これから


〔【ずっとずっと】の彼女視点〕

私には恋愛感情が理解できません。

人を好きになることは理解できます。愛は家族だったり友達から注がれて、幸せに育ってきましたから。

でも、私には「恋」がまったく理解できないのです。
「恋」とは…特定の異性に強く惹かれること。また、切ないまでに深く思いを寄せること。らしい。
日本語辞典で調べてみたところ、こんな風に書かれていました。

強く惹かれる?
切ないくらい深く?

嗚呼、まったく分からない。


どう頑張っても理解できません。
恋する切なさも、楽しさも、苦しさも、嬉しさも…
まったく分からないのです。

大人からは「たかが高校生が、なにをほざいている。」と鼻で笑われそうなことですが、では、笑った大人に聞きます。「恋する」とはいったい全体なんなのですか?

好きになることと、恋することは少し違う気がします。
好きな人ならたくさん居ます。
いままで私の側に居てくれた家族であったり、幼馴染みの女の子であったり、恩師であったり、近所のおばちゃんやおじちゃん。
みんなみんな、好きです。大好きです。

じゃあなんなのか?
ありふれた表現で表すと、ライクとラブの違いでしょうか?
気になったのでこれも、日本語辞典で調べてみました。
ライクとは、尊敬や単純な好意、親近感。尊敬の念を抱く。単純にいい人だと感じる。自分とよく似ていると思うこと。
ラブとは、独占、依存、自己犠牲。その人なしの人生が考えられない。誰にも渡したくないと感じる。その人の為なら何でもできるという情熱があることらしい。
これを見て、ハッとしました。



私、独占欲も依存も自己犠牲も無い。



私は執着というものがまったく無いことに、今さらやっと気が付いたようです。

誰かに依存したい気持ちも、誰かのために己を犠牲にする気持ちも、まったく理解できないのです。
自分を押さえてまで、何故他人と関わる必要があるのか、何故そこまでして誰かの側に居たがるのか、それが理解不能なんです。



だからあの日、あの3月14日のホワイトデーの告白は、忘れることも目を逸らすことも、記憶から消すことも出来ないでしょう。
だって、自分が「オカシイ」って事に初めて気がついた日ですから。


『好きです。』

私の幼馴染みは、顔を真っ赤にしてそれでも、ハッキリとした声色で多分、人生初である告白を私にしました。

私は彼のことも好きでした。
勿論それは、先程の好きと同じでライクのほうで。
だから本当に突拍子の無いことで、まさにはとに豆鉄砲。
自然と顔が赤くなるのがわかりました。しかし、それは嬉しいとか、告白だから、という可愛らしい理由ではありません。


私に一生懸命、精一杯気持ちを伝えてきている彼に、ひとつも心が動かなかった事に対する羞恥からでした。


関わりのない、他人からならまだわかります。でも、相手は幼稚園の頃からの親友で、小学校と中学校とずっと仲良しでいた友達からなのに、まるで重い石のように心は動かなかったのです。


それが恥ずかしくて、恥ずかしくて。
いてもたってもいられなくなりました。


でも、告白の返事は返さなければ、彼に失礼です。これくらいは、キチンとやらなければ、私はきっと罪悪感と羞恥で死んでしまいそう。

だから、答えます。
あなたとは付き合えないと。

言ったら彼は、じゃあねと、踵を返してしまいました。

待って!

これじゃあ、駄目です。
これじゃあ、彼を傷つけたままになってしまいます。

それは、嫌だ。
思っただけの言葉をつらつらと並べたから、支離滅裂で訳の分からない、断り文句。こんな断りかた聞いたことありません。

言葉を1つ、1つ、紡ぎだしていくたび、心が痛かった。
相手に失礼とか言いながら、結局は自分の保身。自分が可愛いから守るために断っている。

嗚呼、なんて最低な人間なんでしょう。これでは、太宰治みたいに「人間失格」です。

感情なんて、消えてしまえば良いのにとこれほどまで、思った日はありませんでした。
生きていることを、これ程まで恥ずかしいと思った日もありませんでした。


聞き終わった彼はただ、一言「うん。」とだけ言って帰りました。
そのときの表情も忘れることが出来ないでしょう。
あんな、悲しいような、それでいて晴々とした、たくさんの感情が入り乱れた表情は初めてでした。

彼を傷つけた。
どう足掻いても、これは断った私が悪いんでしょうか。でも私はお人好しではないですし、なあなあで付き合うことも出来ません。それに、善意で付き合うほど、私は利口で賢くて優しい人間ではありません。


いなくなったあと、部屋に大急ぎで駆け込みました。
ヘッドフォンをつけ、iPodで音楽を大音量で聴きます。
最近入れたばかりの英語の歌詞の歌が流れてきました。

一瞬だけでもいいから、すべてを忘れたくなりました。
今の出来事は夢で、目が覚めたら何もなかった。そんなことを夢見て音楽に逃げました。


『好きです。』


頭から離れない、あの言葉。


他人からの好意は想像していたあの、甘いふわふわしたケーキのようなイメージは、粉々に破壊され、ただ苦い焦げたクッキーを口いっぱいに詰め込んだ気分です。

なんなんだ、これは。
頭の中が、グルグルしていてキモチワルイ。
英語の歌から今度は、明るいノリの良い歌が流れてきました。

"あなたの声が聞きたくて
あなたの顔が見たくって
ちょっと冷たくされただけで
すっこぐへこむし
笑ってくれただけで
すっごく嬉しい
きっとこれは
誰もが生まれたときから知っている
誰かを好きになるキモチ"

最悪だ。
こんなときに恋愛ソングが流れてきました。
空気読めiPod。
誰もが生まれたときから知っている?
ああ、確かに生まれたときは知っていたかもしれない。
けど、気がついたら忘れていました。こんな感情知りません。


一体全体、私の身に何があったのでしょうか?


どうしてここまで、人を理解することが出来ないの?
私はオカシイ?




ごめんね、私
自分が気持ち悪くなっちゃった。





-End-

 

[back]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -