俺はXANXUSのベッドの上に仰向けに寝転がり、たくさんの散らばったチョコレートを食べていた。
最初に目についたのは黒にピンクの細いストライプをアクセントにした箱に入れられた薔薇を模った小振りなもの。次は黒に茶色と白のレース模様の箱にに入れられた四角いシンプルなもの。
他にもクランチをいれたものやウィスキーボンボンなど様々なものがあるがどれも共通しているのが、黒をベースにしてあること、そしてすべてビターチョコレートであることだ。
これは全て俺の恋人であるXANXUSに贈られたもの。
だから黒が基調でビターチョコなんだろう。
XANXUSがピンクと水色の箱に入ったハートのホワイトチョコレートなんて食べてたら笑っちゃう。かわいいけど。

XANXUSはよく貰い物をする。
贈り主は女性からだったり男性からだったり、品物はワインだったりアクセサリーと本当に様々だ。
特にチョコレートは多い。
バレンタインでもないのに、常に4、5箱ぐらいはある。
XANXUSはチョコレートが嫌いだから(というか甘いもの全般苦手らしい)、甘ったるい匂いがしただけで吐き気がするとかなんとか言って捨ててしまうらしい。
しかしXANXUSにチョコレートを贈るのは普通の女性だけでなくボンゴレと同盟を組んでいる主要なファミリーのボスの娘だったりすることもあるので、捨ててはいけないらしい。
そこで部下の登場だ。
そんなものに部下を使うのもどうかと思うが、敵は作らないに越したことはない。
最近は報告すらもしておらず、XANXUSに届いたものは本人に知らせる前にすべて部下で処理されるようだ。
チョコレートばっかり食べさせられるだけじゃかわいそうだし、ヴァリアーの下っ端の人たちの給料をちょっとあげておこう。

俺はそのチョコレートを一つ口に含んでみた。


「ん、うま」


チョコレートを食べる時間すらなくて最近食べていなかったからか、口に入れた瞬間に広がるなんとも言えぬ程よい甘さがとてもおいしく感じた。
これは確かにストレスが多くて疲れたときにこれはいいかもしれない。
今度から仕事するときはチョコレートもつけてもらおう。

仰向けのままじゃ変なところに入ってしまいそうで俺は俯せになった。
こっちのほうが断然食べやすい。
俺はもう一つを口に入れながら隣のXANXUSを見た。
不快そうにチョコレートを見ている。


「ん?XANXUSもチョコレート食べたいの?」


嫌いなのを知りながら聞けば、ちげぇと返された。
そりゃそうだよね。
見るのも嫌なくらいだもん、好きなわけがない。
ここで俺が食べることを許されているのは愛だと信じてる。
一応言うが、決して無関心とかそういうわけじゃない。断じて違う。

でもXANXUSはまだ不快そうに眉をひそめたままだ。


「やっぱりチョコレートが食べたいの?」
「だからちげぇってんだろカスが」
「じゃあ何?」
「…そのチョコレート、誰からもらった」


おやまぁ、嫉妬ってやつですね。
XANXUSが、たかがチョコレートごときで、嫉妬。
ああやっぱり愛されてるな、俺。

ここはあえてこのチョコレートはXANXUSのじゃないっていう方向でいこうと思う。


「誰からだろうね」
「言え」
「どうして?」
「そいつをかっ消す」


このチョコレートをくれた人を殺すのはさすがにやばい。
同盟にヒビが入りかねない。
本音を言えば既にヒビが入りかかったも同然、向こうがどうボンゴレに攻め込むかタイミングを窺ってるような状況だからべつにどうなろうと構わないんだけど、さすがに勘違いで殺されるなんてこれをくれた女の人がかわいそうだ。
そうなると俺も後味悪いし。

そう思って俺は適当に身近な女の子の名前をあげておいた。
それならXANXUSも殺しはしない。
名前を聞いたXANXUSはそうか、と黙り込んだ。


「どうしたの?」
「チョコレートが食べたいなら今度から俺が買ってきてやるから、もう他人からもらったもんは食うなよ」
「はーい」


XANXUSは俺を独占したいらしい。
丸見えの思惑に思わず笑みが零れた。


俺と一緒。
俺もXANXUSを独占したくて仕方がないんだ。
仕事もあるから誰とも話すなとは言わないし、俺の傍にいろとも言わない。
だけどその気持ちが他の誰かに向くのは許せない。

だからXANXUSがもらったワインも俺がトイレに流したし、アクセサリーも引きちぎってバラバラにして売った。
他のものもそう。
花をもらってきたら全部踏み散らしたし、洋服類なら全て切り刻んだ。

今回のチョコレートもそう。
チョコレートなんかでXANXUSの気持ちを引こうとするなんて許せない。
だからこめられた気持ちごと全部食べちゃった。
お腹の中はチョコレートの形をした愛でもうパンパン。孕んじゃいそう。
こうやって愛を溜め込んで、溜め込んで。いつかそれが形になって生まれたらいいのに。
それこそ愛の結晶だよね。ふふ。


まだ見ぬ己の愛の塊に想像を膨らませ、俺はまた一つ、とびきり苦いチョコレートを口に含んだ。





【三谷希】
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