旅団がとある競売へ盗みに入ったのは約半年程前の話になる。
競売に参加していた人間を始末してクロロとマチが数ある商品を物色していると1人だけまだ幼い奴隷の少女がいた。競売に出ているあらかたの商品を盗むという目的できたのだから、目的の中には勿論少女も含まれている。しかし少女はイレギュラーだった。シャルナークの調べた商品リストの中に少女はいなかったのだ。
「どうすんの、団長」眉をほんの少し潜めながらマチが尋ねる。物はいい、ただ側に置いて飽きれば捨てるなり売るなりすればいいのだから。だが人は別だ。生かしておくとなると寝床も食料も必要となってくる。捨てるにしても殺すにしても物とは違って一苦労。ならばこの奴隷には手を出さず放っておいた方がいいのではないか。マチはそう考えた。
首輪と鎖付きの手枷がつけられた包帯だらけの少女を暫く無言で見つめたクロロは口元に笑みを浮かべて床に膝をついた。決して少女を安心させる為の笑みではないことをマチは知っている。

「はじめまして、お嬢さん。いくつか質問しても?」

これは、少女から情報を聞き出しやすくする為の笑みだ。案の定、少女は怯えることなくコクリと小さく頷いた。

「ありがとう。声は出せるか?」
「……ぅん」
「そうか、なら答えてほしい。キミがここにいる理由は?」
「り、ゆう……分かんない。いつの間にか、売られてたの。おじさん達、私を叩いて刺して面白いって……あ、傷が早く治るから面白いって」
「ほぅ」

成る程、強化系能力者か。それも自覚なしの。刺しても死なないのだから一般上流層の人間からすればさぞ良い玩具だろう。だが念を知る能力者なら面白みに欠ける能力だ。彼女の持つ能力が特質系なら生かす価値はあったかもしれない。暇潰しに少女の念能力を開花させて、熟した頃にその能力を奪えばいいのだから。しかし聞く限り、自身だけの治癒力を少し向上させる程度の力。
それなら用はないか、とクロロは少女を殺そうとナイフを取り出す。

「団長」

しかし珍しい邪魔が入り殺すことはできなかった。クロロは振り返り面白そうに笑う。

「なんだ、フェイタン」

いつそこに佇んでいたのか。競売にかけられている拷問器具を見に行くと別行動していたフェイタンがクロロの真後ろから少女を見下ろしていた。

「そいつ要らないならワタシがもらうよ。いい実験台になるね」

切れ長の冷たい瞳が微かな熱を孕んでニィと細められる。
「まだ試してない器具沢山あたのにもう死んだ。つまらないね」拷問部屋から出てくるたび顔に血をつけたフェイタンが残念そうに独り言ちていたのをマチは思い出す。大人でも耐えられないフェイタンの拷問。その大人が耐えきれずに死んだ器具を試すつもりらしい。何の罪もない、ただの少女を使って。

「ちょっと、フェイタン。別にこの子じゃなくても調達したここの奴らで十分なんじゃないの?」
「すぐ死ぬ奴らより、コイツの方が長く楽しめるよ。生かしておいた奴らここですぐ処分して、どうせ放っておけばすぐ死ぬコイツ有効活用する。手間が省けて一石二鳥。なにか文句あるか」

大人を何人も持って帰るより、少女1人を連れて帰った方が嵩張らない。そして処分も楽だ。フェイタンの言うことは効率的である。
対してマチの言い分は情に任せたもの。フェイタンに反対する理由は少女が可哀想だから。
この2人の言い分。クロロが選んだのは勿論フェイタンだ。「最後まで責任を持つならいいぞ」まるで犬猫でも飼うノリで頷いたクロロはもうここに用はないと言わんばかりに少女の前から立ち去ってしまう。マチは諦めたようにため息を漏らして「アタシの前でその子の死体晒さないでよね」と言い捨ててクロロのあとをついて行った。
残ったのはフェイタンと壁に鎖で繋がれた少女。マチが出ていくのを確認して再度少女を見やったフェイタンは分かりやすく眉をひそめた。

「お前、なに笑てる」
「あなた、私を殺すの?」
「すぐには殺さない。お前が泣き叫んでも苦しめ続ける。まずは爪剥ぐ、つぎ目。舌は最後まで残す、喋れないヤツ痛めつけても面白くない」
「残念。早く死にたいのに」

