今日は天気がいいなぁと千鶴が外で洗濯物を干していると家の中から千鶴ーと彼女を呼ぶ声が聞こえる。

「ちょっと待っててください!」

これで最後だからと千鶴は手の中にあった洗濯物を干して、土方のいる部屋を覗いた。

「土方さん、お茶ですか?」
「いや、そうじゃなくてな、ちょっとこい」
「? はい」

今日の土方は様子がおかしい。蝦夷の地で2人で暮らすようになってからまだあまり経っていないがその変化がわかるくらいの時間は流れたのだ。
土方さんにしては歯切れが悪いなあなどと思いながらも千鶴は大人しく土方の近くによる。そうすれば土方に座れと畳を指された。

「目ぇつぶってろ」
「えっ」
「目開けるんじゃねぇぞ。それから動くなよ」

わかったか、と念を押すように土方がそう言う。何がなんだかわからない千鶴だったが、早くしろと睨まれてしまっては従わないわけにはいかない。理由を聞くことを諦めて静かに目を閉じると、唇に何かが触れた。

「!?」
「あっ!おい…」

千鶴が驚きに目を見開くと土方が眉を寄せている。
唇に触れていたのは彼の指だった。もう片方の手の中には、紅。

「え?え、あのこれって…」
「あーあー…お前ちょっと喋るな。動くな!」

土方は手の中のある紅を見て慌てる千鶴を黙らせると彼女の唇を少し拭ってまた、指を滑らせた。

「よし」

目を硬く瞑って千鶴が暫く恥ずかしさをやり過ごそうとしていると納得したらしい土方が声をあげる。千鶴は鏡を探した。ほら、と鏡を手に苦笑する土方からそれを受け取り、千鶴はうわぁとうれしそうな声を上げた。

「きれいな色ですね」
「この前見つけたんだよ。そんなに量はねぇんだがな」

お前にやるよと言葉を続けて土方は照れたように千鶴から目線をそらした。

「でも…」
「なんだ、俺からじゃ不満か?」

そんなことないですと千鶴は慌てたように首を横に振って、うれしそうに微笑んだ。
そんな千鶴の様子に土方はほっと息をついて彼女を抱き寄せ、紅がついたままの唇に口付けた。


少しずつ取り戻したい 土方×千鶴
愛希葉さま root beer

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