「髪、伸びたね。」
「そうなんですよ。肩の位置ではねて鬱陶しいから、そろそろ切ろうかな〜なんて。」
リビングのソファでイルミさんと二人並んで本を読んでいた優雅な昼下がり。
なんの前触れもなくイルミさんが私の髪を一房すくった。何事かと顔を彼の方へ向けると、中途半端に伸びた金髪が肩をかすめる。
「ふーん。」
相変わらず表情を一つも変えないで、彼は首だけを少し傾げる。すると何を閃いたのか、無駄のない動作で立ち上がると寝室の方へ消えてしまった。
暫く、寝室を見つめているとガサリと音がする。
「……イルミさん?」
「お待たせ。」
いったい何をしていたのか。
それを問いかける前に彼の手にあるものを見て理解してしまった。
「切ってあげる。」
「……切る。」
ハサミとゴミ箱。切ってあげるとのお言葉。
そして心なしかやる気に満ちたようにみえるイルミさんの表情。
やるんですね、散髪を。
「じっとしててね。手元狂うから。」
「あ、はい。」
すぐ後ろでジャキリ、ジャキリと音がする。
ん?待て待て待て。なんだか尋常じゃない音だ。普通、もう少し大人しい音じゃないですか?ちょ、もうなんか怖い。でも今更、やめてくださいと言う勇気はない。
「あ、あのー、イルミさん?」
「なに?」
「で、出来上がりのイメージとしては、どのような感じで?」
「んー、カルト?」
「……。」
バッサリだ。おかっぱだ。
和服が似合う黒髪くらいにしか合わないような髪型を私にするつもりですか。正気ですか。
「嫌だった?」
「い、い……いやじゃ、ありません。」
「よかった。」
少しだけイルミさんの声のトーンが上がる。楽しそうで何よりです。
もういいや。イルミさんが楽しければ、それでいい。どうにでもなれ。
変わらず聞こえてくる豪快な音に、私は乾いた笑いを小さくもらした。