You and I 【仁王×ブン太】



「ブン太、誕生日おめでとう」
食欲をそそる甘い匂い。いつもの寛容な微笑みに僅かな好奇心を滲ませて、幸村くんが白い箱を差し出した。
「これ。ささやかだけどブン太に」
「あ!駅前のいっつも混んでるケーキ屋の?」
「うん。前にブン太が食べたいって言ってたから」
幸村くんがあの行列に並んでこれを買ってきてくれたのか。これは味わって食わないと。
「おぉ〜うまそー!」
箱を開ければ苺ショートにレアチーズ、それからティラミスが上品に並んでいる。
「幸村くんサンキュー!大事に食うぜぃ」
ケーキ以上に幸村くんの気持ちが嬉しかった。
ーなのに何故か切なくなる。





放課後。部活を終えて帰る頃にはロッカーのなかはプレゼントでいっぱいに埋まっていた。持って帰れる分だけ持参した紙袋に入れて帰路につく。
何となく乗り気にならなくて今日は赤也の誘いも断った。今日は俺が丸井先輩に奢るっす!、と張り切っていたのに悪いことをしたな。
両手には幸村くんがくれたケーキに、柳や柳生、それから真田からのプレゼント。そういやジャッカルからも貰ったっけ。レギュラーメンバーからだけじゃない。部活の後輩やクラスメイトたちもおめでとうの言葉と一緒にプレゼントをくれた。
なのにどうしてだろう。今ひとつ心が晴れない。
ーどうして、なんてそんなのあいつ以外に考えられなかった。何で今日に限って学校休むんだよ、あいつは。バカ仁王。
恋人の誕生日くらい、せめてメールの一通でも送れよな。担任は確か風邪だとか言っていたけど、あいつのことだ。それも本当なのか怪しい。
「あ〜あ」
呟いた独り言がオレンジ色の空に溶けていく。
何で俺が今日一日顔も合わせていないあいつのことで暗くならなきゃいけないんだ。悪いのは全部、仁王なのに。
ー一年に一度の特別な日。本音を言えば誰より仁王に祝って欲しかった。一言、おめでとうって言って欲しかった。
そもそも仁王にとっては俺の誕生日なんてそんなに重要なものではないのかもしれないけど。






「本当バカみてぇ」
「……誰がバカなんじゃ」
聞き慣れたクセのある声が背後から聞こえて、振り返るとそこには背中を丸めた仁王が立っていた。
普段の何倍も無造作でボサボサの髪に、よれよれのトレーナー。目の下には隈ができていて少しやつれているように見える。
「……仁王」
一瞬目の錯覚かと疑った。
「……ってお前ほんとに風邪だったのかよ」
「疑ってたんか。ブンちゃん酷いのぅ」
「日頃の行いのせいだろぃ」
見てくれこそ酷いが体調は大分良くなったらしい。それでも普段より顔色は悪いから風邪で伏せっていたのは嘘ではないんだろう。
「大体病人が何でこんな所うろついてんだよ」
仁王の家から近くもないのに、まして風邪で学校を休んだ仁王がこんな場所にいるのは不自然だった。ここからならむしろ俺の家に近い。
「ブン太に会いに来たんじゃ」
仁王の声が甘いものへと変わった。それだけでドキドキしてしまうのはこいつには内緒だ。
「……なんで」
「やって今日ブン太の誕生日じゃろ」
ー狡い。仁王は本当に狡い。そうやって簡単に俺の気持ちを見透かすんだ。その言葉一つで喜んでしまう自分があまりに単純で格好悪い。
「誕生日おめでとさん」
俺にだけ見せる穏やかな笑顔。
よく見れば仁王の左腕には仁王には不似合いな可愛らしい紙袋がぶら下がっていて、そのまま仁王は紙袋から何かを取り出した。
「……ケーキの匂いがする」
「流石ブンちゃん。鼻が利くのぅ」
「……もしかしてお前の手作り?」
「まぁ開けてみんしゃい」
薄いブルーの小さな箱の中にはお世辞にも美味そうには見えない、形の悪いザッハトルテ。さっき幸村くんがくれたケーキと比べたら天と地ほどの差だ。こんなの俺じゃなきゃケーキだってことも分からない。
「朝まで掛かって作ったんじゃが、結局上手くいかんかった」
「……そうみたいだな」
「しかも完徹したせいで風邪ひくし。本当最悪じゃ」
そう言った仁王の顔は凄く優しいもので、目が合うだけで胸を鷲掴みにされそうになる。
ーなんだよ。めっちゃ重要視されてるじゃん、俺の誕生日。
箱を閉じて深呼吸をひとつ。この不味そうなザッハトルテに免じて、俺も少しだけ素直になろう。
「……寂しかった、お前に祝ってもらえなくて。このまま今日はお前に会えないんだって思うと誕生日が嫌いになりそうだった」
最後にありがとう、と添えようとしたのにそれを言い終える前に仁王に抱きしめられた。
あ〜あ。お陰でケーキを箱ごとコンクリートに落としてしまった。でも仁王の視線はケーキではなく俺に注がれている。
「可愛いこと言わんで、ブン太」
「なんで」
「キスしたくなるから」
仁王の手が顎にかかって顔を上に向かされる。心臓がバクバクいっている。
「……風邪ひいてんだろぃ」
「もう治ったぜよ。な……ええじゃろ?」
今にも触れそうで触れないこの距離がもどかしい。
ー俺だってしたいに決まってるだろぃ。ここが外だとかそんなことを考える余裕は残っていない。
やがて仁王の乾いた唇が俺のものに触れた。たどたどしく、だけどそれはじんわりと俺の心に広がっていく。





ー俺はお前が隣にいてくれるなら、他には何も望まねぇよ。



end



【コメント】
この度はブン太誕生祭という素敵な企画に参加させていただき、ありがとう御座いました!365日ブン太のことばかり考えている私にとって、このような形でブン太のお誕生日をお祝い出来ることはとても幸せです。ブン太にとって最高の15歳になりますように!!


HN:れんた 様
HP:jgzg-candy


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