花火[HQ!!]


「町内会のお祭り?」

ええ、と言って清水先輩はチラシを渡してくれた。

「烏養監督が監督として来てから、そのお礼に何か出来ないかなって先生と話したの、そしたらちょうどお祭りがあるからお屋台でお手伝いをしようって事になったの」

そっかぁと部室のカレンダーを見る。
もう8月も終わりに近づいてきたからお祭りがあってもおかしくない。それにここの町内会は若い人が多いからきっと楽しいんだろうな。

なんて思って今日の部活はスタートした。部活が始まればもうバレーボールの事しか考えないからお祭りの事なんかすっかり忘れてたんだ。

「集合!」

いつも部活終了後の自主練がなくて、部長の掛け声でそう言えばと、やっとお祭りの話を思い出した。

「皆さんお疲れ様です。今日自主練がないのはみんなにちょっと相談があってね」
「相談、ですか?」
「今度の日曜日にお祭りがあるのは知ってるよね?そこでみんなに屋台のお手伝いをしてもらいたいんだ」
「「「屋台!!!」」」

目をキラキラさせて西谷さんも田中さんと日向が身を乗り出した。元々お祭りとか派手なの好きなんだろうなぁ

「うん、高校生だから火を扱うのとかじゃなくて、かき氷屋とか坂ノ下商店の手伝いとかなんだけどね」
「んで、若者の手はいくつあっても足りないから三つぐらいの班に別れてやるぞ、他の店の手伝いもして欲しいからな」
「ちゃんと終わればご褒美がありますよ〜」

なんて武田先生が言うと元々乗り気の3人は俄然やる気になった。田中先輩は上着を脱いだ。今でこそ慣れてきたけど、やっぱり意味もなく照れる。

「谷地さん!」

清水先輩と端っこにいた私に日向が寄ってきた。
ドキン、と心臓が高鳴る。

「シャチ!!!」
「谷地さん俺たちと同じ班でいい?チーム1年生で班にしようと思って!」
「わ、私ごときでよければ…」
「本当!?やったぁ!」

混じりけのない笑顔と、裏表ない気持ちに少し、心が痛くなった。
あなたのその行動が私をこんなに苦しめてるなんて、きっと、ううん、一生わかんないだろうね。

「あ、そうだマネージャー二人には頼みがあるんだ」

後ろから烏養監督が少し困ったように笑って話しかけてきた。どうしたんだろう?



▽▲▽▲▽▲…



「うおおおお!潔子さん!美しいっす!」

涙を流しながら盛り上がってる二人、そりゃそうだよね、清水先輩みたいな美人な人が浴衣着てたら。
あのあと監督にお願いされたのは、浴衣美人コンテストに参加して欲しいとのことだった。毎年恒例なのだが、今年は参加人数が足りなくて困ってたらしい。

「やっちゃんも似合うねぇ」
「ひゃい!?ああああありがとうございます!」

そう言って来たのは甚平を着た菅原先輩だ、紺色のそれはすごく似合う。東峰先輩も茶色の浴衣がいつもより大人らしさをだしてる。本当に高校生には見えない…口には出さないけど。騒いでる西谷さんと田中さんも甚平を来てる。肩までたくしあげて、屋台が似合うと思う。

「やっちゃんは白地で清水は紺かぁ」
「二人とも似合うなぁ」

先輩方が褒めてくださる…でも、清水先輩と比べたら月とすっぽん。いつも下ろしてる髪をポニーテールにしている。それだけなんだけど、やっぱりすごく美人だから映える。いいなぁ美人さん、女の私でも思うんだから男の子だったら余計だよね。

「お、一年戻ってきたな」

烏養監督と物を運んでいた1年生のみんなが戻ってきた。動きやすい格好を重視してきたのか、みんな半袖とハーフパンツ。影山くんのTシャツは「海」と大きく書かれてる、一応夏意識かな。

