「歳三さん」
優しく微笑む愛しい人。
ずっと側にいすぎていつの間にか俺の一部になってしまった。
そいつの名前は雪村千鶴。
追いかけられて追いかけられて、無茶をする俺の手を握り締めて現世に留まらせた張本人。
「どうしたんですか…?」
「いいや」
あんなにも幼く、小さかった少女が今や俺の子を宿してるなんて信じられるか?
お前が側にいて笑ってくれるこんなにも幸せで構わないんだろうか。
たくさんの人を亡くしてきた俺がこんなにも幸せでいいのだろうか。
近藤さん、総司、山南さん…源さん、山崎、平助…
芹沢さん、新見さん…そして沢山の隊士達。
あんたや先立った皆が聞いたらこう言ってくれるのだろうか。
『当たり前だろ』だと…。
どこかで生きているだろう。
斎藤、原田、永倉…榎本さん、大鳥さん、島田…そして井吹。
生きている間にまた会えるだろうか。
そして俺達のこと祝福してくれるだろうか…。
いや誰かに認められたいからじゃない。
俺は俺の意志でこいつの側にいたいんだ。
「…千鶴」
「はい?」
「ありがとな」
腹の子を潰さないように優しく抱きしめながら俺は千鶴の愛らしい唇にそっと重ねる。
初めは驚いたようだったが頬を染めながら瞳を閉じていく。
綺麗な黒髪が優しく風に舞う。
「…側にいてくれてありがとう、俺についてきてくれてありがとう」
「……歳三さん」
「愛してくれてありがとう、俺の子を身ごもってくれてありがとう」
感謝しきれないくらいに溢れ出すお前への想い。
お前も感じてくれるだろうか。
分かってくれるだろうか。
俺が想うこの気持ちはお前に届いているのだろうか。
「歳三さん」
「何だ?」
「生きていてくださって、私を選んでくださって、大切な宝物をくださって…あ
りがとうございます」
優しくお前が笑うから。
俺はこの生命が桜のように儚く散るのではなく…青草のように伸びていきたいと願うのだ。
少しでも長く、少しでも共に。
お前を悲しませた以上にお前を想っていたい。
生きていたい。
罪だと指を刺されても、少しでも長く。

お前の側に。





屋烏之愛 土方×千鶴
朱雀氷雨さま/Wheel of Fortune

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