「みんな殺してくれないの」と笑う少女に対して「どのみち殺してやるから残念がる必要ないね」とフェイタンはニタリと笑って少女の鎖を刀で斬り、肩に担ぎ上げた。

これがフェイタンと少女の出会いであるが、半年経った今も少女は生きている。それもフェイタンにナマエという名を貰って。拷問されてはいるのだが、ナマエの治癒力が高いのか、はたまたフェイタンが加減をしているのか、少女は競売にかけられていた頃より元気な姿で生きている。
一時期、フェイタンが壊れた!と騒いでいたメンバーも「コレ、ワタシのモノ。生かすも殺すもワタシ次第」と笑ったフェイタンを見て黙り込んだ。ああこれ碌でもないこと考えてる。通常通りだ、と。

「フェイー!今日ね、パクとマチがケーキ買ってきてくれたの。一緒に食べよ?」
「煩いね、ワタシ本読んでる。見て分からないか?」
「だってそれ何回も読んでる本でしょ?この前も読んでるの見たよ」

付き纏うナマエに塩対応のフェイタン。この2人は既にアジト内で見慣れた光景と化しており、メンバーもそれを温かい目で見守るのである。シャル経由で『フェイタンがペットを飼い始めた』というメールは全団員に一斉送信されており、珍しいもの見たさでフェイタンの元に集まる団員は少なくなかった。今アジトにいるのは、クロロ、マチ、パクノダ、ノブナガ、フェイタン、ナマエの6名。後日、ウボォーギンもアジトに立ち寄るという。

「ナマエ。フェイがいらないならオレがもらうが」
「えークロロにはケーキじゃなくてプリンだってマチが言ってたよ。ねえフェイ、食べよーよ」
「しつこいね。その口塞ぐか?」

一般人ならば怯えて何も話せなくなってしまう程の殺気。ギラリと向けられた視線を物ともせず、ナマエはパッと顔を輝かせる。

「え、縫う?縫うの?マチー!針と糸貸してー!」
「もうお前黙れ」
「ングゥッ!?……ン?んまい!」
「そうか」

チッと舌打ちをする勢いで顔を歪めながらナマエの口にケーキを放り込んでいくフェイタン。それを見たノブナガは笑いを耐えた。
お前アーンなんてするキャラじゃねえだろ、しかもなにフォークで丁寧に食べやすい大きさにしてやってんだ。あれか、飼い犬におやつをやるご主人様気取りか?言葉にはせずとも爆笑を堪えた顔が雄弁に何が言いたいのかを語っていた。フェイタンに睨まれたことでノブナガは全力で顔を逸らす。
触らぬフェイに祟りなし。ノブナガはそっと自身の部屋に戻っていく。マチとパクは顔を見合わせてやれやれと小さな息を吐いてから、クロロを引っ張って別の部屋へ移動する。ほのかに2人の世界を作り出すのはやめてくれないものか、と女性陣は思う。手か口を出せばフェイタンが不機嫌になるのでそばにいる側としてはたまったものではないのだ。

「美味しい!ねぇ、フェイも。ほら、アーン」
「ワタシそんな洒落たモノいらないね。全部やる」
「いいの?ありがとう、フェイ。あ、もしかしてこの後すっごく辛い唐辛子で甘さに慣れた舌を刺激するの?いっぱい甘いの食べとくね!」
「ハズレね。虫と草を調合したワタシ特性の苦い液体飲ませてやるよ」
「毒!?」
「ハ、残念だたね。致死量の毒ない」

明らかにしょぼくれた様子のナマエが「もー、いつ殺してくれるの?」と小さく呟く。それに対して口元の布を下げたフェイタンはナマエの耳元に顔を寄せてボソリと何かを呟く。
顔が離され、ナマエは悪そうな笑みを浮かべたフェイタンとは正反対の、花が綻ぶような顔で笑った。

「悪趣味」
「死にたがり殺したところで何も面白くない。はじめに伝えたとおり、ワタシそれ変えるつもりないね」

出会って初日の拷問で、フェイタンは少女の望みを叶えるかわりにある条件を出した。
その条件が満たされる日まで、2人の世界は続いてゆく。
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