よくわからんパラレル。
イタリアの小さな町で花屋を営む綱吉には一つ年上の恋人がいる。
その名をXANXUSという。
恐面だが綺麗な顔をしている彼は女性からの支持がすごい。
しかしそんな彼は綱吉を選んだのだ。
恋人などと言う甘ったるい響きに綱吉はまだ慣れていないが、二人は正真正銘の恋人だ。
二人が出会ったのは12年前。綱吉もXANXUSもまだ幼い子供だった。
当時、綱吉は親が亡くなり親戚の家に引き取られたばかりでガラリと変わった環境になかなか馴染めず、ずっと一人だった。
公園でもそうだ。他の子の輪に入れずに、一人で遊んでいた。
そんなある日、XANXUSに会った。
さみしくないのか。さみしいよ、でもひとりでへいき。…そうか。
その時のどこかさみしげな赤い瞳を、綱吉は今でも覚えている。
それからXANXUSは頻繁に綱吉のいる公園に来るようになった。
そこにいる子供の誰もがXANXUSと遊びたがったが、XANXUSは綱吉とだけいた。
今日も今日とて綱吉は店を開店させる。
「今日もいい天気だなー」
天気がいいと店の花たちも嬉しそうだと綱吉は満足げに微笑んだ。
この季節はちょうど綺麗な花がたくさん咲く。
晴れの日はそんな花がいっそう綺麗に見えるのだ。
XANXUSはいつも朝一で綱吉の店に来てその日に1番綺麗な花を買っていく。
しかし今日はXANXUSが来ない。
いつも開店から1時間の間に来てくれるのに今日は2時間経っても来ない。
これは何かあったのではないだろうか。
心配になって電話しようとしたら扉があいた。
「いらっしゃいませー!」
そこに立っていたのは黒いスーツにボルサリーノをを被った長身の男だった。
なんだかオーラが違う。
綱吉はゾクリと背筋が凍る。
「てめぇが沢田綱吉か」
「えっ、はい。そうですが…」
名前を、知られている。
一瞬にして汗が吹き出た。
「XANXUSはもうここにはこねぇし、てめぇとも会わねぇ」
「は…?どういう、こと?」
「言ったまんまの意味だ。XANXUSはてめぇとはもう付き合いたくないんだってよ」
「そんなわけない!昨日だって…!」
そう、昨日だって店が定休日だったため二人で出かけてきたばっかりだ。
いつものように綱吉にしか見せない優しい表情でずっと愛してると言ってくれた。
それなのにいきなり別れる?
こんな男の一言で?
「てめぇが何を言おうがもう変わんねぇんだよ」
そう言って男は綱吉に背を向けて店を去った。
男が出ていった後、綱吉は糸が切れたようにその場に座り込んだ。
その日はもう仕事をする気にもなれずに、綱吉は自室のベッドでずっと泣いていた。
いきなりだ。
あんまりだ。
今日こんなことになるなら昨日言ってくれたらよかったのに。
悲しい。つらい。そんな感情が波のように襲ってくる。
落ち着いて涙が止まってもすぐにまた波が溢れ出す。
もう死んでしまおうと思った。
この傷はきっと一生残って自分を痛め続ける。
こんな気持ちのまま生きていたってつらいだけだ。
それならば、このまま、まだ愛された記憶があるまま、閉じてしまいたい。
気付けば涙はかれていた。
「綱吉、」
突然声が聞こえて、綱吉は虚ろな瞳で声の方を向いた。
「XANXUS…?」
綱吉がXANXUSの姿を確認すると、枯れたはずの涙がまた溢れ出してきた。
「なん、で…!なんで別れるの!愛してるって、嘘だったの…!?俺、別れたくないよ…!」
叫ぶように綱吉はそう漏らした。
XANXUSはさみしそうな目で綱吉を抱きしめた。
「すまない、綱吉、すまない…!お前を守るにはこれしかないんだ!」
「っ守るとか、わけわかんない…!守りたいなら俺の隣にいてよ!」
「っそれは、」
XANXUSは息を詰まらせた。
そして息をゆっくり吐いて、綱吉と向き合った。
「綱吉、よく聞け。俺はマフィアのボスだ」
「え…?」
「隠していて悪かった。俺はお前にそういう世界にいてほしくない。死ぬか生きるかの世界よりも、お前はこの平和な世界で生きてほしい」
「いやだ…っ!俺、XANXUSとじゃないと」
「綱吉…っ」
XANXUSは綱吉をさらに強く抱きしめた。
まるでその身体をすべて自分に覚えさせるように。
「お前は俺の唯一の弱点だ。お前はきっと、そのうち狙われる。それで死ぬ姿なんて見たくないんだ」
「…」
XANXUSの広い胸の中で綱吉は涙が止まらなかった。
ここまでして自分を愛してくれているという嬉しさと、別れるという事実に対する悲しみで頭がおかしくなりそうだ。
「じゃあXANXUSは、このまま俺に生きろっていうの?気持ちが報われないまま?そんなんじゃ全然幸せになれないよ…!」
「すまない…。だけど、綱吉、お前は生きろ」
XANXUSは綱吉に強く言った。
「ずるい」
「…そうだな」
「俺、待ってる。ずっとXANXUSが隣にいてくれるの待ってるから。おじいちゃんになっても、ずっと待ってる」
「ああ。ありがとう」
そしてXANXUSは綱吉を抱きしめる腕を解いた。
「俺も、一生、いや、死んでも綱吉を愛している」
そう言ってXANXUSは部屋を去っていった。
扉が閉まると痛いほどの沈黙が部屋を包み込む。
二つ仲良く並んだカップの白が綱吉には色褪せてみえた。
【三谷希】
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