大広間のほぼ中心に置いてあるソファに、普段この施設には居ない人物の姿があった。

「来てたのか」

声を掛けて初めてこちらに気付いたのか、一瞬その背中が竦んだ。

「…駄目だった?」

「何の用もなく来るような場所じゃねェだろう」

そうだ。***には、用なんてない。

「私はここが好きなの」

***と自分が引き合わされたのは半年ほど前の事だ。
いつもは一人のヴェルゴが、ある日急に***を伴ってここへやってきた。
***について聞かされたのは、ジョーカーの子飼いだと言うこと、それから警戒するような相手ではないということの二つだけだった。

以来、時折***は此処を訪れるようになった。それも初めの内はヴェルゴと一緒だったが、気が付けばいつの間にか一人で来るようになった。

「ドレスローザは相変わらずか」

***が住んでいるのは、此処とはまるで正反対の環境だ。
シーザー自身も、以前行ったことがある。
人も街も、やたらと華やいでいる印象だけが残っていた。

「まあ、いつも賑やかみたい」

***がそこまで言って言葉を区切った。
まるで自分には関係の無い事だというような言い方だった。
黙ったまま、シーザーはその次の言葉を待った。

「私には少し、息苦しいけど」

***が、力なく笑った。
はっとするほど整ったその顔は、これまでにも何度かふとした時に曇る事があった。

ただ、***がそんな心情を吐露したのは、今が初めてだ。

「今の言葉」

思わず出た言葉なのか、敢えて自分に聞かせるために吐き出したものなのか。
そんな事を考えてみても、シーザーにわかる筈がなかった。

「ジョーカーには黙っといてやる」

自分が今***に対して言えるのは、それぐらいしかなかった。
それ以上のことは、お互いに許されない。

「ありがとう、シーザー」

***が口元を緩めて、この名を呼んだ。
それをひどく心地良いと感じている自分に気が付いて、黙ったまま***に背を向けた。


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