ザンザスは催促された報告書を持ってボンゴレ本部十代目執務室の前に立っていた。
報告書を書くのは面倒で嫌いだ。放置しておくと痺れを切らした綱吉から電話が来るのを待って、それがきてから報告書を持って行く。本当は電話が来る頃には毎回とうに書き終えたものをデスクにしまってあるのだが、出さないでおくと掛かってくる自分宛の電話を待っているのだ。
自分の為だけに掛かってくる電話。
自分の為だけに費やされる綱吉の時間。
自分のことを考えている綱吉。
自分のことだけで頭が埋まっている綱吉。
それが堪らなかった。

ノックをするとすぐに返ってきた綱吉からの返事にザンザスは心の中で微笑んだ。

「やぁザンザス、早かったね」

扉を開けるとそこには笑顔の綱吉がデスクについていた。ザンザスはその笑みに思わず自分も微笑んで、一歩部屋に歩み入った。
けれどそこにはもう一人の来訪者がいた。

「ごめん獄寺くん、ちょっと待ってくれる?」
「はい。」

肩に付くほどの銀髪の男。確か綱吉の嵐の守護者で、いつも綱吉に纏わりついている男だ。何かというと綱吉の横に付いていて気に食わないその男が、自分より先にその部屋にいたことにザンザスはギリリと眉間に皺をよせ、奥歯を噛みしめた。

「で、随分掛かってたみたいだし、さぞかし素晴らしい報告書に仕上がってるんだろうね?」

綱吉の言葉にはっと顔を上げ、デスクに歩み寄るとザンザスは一枚の紙を粗雑に綱吉に渡した。
嵐の守護者がデスクの横にある応接ソファーに移動したのをちらりと横目で確認し、デスクの目の前、つまり綱吉の目の前に立った。

「…うん、相変わらずちゃんと出来てるけど、もうちょっと早く出してくれるといいんだけどねぇ」

ああ、デスクの後ろにある大きな窓から入る太陽光でキラキラと光るその髪も、少しだけ影の入る俯き加減の顔も、書類に落ちる目元の長い睫も、自分を見上げるその薄茶色の瞳も、何もかもが美しい。可愛くて堪らない。今すぐにでも抱きしめて、その誘う唇を塞いでしまいたい。

「煩ぇ、持って来てやるだけ有難いと思え」
「…俺、一応お前のボスだからね?分かってると思うけど」
「だから何だ」

ハア、と大げさにため息を吐く綱吉をザンザスはじっと見つめた。

「じゃ、確かに貰ったからもういいよ。ゴクロウサマデシタ。」

にっこりと笑う綱吉にザンザスは踵を返す。
振り向いた先にもう一人の男が目に入って瞬間的に胸がムカムカとしたが、自分に微笑んだ綱吉の余韻で何とかそれを押しとどめて扉前まで無言で歩く。

部屋を出る時にチラリとデスクを振り返ると、綱吉は既に銀髪の男と話し込んでいた。
バタン、と扉を閉める。

あの男、気に入らないな。綱吉の方もいつもあいつを横に置いて。
綱吉は俺だけに微笑んで、俺のことだけ考えていればいいのに。そうすれば、俺が綱吉の代わりにボンゴレを上手く回してみせる。綱吉はこんな汚い世界で生きずとも、俺が必ず生かしてやるのに。
ザンザスは最後に微笑んだ綱吉を思い出して声を立てずに笑った。


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