沢田綱吉がドン・ボンゴレに就任したのはもう数十年前のことだ。
最年少のボスである彼はとにかく大変だった。
まず壁になったのは古株と言われる存在だ。
綱吉が寝ないで考えた最善だと思われる案も古株たちは否定する。
穏健派の9代目を従わせることはできなかったため、この気の弱く、優柔不断そうなボスを利用してやれと思ったのだ。
だから綱吉は言ってやった。

「俺の案に文句があるならば違う案を出してください。そしてそれによりどうボンゴレが変わり、周りが変わるのかも具体的に考えシュミレーションしてみてから発言していただきたい。ただ否定するだけの幼稚な奴は相手にしませんから」

それはつまり発言は許さないという意味だ。
オロオロしていた少年がいきなりそんなことを言いはじめて古株たちは驚いた。
そんな古株たちを知ってか、ねぇXANXUS?とその場にいたXANXUSに話しかけた。
そして綱吉の問いにXANXUSはあぁ、と笑い古株たちを睨んだ。
これが何を意味するか分からない者はいないだろう。
古株たちは所謂過激派であるXANXUSに逆らうことはできない。
そのXANXUS率いるヴァリアーが綱吉の意志で動くと言っているのだ。
その場にいた全員が戦慄した。


こうして第一関門をクリアしたのだが、壁を破ればまた壁が表れるものだ。
次に綱吉の前に立ちはだかったのは周りのマフィアたちだ。
綱吉や守護者たちがまだ若いと知り一斉に攻めてきた。
それは敵対していたマフィアだけではなく、同盟に入りつつもチャンスをうかがっていたファミリーもだった。
しかし綱吉はこれを逆手に取った。
これでボンゴレを狙うファミリーをあぶり出せたのだ。
そして結局攻めてきた奴らは守護者たちやヴァリアーによって完膚なきまでに叩きのめされたあげく、ボンゴレを裏切ったファミリーはもう同盟に戻れず、またボンゴレは強さを増したと言われることとなった。


しかし、綱吉は数年後にボンゴレのボスを降りることとなる。









綱吉がボスをやめた後、すぐにXANXUSがボスに就任した。
XANXUSがボスならばまた昔のボンゴレに戻れると古株たちは思ったがそうではなかった。
XANXUSは確かに気性は荒かったが、根本的な部分は綱吉と同じようにしてきたのだ。
まるで綱吉の意志を引き継がんばかりのその行動にボンゴレ一同が唖然としたのは記憶に新しい。

ボスというのは案外大変な仕事だ。
山積みの書類を検討し、ハンコを押す。
それだけでもかなりの手間がかかるというのにさらには会合があったり最前線で戦ったりと休める暇はなかなかない。
今日も今日とてXANXUSは山積みの書類を見ていた。


「やぁ、XANXUS」


後ろから声が聞こえて、振り返ったXANXUSは目を見開いた。
そこには紛れも無く、沢田綱吉が立っていた。
昔よりも落ち着いた声。大人びた笑顔。
目を細める優しい表情と髪だけが変わっていなかった。


「テメェ…今までどこにいた」
「うん、ちょっとね。いろいろ」
「今さら戻ってきてもテメェがいれる場所はねぇ」
「わかってるよ」


綱吉は何が面白かったのかクスリと笑った。
XANXUSはわけがわからずに眉をひそめる。
その様子にまた綱吉は笑い、口を開いた。


「それでも俺をXANXUSの隣においてくれないかな」


綱吉はXANXUSの前まで行くとその赤く燃える瞳を見た。
目が合い、互いの目に互いが映し出される。
XANXUSはその甘い言葉にぐらりとした。


「…」
「なんでもするよ。ここ数年で一通りはできるようになったからね」
「…テメェ、今までなにしてたんだよ」
「何って、普通に暮らしてたよ?会社員になって、少ない給料もらって生きてた」


驚いた。
XANXUSも行方不明になった綱吉をひっそりと探していたのだが、そういった情報が一切見つからなかったからだ。
まさか、そんなところにいたとは。


「なんで、そんなところに、」
「…俺、逃がされたんだよね。リボーンにいきなり普通の生活が送りたいかって真剣な表情で聞かれて、たまにそう思うって答えたら次の日は日本にいるんだもん。参っちゃうよ」


綱吉はそう語って眉を八の字にしてこまったように笑った。


「リボーンはなんだかんだ優しいからそうしてくれたんだと思う。実際普通の生活に戻るのは楽しかったよ。やっぱりボスは俺には向かなかったよ」
「じゃあなんで戻ってきた」
「XANXUSといたいからだよ」


その言葉にXANXUSは鼻で笑った。
笑わないと、何かが溢れ出してきそうだった。
それはこれまでに何度も溢れ出そうになっては押さえ込んだものだったが、綱吉を前にして全てをさらけ出してしまいたかった。


「俺は、XANXUSといたいんだ」


そう言って絡まされた指先の、なんと優しいことだろうか。
XANXUSは思わず立ち上がって綱吉の前に伏し、その指先にキスをした。
綱吉は驚きつつもそのままそのキスを受け入れた。


「ずっと、お前を求めていた」


XANXUSはまるで懺悔をするかのように頭を垂れる。


「お前がいない日々は気が狂いそうだった…。お前とまた生きていきたい。お前の生きる理由になりたい」
「顔をあげて、XANXUS」


言葉のままに顔を上げたXANXUSの目の前にしゃがみ込んだ綱吉がいた。


「俺は、XANXUSと一緒に生きていくよ。俺もXANXUSの生きる理由になりたいんだ」


手の平から伝わる温度を二人で分かち合う。
このまま溶け合い、二人で生きよう。
そうつぶやいたのはどちらだったのだろう。





【三谷希】
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