」


その後すぐに電話は切れて綱吉は糸が切れたようにその場に座り込んでしまった。

ほんとに、見ているだけでもよかったのに、会うなんて、死んでしまう!

綱吉の心の叫びは誰にも届かなかった。










4日後に続く!



【三谷希】
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