髪の短い男が好きだ。強風が吹いてもサワサワ揺れる程度の髪が好き。
そう、ジンさんのように爽やかでジンさんのように男らしくてジンさんのようにワイルドでネテロ会長のようにチャーミングな髪がドストライク。清潔感のある無しが問題ではない。男でありながら肩より長い髪が気に入らない。せめて括れや。

「切れよ、その髪」
「……悪かった」
「誠意を見せろや。口だけならなんとでも言えんだよ」
「ガラ悪……いや、オレが悪かった。本当にすまない」
「オレが悪いっていうか、貴様以外に誰が悪いと?」
「誠に申し訳ない」

アタシより頭3つ分高く、そのくせ細身で憎たらしいほどのモデル体型。世間一般のラインでイケメンの部類に入るアタシの彼氏は、冷や汗を垂らしながら目も合わそうとしない。そりゃあそうだろう、気不味いよね分かるよ。
まさか情事中に髪の毛同士が絡むとか予想外だもんね。で、手元狂って彼女の方の髪の毛をバッサリ切っちゃったんだもんね。これには流石のアタシも唖然だわ。

この状況に陥ってまで性交を続ける気は全くなく、挿れる直前だった臨戦態勢のご立派なモノも瞬時に萎えた。簡単に衣類を纏って鏡を見れば不揃いの髪の毛が目立つ。
やってくれたな、おい。

「カイト……アタシは謝ってほしいわけじゃないのよ」

まくし立てる気力もなく、力なく笑う。
手鏡には随分と面白い髪型になったアタシが写り込んでいるが、生憎笑い飛ばせる気力はない。
ジンさんが少年のように笑いながら「女らしくなってきたじゃねえか」と珍しく褒めてくれた髪、ネテロ会長がヒゲを撫でながら「綺麗な髪じゃ」と純粋に褒めてくれた髪。大好きな2人に褒められたものが一瞬にしてなくなるなんて思ってもみなかっただけに、かなりショックだ。
ベッドの下で正座するカイトの表情が段々死んできているが慈悲はない。

「どう責任とる?」

謝罪はいらないから態度で示せ。
切ったものは戻ってこないし、髪を伸ばせる念もない。うら若き乙女の髪を切った責任をどう取るのかだけ知りたい。
無言が続く。カイトが自分で考えた答えを知りたいから急かさない。けれど重圧は与え続ける。居心地の悪い視線を一身に受ける彼の白いの首筋に一筋、汗が流れた直後だった。貝のように口を閉ざしていたカイトが小さな声を発したのは。

「オレが」
「は?」

聞こえない。
すぐさま聞き返す。電流が走ったかのようにカイトの肩が小さく揺れた。声音が冷たいのは仕方ないと割り切ってほしい。

「オレがナマエの分まで髪を伸ばす」
「……それが、責任の取り方?」
「ああ。いくら鬱陶しかろうが笑われようが、お前が切ってもいいと言うまで伸ばす」
「丸坊主じゃないのか」
「オレはそれでも構わないが、丸坊主にすればそこで終わりだ。責任の取り方としてはあまりにも軽い。それに比べて伸ばすのは、生きてる限りずっとだろう。
お前が切られた苦しみを感じたなら、オレは伸ばし続ける苦しみを味わうことにする」

「これしか思いつかない、悪いな」そう言って苦々しく笑うカイトがどうしようもなく愛おしく思えてきて、不思議と怒りが綺麗さっぱり昇華される。
分かっているのだろうか、アタシの許可がないと髪を切れない意味。分かってるんだとしたら感激で盛大に抱きつきたいんだけど。
尋ねようか迷っていると、遠慮がちにカイトの手がアタシの髪に触れた。

「綺麗な髪なのに、本当にすまなかった」
「……もういいよ。髪、カイトが揃えてくれる?」
「構わないが、変にならないか?」
「器用だし多分大丈夫でしょ、多分」

ニッといつも通り笑えばカイトは安堵したように口元を緩めた。未だ髪に触れる手を取って、薄くて硬い手の平にキスを落とすとカイトはギョッとしたように目を見開く。
これから伸びるカイトの髪を思うと楽しみで仕方ない。鬱陶しいと思う度、長い髪だなと笑われる度、きっとカイトの脳裏にはアタシが浮かぶ。伸ばすのは私の為、切れるのも私だけ。

醜い独占欲がドクリと全身を駆け巡って、自然とにやける口元をカイトの手で覆い隠した。
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