ジャスミン


『何でもお前基準で考えるなよ!』

やめろ

『いいよな、天才サマは。努力しなくても勝てるんだからさ。』

やめろ

『お前とやりたくない。』

やめろやめろやめろ!

『お前がいると、迷惑なんだよ!』


「っ!!」

バッと俺は勢いよく起き上がった。
あせる呼吸を落ち着かせて、ゆっくり深呼吸をする。

嫌な、とても嫌な夢を見た。苦しくて苦しくて、吐きそうなくらい気持ちの悪い夢だった。
昔のことがフラッシュバックして今でも俺を苦しめる。
確かに俺は自他とも認める天才だ。女受けもルックスも良いし、運動神経なんか剣道の日本代表だ。

それの何が悪い?

俺は、弱音を吐く奴の気が知れない。そんなことをしている暇があるのならもっと努力しろ、もっと走り込め、もっと基礎練しろ。弱音を吐いたその1分で何が出来るか教えてやろうか?出来ないと嘆いて辞める奴に限って口を揃えて言いやがる。

『お前とは違うんだよ!』

確かに違ぇだろうよ。
お前らなんかとは天と地ほど違うさ。
でもそれは、努力でカバーできる。やればやるほど出来るんだ。
なのに、それなのにアイツらはまるで俺が間違っているみたいな目をしやがるんだ。
努力しないで勝てるだぁ?
絵空事言ってんじゃねぇよ。
俺だって練習してんだよ、お前の何倍も、お前が笑ってるときに泣いているんだよ。血ヘド吐くような練習だって、好きなこと潰してだってやってきたんだよ。
それなのに、努力してない?
ふざけるなよ、いい加減にしろよ。神聖視すんなよ、俺は天才だが努力したからこうなっただけだ。だからそんな目で見るなよ。

そんな、目で、見るなよ。

つうっと頬が濡れた。
一人の夜は何故か悪い夢を見ては、涙を流してしまう。それは、溜め込んだストレスなのか、弱味を見せたくないプライドなのか。さすがの俺でも分からないがとにかく、泣きたくなる。

「朋花(トモカ)が寝ていて良かったぜ…」

朋花は俺の大学の後輩でぼっとしているようで、人をちゃんと見ている抜け目のないやつだ。そして俺はこいつの彼氏。珍しく二人で俺の家で呑んで、二人して潰れた。つっても残念なことに俺の方が早く潰れたんだがな。服が変わってなく、ベッドにいると言うこと大方、朋花が運んでくれたのだろう。恐ろしいことに身長は俺とどっこいどっこいの175pでトライアスロンをやるような奴だから、俺の事を運ぶことだって可能だ。それに、アイツのことだからきっとソファーのそばで寝てることだろうな、この前一緒に寝ようとしたら、回し蹴り食らったしな。自室にはいない。
そばに居ないことが分かったなら、思いきり泣ける。まだ少し酔っているのか分からないが、いざとなったら言い訳はこれにしよう。
そう思ったら、思いはポロポロ溢れだしてくる。

「ふっ…!!ひっく…」

少し声を潜めて泣く。
夜だし、もし照樹に聞かれたら恥ずかしいからな。
何が悲しくて、何が苦しいのかよく分からなくなって、頭のなかがごちゃごちゃしてくる。
寒さなのか少し震えてきた。
嗚呼、どうしよう。とりあえず体を暖めなくては。両腕で自分を抱き締めるようにしようとしたら、自分より大きな手が目の前に来た。そして背中には確かな温もり。

「せんぱぁい。寒いんスか」
「朋花!?」

寝ていたはずの朋花がいつの間にか後ろに居て、俺を抱き締めている。

「な、何でいるんだよ!」
「ここで寝てたからに決まってるじゃあないっスかー。ウチ体デカイからソファーじゃキツいしって思ったらここしかないなって。」
「っ!いつから、起きてた」
「先輩がうなされている所からッスね」

どうやら俺は夢でうなされていたらしい。今でハッキリと思い出せないがあの嫌な夢は本当に苦しいものみたいだ。

「…せんぱぁい。」
「……何だよ。」
「泣いてる姿、似合わないッスよ。それに、先輩は堂々としている方がカッコいいし、ウチの好きな先輩だ。傲慢でワガママで意地っ張りな先輩。」

黙る。
背中が暖かい。

「誰よりも努力家なくせにそれを自慢しないで他のどーでも良いことばっかり自慢して勘違いされて、スポーツマンで優しい人。」

ぎゅっと朋花が俺を抱き締める。

力を少し込めて。

嗚呼、暖かい。

「どんな夢だったのかは知りたくもないッスけど、泣きたいときは泣けばいいと思いますよ。そして泣き終わったらまた笑ってくださいよ。」

暖かい。
体が暖かくなって、どうやら涙腺が緩んだみたいだ。ポロポロ大粒の涙が溢れ出す。もう、プライドなんて関係無い。だって、俺の事をちゃんと見てくれる人がここにいてくれたから。


「ウチは、貴方についていきます。」

「ぅあああぁぁあ!!」


こんなに大きな声で泣いたのは凄く凄く久しぶりだ。


嗚呼、なんだか
心まで暖かい。






ありがとう。





-End-

 

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