「あ!谷地さんも浴衣だ!」

走ってきた日向が話しかけてきた。些細なこと、それに見れば分かることなのに、こんなにドキドキするなんて思わなかった。

「谷地さん似合うね!可愛い!」
「ふぁ!?」

まさか真っ向から可愛いなんて言われると思ってなかった。びっくりして固まっちゃう。

「日向ボゲェ!自分の荷物忘れんな!」
「ちょっと王様、自分の荷物僕に持たせないでよ!なんでこんなに重いのさ!」

ギャーギャー騒ぎながらいつものメンバーが日向叫んでいる。日向は「ごめん!」と言ってみんなと合流した。
顔が熱いのは、きっと慣れない浴衣のせいだよね。


それからお手伝いが始まった。
チーム1年生はカキ氷屋さん。氷をかくのに結構な力が欲しくて、影山くんと月島くんをメインに男子が交互にやってた。私はお金の受け渡しがメイン。シロップかけたりカップを用意したりするのは山口くんと日向だ。なんだかんだ言ってチームだから特に大きな失敗もなく、滞りなく進んだ。でも緊張感でなんども転びそうになったのは秘密ね。
そんな時に頑張ってる日向を見て、恰好いいなぁなんて思う自分がいた。楽しそうに仕事してるって素敵だなって、自分もここまで来ると末期かなって思っちゃう。こんな想いがすごく痛いんだ。ドキドキしちゃって。

「おーい1回休憩入っていいよー」

遠くから三年生が来た。両手には水風船やフランクフルト、ヤキソバなどお祭りを満喫してる。菅原先輩にいたってはお面を頭につけてる。

「俺達と交代な、一周したら戻って来いよ」
「はい、ありがとうございます」
「うおお!やったぁ!ありがとうございます!」

「焼きそばー!」と大声で走る日向。私は下駄だから走る事も、ましてやいつもより遅く歩くからみんなに置いてかれちゃう。ヨチヨチと細かく歩いても、ドンドンと人にぶつかっては小声で謝る。ううっ…人多いし、日向も見失うし、災難だなぁ。

「あっ!!谷地さん見っけ!!!」

人ごみからオレンジ色の髪の日向が現れてくれた。それに安心しちゃって、ほんの少し泣きそうになっちゃった。ううん、これは違うの。目に蚊が入っただけ。

「人多くて大変でしょ」
「うん、それに下駄だから皆みたいに行けなくて…」
「あっそっか、そうだよね」

そう言ったら、パッと私の手を取った。

「!!!??!!?」
「これならはぐれないよ、一緒にみんなで屋台みようよ!」

すぐそこに触れられそうな、そんな少女漫画みたいな可愛らしい展開じゃなくて、ダイレクトに手と手を繋いでる…!走ってお母さんのところに行ったのを思い出す。
だけど、今回は違う。私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれてる。
嬉しくて、くすぐったい気持ちになって、あー私、恋してるなって再確認出来ちゃった。

「谷地さんの浴衣すごく可愛い!浴衣コンテストもよかったよー!」

浴衣コンテストで清水先輩はぶっちぎりの1位だった。
はにかんだように照れて笑ったその顔に殆どの人がドキドキしてたみたい。田中さんと西谷さんは声も出さずに泣いてた。ちなみに私は8人中8位、副賞として箱ティッシュもらった。たぶん、緊張しすぎて盛大に転んだせい。でも少しでも票が入ってたことに驚いた。

「あ、ありがと…お母さんに見立ててもらったの」
「へー!さすがだね、谷地さんいつも可愛いけど、今日はもーっと可愛い!もっと票入ってても良かったのに」
「いやぁ…清水先輩に比べたら私なんか…」
「でも、谷地さん似合ってたよ。だから俺谷地さんに票入れたんだー」

笑ってそう言ってくれる。その言葉に救われた気がした。理由は分かんないけど、すごくすごく嬉しい。それと同時にものすごく照れちゃうけど。おかけで顔が赤くて何も言えないや。
言葉の一つ一つがお世辞じゃないって、嘘じゃないって分かるから簡単に喜べるし、簡単に落ち込む。
私はそういう日向に惹かれたんだ。



ドンッ!



大きな音が聞こえて空を見ると、真っ黒な夜空に花火咲いた。大きくて色が変わっていくその様は、咲いたという表現がぴったりのように思えた。

「綺麗だね」

また日向は笑って、その笑顔にキュンって心が弾んじゃって、つい花火に願っちゃったの、もっともっと近づきたいな、って。
咲いては枯れて、枯れても咲き誇る、一瞬を生きる花火に私は、恋を願ったんだ。



今はバレーボールしか見えてない貴方がいつか、私のことを見てくれるその日まで私は貴方を精一杯応援するね。




大好きだよ、日向。






-End-


prev|Back|next

しおりを挟む
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -