自我が芽生える頃には既に変な身体だった。
最近になって聞いた言葉だが、自己治癒能力というものが極端に発達しているらしかった。
端的に言えば怪我や病気が人の何百倍もの速さで治った。
そんな私を両親は気味悪がった。そして売られた。

しかし幸運なことに、すぐに私を買ってくれた人がいた。ピンクでモフモフでサングラスを掛けた、一風変わった王様だった。
何年かその王様の元で過ごしていた。そして一年ほど前、私を必要としている人が居ると言われ、引き合わされたのがマスターだった。

マスターは科学者で、日々、世のため人のために研究をしていた。
研究には実験が付き物だということは、足りない私の頭でも理解出来た。
だから、自ら被験体になることを志願した。どうせ身体はすぐに治るのだ。そんなことよりこんな自分が誰か何かの役に立つなら、それ以上のことはないと思った。

「***」

朦朧とする意識の中で私の名を呼ぶマスターの声が聞こえた。

「もういい」

がちゃりと扉の開く音がした。
視界の端に、私の元へ歩み寄るマスターの足下が見えた。

「気分はどうだ、***」

息苦しさの他に、何処かに痛みはあるか、痺れは来ないか。目はよく見えているか、四肢に感覚はあるのか。
私の体を抱き抱えたマスターは、一遍に幾つもの質問を投げかけてきた。

「…い」

「ん?」

「めまい、と、…耳鳴り」

「そうか」

私の言葉を、マスターはすぐに頭の中に入れたようだった。

「今日はもう休んでいいぞ」

「…まだ大丈夫です」

ほら、と言って私はゆっくり立ち上がって見せた。既に先ほどの目眩も耳鳴りも息苦しさも無くなっている。

「もういいのか」

「はい」

私が笑ってみせると、マスターも笑ってくれた。

「***、お前にはいつも感謝している」

「本当ですか」

「ああ。お前が居るおかげで私の研究も捗る」

「…嬉しいです」

マスターの研究が捗るということは、世の人々が救われる日が着実に近付いている事を意味していた。
マスターはそういう、世間から尊ばれる存在だという事を私はこの施設で過ごす内に理解していった。

「お前には苦労を掛けてすまないが」

「苦労だなんて、そんな」

「とにかく今日はゆっくり休むと良い」

「はい、ありがとうございます」

そうしてその大きな手で私の頭を撫でるとマスターは部屋を出て行った。
私はその高潔な背中を、見えなくなるまで目で追っていた。


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