「歳三さん、今日の空、綺麗ですね」

わたしは隣に寄り添って寝ている愛しいひとに問いかける。
その人はそっとまぶたを閉じて散りゆく花弁を感じていた。

「…まるで、空に桜の花弁が溶けていってるようです」

長く重苦しく、それでいて冷たい戦いは終の刻を迎えた。
いろんなものを失った私たちは彼の地で再びしあわせを探すことを赦された。


春の陽射しは緩い熱を持っていてなんだかくすぐったい。

良い天気だから、と私が歳三さんをひなたぼっこに誘ったのはつい先程のこと。
意地悪な春風が桜を散らし始めていたから――彼と一緒に散りゆく様を見届けたかった。


大鳥さんに手配して頂いた家の庭にはそれは立派な桜の樹が揺るがすようにそびえていた。

初めて見たとき私がもうすぐお花見できますね、なんて言っていたら歳三さんはなんだか少し悲しそうに笑っていた。

きっと彼は―罪悪感を持っているのだろう。

こうして縁側で彼の腕に抱かれて桜に包まれるなんて――
ずっと、想像もしていなかった。
なんて私は幸せ者なんだろう。

「歳三さん、私すごく幸せ者です」

すると彼はゆっくりとまぶたを持ち上げ、私の耳元へ顔をすり寄せてくる。

「…それは、俺の台詞だ」
ありがとう、千鶴、と彼は言った。


「あの…歳三さん」
「ん?」

彼の端正な顔が、歳三さんの瞳を縁取る睫毛が触れそうなほど私の顔のすぐ近くまで近づいてきている。

「お願いが……あるのですが…」

「なんだ、言ってみろ」

「その…、口付けを…して頂けませんか…」

すると歳三さんはくすくすと笑い出す。

いちいち吐息が耳にかかって恥ずかしくて、何だかいたたまれない。

「ほら、何度でもくれてやるよ」

ふわり、とやわらかな桜の花弁が髪にかかった。
辺りは薄桃色だ。

ああ、このまま桜と一緒に溶けてしまいそう。




春に溶ける 土方×千鶴
相澤真里拇さま/ななつぼし

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