「ただいま〜」
「おー帰ったか」

バイトから帰ると何故か顔を真っ赤にした外人にビール片手に出迎えられた

「なっ…」

秘密基地にいるはずのない顔に出迎えられ、体が一瞬硬直した
買い物袋に卵が入っていることも忘れ手から落としてしまった
ぐしゃ、と不吉な音がする
外人はその音を聞き陽気に笑った

「…そ、その声は…」
「そうだ〜DXFだ〜」

ヘルメットもせず、服装も普段とは違うDXFは普通にアメリカ人だった
普通のアメリカ人がどんなか知らないが、流暢に日本語を喋っていることが多少不自然に感じるくらいアメリカ人らしい見た目だったのだ
だが酔っているせいか呂律がいまいち回っていなかった
ふらふらとし、まっすぐ立つことすら出来ていない
表情はだらしなく緩んでおり、上機嫌だということが伺えた

「何故お前がここに…」
「お前に会いに来たんだよ」
「は、はあ…?」

訳のわからないことを言う様子を見ると酔っている、というか酔いすぎのようだ
買いだめしておいたビールは無いものとして考えるべきだろう
笑うDXFを横目にため息をつく
それにいくら上機嫌だとしても相手はDXFだ
追い出そうとすればデラボされることが目に見えていた
DXFはへらへらと笑うばかりで帰る様子はないし…
どうしたものかと腕を組み思案していると、
DXFは買い物袋を広い上げ、ふらふらと奥へと持っていってしまった
待て待てと靴を放り投げあとを付いていく
また卵を割られてしまっては困る
今日卵を使う予定は無いのだ
基地の中は日が入らないためか、軽く汗のかいた自分には涼しく感じた
しかし涼しいだけではない
自分の廊下をばたばたと忙しく歩く音が聞こえるだけで、それ以外はまるで静かなのだ
この時間ならまだみんな起きている筈だと言うのに、博士の工具の音も吉田くんが見ているテレビの音も聞こえない
待てよ、よく考えてみれば玄関にも靴がなかったような気がする

「(なんで…)」
「レオナルドが全員連れて遊び行ってるんだよ」

きょろきょろ辺りを見回しているのを見かねて…かどうかは知らんが、台所で買い物袋を漁るDXFが答えた

「ねずみの…、なんつったっけ。あれ。泊まりだと…
あ、卵割れてるじゃねえか」
「わしは聞いとらんぞ」
「冷蔵庫に手紙が入ってた」

何故冷蔵庫に…
いやなんでこいつ人ん家の冷蔵庫を勝手に…
というツッコミはさておき、冷蔵庫を開けると確かに紙が入っていた
吉田くんの相変わらず読みづらい字でDXFの言ったようなことが書かれてあった
だとしたら疑問が残る
全員で出かけるのならば玄関に鍵をかけるはずだ
この男、鍵を壊したのか?
それとも大家さんから合鍵でも借りたのか?

「お前どうやって中に入ったんじゃ」
「鍵が開いてたんだよ」

買ってきたものを床に並べながらDXFは嘘じゃねえぞ、と付け足した
付け足さなくともこればっかりはDXFの言うことが正しいのだろう

「全く吉田くんは〜…」

頭を抱えて唸るとDXFがまた笑った
吉田くんは鍵を掛け忘れる天才のかも知れない
何度注意しても治らず、そのうっかりぶりにもう何度頭を抱えたことか
もういっそ博士に頼んでオートロックにして貰おうかと思うが、
オートロックにしても秘密基地から盗むものはこれと言って無い上に、うっかり締め出されてしまう様子が容易に浮かぶので未だ博士に言い出せないままだ
第一、大家さんがそんなこと許してくれるはずない
だが今度の定例会議の議題はこのことについて話合おうと決意した
一度しっかり叱らねば

「誰も居ないのに鍵が掛かっていない家だがヒーローがいれば安心だろ。だから俺は」
「不法侵入して勝手飲み食いしてるとか空き巣と大して変わらんじゃないか」
「うるせえな。んなことよりつまみはねぇのかよ」

寧ろヒーローという言葉すら失礼な言い訳をした自称ヒーローは、空になった買い物袋を投げつけてきた
いつの間に買ってきた物を全て袋から出してしまっていた
出すなら冷蔵庫に入れてくれてもいいのに
などと思ったところでこの男に通じる筈もないだろう
それに卵はやはり数個潰れており、気持ちが更に沈んだ
つまみが欲しければ居酒屋でも行けよ、と呟きながら近くにあったプリンを拾いDXFに突き出した

「ほれ」
「プリンで酒が飲めるかよ。何か作れ」

ビールを煽りながらバカじゃねえのと言い放つDXFにもう怒りすら感じず、ただただうんざりした
プリンを冷蔵庫にしまいながら聞こえるか聞こえないかの声で、帰れよとつい漏らす
すると肩を捕まれた
振り向くとDXFが肩を掴んでいる逆の手をこちらに突き出し、満面の笑顔を浮かべている
背筋にゾッと冷たいものが走った
人はどこまでも最低になれるらしい

「お前が作るのなら何でもいいから」
「わ、わかったわかった、作るからデラックスボン……は?」

今まで聞いたことの無いような台詞に目を丸くする
この男は何を言っているのか
ぽかんと口を開けてる間にDXFはだらしのない笑顔のままふらふらと奥の部屋に行ってしまった
しばらく冷蔵庫を開けたまま唖然としていたが、すぐに冷気が漏れてることに気づき手を動かし始めた
食料を冷蔵庫に入れながらDXFは酔いすぎてああなっているのだろうと勝手に結論付けた
本当にとてもいいことがあったに違いない
じゃなければ頭が等々完全にイカれたか新しい嫌がらせかのどれかだ
割れた卵を皿に取りだしフライパンに火をつけた
DXFがここにいるのなら、出掛けた団員達が道中DXFに襲われる心配はないだろう
素直にホッとしていいのか微妙なところだが、気にしないことにした
少しのことを気になどしていたら世界征服を目指すことすら出来なくなってしまう
寛容な心が大切なのだ
フライパンに油を垂らし、割れた殻を取りながら卵を焼いていく
そういえば確かに先日菩薩峠くんが何とかランドに行きたいと言っていたのを思い出した
まさか今日行くとは思っても見なかったが
自分はバイトが沢山あるし、予定を合わしていたらずっと先のことになってしまうことを考慮したのだろう
博士のことだ、要は面倒になったに違いない
焼けた卵に胡椒を振りかけ皿に移し、チーズとケチャップを掛けた
まあ広いところを歩きまわるのはもう辛い年ではあるし、行きたい訳ではないが

「あいつと二人きりは嫌だな…」

団員がいれば持つ間も二人きりでは持たない
ただ寂しいというか、それが嫌だった









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