パッチンガム 【仁王×ブン太】

「いってえええ!」

教室に響く叫び声。教室内にいた生徒が一斉に叫び声の方に顔を向けた。そして、みんな優しい微笑みを向けて、元の視線の方へと戻っていく。
どうやら恒例行事と思われているらしい。

叫び声の主は、赤い髪の毛で、くりくりとした大きな瞳が印象的な丸井ブン太君である。
仁王に差し出されたパッチンガムを疑いもせず、素直にもらおうとして引っかかったのだった。

「おい仁王!何度目だよ!」
「まだ十回目じゃ」
「本物を寄越せ」
「なんのことかの?」

そういうと、仁王はとぼけた顔をして、自分の席に帰って行った。仁王が座るのとほぼ同時に、授業のチャイムが鳴ってしまい、ブン太はこれ以上追及することができなかった。

仁王とブン太は三年B組、同じクラスだ。クラス換えをしたばかりの席は名簿順になっていて、ブン太は二つ前にいる仁王の背中を思いっきり睨んだ。
まだ新学期に入って間もないのに、ブン太のキャラは食いしん坊で確定だろう。

ま、もらえる分には困らねえけどさ。


ブン太は仁王が振り返らないので、睨んでも無駄だと思い、教科書をぱらぱらとめくった。
こんないかにも男子中学生のやりそうな遊びをしている二人には、秘密がある。実は、恋人同士なのだ。
仁王は、好きな子にちょっかいをかける男子中学生の典型なのだが、ブン太はそんな風に考えたことが一度もない。むしろ、本当に好きなのかと疑っているくらいだった。

「この問題を仁王、答えてくれ」
「……はい」

ぼんやりと考え事でもしていたのだろう仁王は、少し慌ててノートの該当箇所を探して立ち上がった。
さっきまで慌てていたのとは別人のように、仁王はすらすらと黒板に答えを書いていく。それぐらい、俺だってできるとブン太は内心思いつつ、女子と同様、仁王を目で追っている自分に気づいた。

好き、なんだろうな

そう思ってしまうことが、なんだか悔しかった。




付き合ってから、初めて迎える誕生日。

日付が変わると同時にクラスの女子からのお祝いメールが沢山きた。その中に、テニス部からのメールもちらほら来ていた。しかし、仁王からは何の連絡もなかった。
部活に行けばサプライズあるのかなと期待していたら、普通に部活が終わってしまった。
仁王以外のレギュラーはお菓子をいっぱいくれて嬉しかったし、真田からも小さい声でおめでとうとお祝いされたのに、肝心のアイツだけは興味なさげにこちらに背を向けていた。

俺達、付き合ってんだよな?

仁王からは何も言われなかったので、ブン太はジャッカルと帰ろうとして、部室を出た。

期待した俺がバカだったのか


校門まで来たところで、ジャッカルが急に歩いている足を止めた。ブン太が何かあったのかと見上げると、ジャッカルは困った顔をしていた。

「なあブン太、後ろにでっかいプレゼントがいるぞ」
「は?」

振り返れば、さっきから俺の心をかき乱している銀髪君がいる。

「ブン太、また連絡するな」
「え、今日は親父さんが奢ってくれるって……!」
「またな!」

ジャッカルはそういうと、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりにさっさとその場から去ってしまった。
気がつけば、いつのまにか、仁王がブン太の腕を掴んでいた。

「……離せよ」
「いやじゃ」
「なんでだよ」
「ブン太が帰るから。プレゼント渡しとらんのに」
「はあ」

深くため息をつくと、仁王がすっとガムを差し出してきた。
この期に及んでまさかパッチンガムなんてねえよな?と思いつつ、ブン太が引くと中身がない。ただの包装紙だった。
とりあえず開いてみると、文字が書いてある。どうやらガムの包装紙の形をしたお手紙らしい。ってこれ、女子が持ってるやつだろい。

「お誕生日、おめでとう……それだけ!?」
「まだあるぜよ」

仁王は再び何かを差し出してきた。今度はガムというよりなんかの紙を折り畳んでいる。

「バイキングの予約……?」
「そ。やっと取れたんよ。ブン太が行きたいって言うとったとこ」

そう言いながら仁王はまたポケットからガムを取り出し、ブン太に差し出す。

「……」
「これは本物」

そりゃ、まだビニールもついたままの未開封品だもんな。
仁王はすごく楽しそうな顔をしていた。器用なんだか不器用なんだかわからない奴だ。

たった一言くれればいいのに

ブン太がガムを手に取らないでいると、仁王は不安そうにこちらの様子を窺ってきた。

「……ブン太、この味好かん?」

気づけよ馬鹿やろう!!!

「……そい」
「え」
「祝うのが遅くて回りくどいんだよ!!!」

ブン太は仁王からガムをひったくると、ずかずかと先を歩いた。仁王はすぐにブン太の後を追って隣に来たが、ブン太は目を合わせなかった。

「ブン太、聞いてくれん?」
「……」
「付き合ってからはじめてのブン太の誕生日やね」
「……」
「今日、ケーキ用意しとるんやけど、俺ん家来ない?」
「……行く」
「目を見てくれんと本当に来たいかわからんな」
「行くって言ってんだろい!!!」

立ち止まって思いっきり仁王を睨むと、仁王は優しく笑った。

「やっとこっち向いた」

しまったと思ったときはもう遅い。
人の多いこの道で、仁王はブン太の顔を両手でがっしりホールドした。

「ブン太、お誕生日おめでと」


ああ、もうこいつは俺のことなんてお見通しなのか


「ふん」

なら、少しくらい我が儘でもいいよな?

「……早く行こうぜ」
「ブン太、ガムいる?」
「ん、サン……いってえええええ!」
「ははっブンちゃん、引っ掛かり連続記録もついに十四回目じゃ、おめでとさん!」
「おいこら待て仁王!!!」


今日は一年に一度の特別な日。


仁王の精一杯を全部俺にちょうだい?


end



【コメント】
ブン太お誕生日おめでとう!!!


HN:るく 様
HP:rendez-vous


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