本音のキモチ


×「ホントのキモチ」の彼side×

木枯らしが吹くような寒い日の夜、俺一人ぼうっと、アイツの事を考えていた。きっと俺はアイツのことが好きなんだと思う。
ただ、気がついたら頭から離れなくなっていた。幼馴染みというには短い付き合いで、友達と言ったら濃い付き合い。そんな友達以上恋人未満な中途半端な俺らだった。
仲が良くて、よく二人して遊んだし、お互いの家にも行ったことも数回ある。お陰でどっちも家族ぐるみでなかがよくて、もはや家族みたいな仲と言っても過言ではないくらいだった。
だから、きっとお互いに今の距離がひどく居心地がよくて、すごく幸せなんだと思う。そう勝手に決めつけていた。
だけど、ある日。
俺はアイツの事を好きになっていた。理由を聞かれたら困るが、とにかく好きになっていた。真剣な顔してふざけた話をするような、笑いながら泣き言をいうような、メチャクチャで支離滅裂な不完全なアイツの事を好きになっていた。

だから伝える。

好きだって。


恐る恐る見慣れた番号を携帯のディスプレイに映す。いくら見慣れてるとはいえ、心持ちが変われば意味合いも変わる。電話で緊張するなんて、ましてや、相手はアイツと来たもんだから世の中、何が起こるか分からない。
ようやく通話ボタンを押して、携帯を耳に当てる。

プルルル…プルルル…

コール音が耳を通じて頭に響く。いつもと変わらない通話音量なのに、何故か大きく聞こえる。

ピッ

あ、繋がった。

『も、もしもし?』

少し戸惑ったような、高い声。
嗚呼、アイツの声だ。

「…おう。悪い、いきなり電話なんかして」
『だいじょーぶだよ、それより電話なんて珍しいね。どうしたの?』
「あー…あのさ、」

半ば勢いで電話したから、なんて言ったら良いか、どう伝えたら良いかなんてこれっぽっちも考えていなかった。

『?どうしたの?』

心配するアイツの声。電波が悪いのか弱いのか知らないが、時々嫌な音とが耳を掠めてイライラする。そのせいで、言いかけた甘い台詞は音にすらならない。向こうには黙っているように聞こえるかな?
でもさ、ここで男見せなきゃ格好つかねぇよな?

「よし」

小さな決意を呟いて背筋を伸ばす。

「あのさ、」
『うん、なあに?』


「好きです」


その時、俺は時が止まったと思った。
さっきまでイライラと感じていた音も聞こえなくなって、電話越しの相手のことしか感じれなくなっていた。
こんな事、産まれて初めだ。
初恋とまでは言わないが、こんなに相手の事しか考えられない恋なんて、はじめてだ。さっきまで好きかもしれないなんて思っていた自分が馬鹿馬鹿しい。俺は、どう考えてもアイツのことが好きだ。
すると笑い声が聞こえてきた。可笑しくて笑っているんじゃなくて、自然とこぼれたような落ち着いた笑い声。でも、すこし焦る。

「お、おい。」
『ふふっ、ありがとう。』
「!それって…」
『私も、好き、です。』

高いアイツの声はすんなり俺の耳を通りすぎた。そしてゆっくり体に浸透して行くみたいに"好き"という言葉は俺を包み込んだ。

ヤバイ、幸せだ。

「っはー!緊張したー!!」
『聞いてるこっちも緊張したよ』

高鳴る心臓をよそに、 安堵のため息が一番最初に出てきた。アイツのカラカラとした笑い声がちゃんと聞こえる。あ、俺たち繋がれてるなんて当たり前のことしか思い浮かばない。落ち着かないな。

『で、でもさ、何で付き合おうって思ったの?友達のままでも幸せだったと思うけど…』

付き合おうと思った理由。ありきたりだけど、一番答えに困る質問だ。ここで格好いいことの一つや二つ言えればいいんだろうけど、俺にそこまで気を使う余裕はない。だから思ったことを言うことしか出来ない。

「あー…なんだろな、気が付いたら好きになってた。理由は後々分かるだろ。でも、好きなんだ。」

照れて顔が赤くなるのがよく分かる。兄貴は飲み会で、母さんが夜勤でほんと助かった。こんな赤い顔誰にも見せれない。

『うわー…照れる。』

また聞こえる笑い声。でもこれもこぼれたような声。この声少し好きかも。そんなこと言ったらアイツはどんな顔するのかな?今度会ったら言ってやろう。

「じゃあお前は俺のどこが良かったんだよ?」

俺からも当たり前な質問。
俺だって正直ダメもとだった。だって俺格好よくもなければ、素敵でもない。駄目なところを、弱っているところをたくさん見せてきたのに、なのにアイツは好きだって言ってくれた。

『…照れるなぁ、でも、私もそんな感じだよ。気が付いたら好きだった。一緒にいて楽しいし。それに…』
「それに?」

思いが実は同じだったことに嬉しくなる。何だかんだで似た者同士、通じるところがあるんだな。
それに、と少しの間。

『素直になれる。側にいて凄く自分でいられるんだ。』

そんな台詞、顔が赤くなるだろ。
真っ赤になって何も言えなくなる。きっとこれが幸せなんだ、きっとこれが好きってことなんだ。嬉しくて嬉しくて、両目にうっすら涙が浮かぶ。これは絶対アイツには言わない。

『おねーーーちゃーーん!!!』

遠くから聞こえるアイツの弟の声。ここまでみたいだ。あとのことはメールでもしよう。でも、もっとこうして話していたかった。嗚呼、残念だ。

『ごめん、弟くるからあとで!』
「おう。…あのさ、最後に」

最後にもう一度言いたい。愛しいアイツに一言言いたいんだ。ごめんな、弟が来るところだけど、言いたいんだ。

「好き、またあとでな。」

プツッ!!
通話終了の文字がディスプレイに写る。頭の中をグルグル忙しく回るのは、アイツからの一言だった。

「好きです」

心臓の音はドンドン大きくなって煩くて仕方ない。本当に俺はアイツの事が好きなんだって知らされた気分だ。

「オイコラ、優しいオニーサマが帰ってきたのに一言も無しか。」

いきなりドアを開けてきた兄貴に驚く。玄関のドアが開いた音も階段を上ってくる音もなにも聞こえなかった。どれだけ俺はアイツに集中してたんだ。

「優しい兄貴はノックもしないで弟の部屋に来ないっつーの、土に還れくそ兄貴。」
「ほーぅ…可愛くねぇな。ずいぶん口が達者になりやがって…お?」

何かに気がついたように、兄貴は俺の顔をジッと見る。

「な、なんだよ。」
「やー…お前、何でそんなに顔赤いんだよ?エロ本でも読んで最中だったか?思春期boyよ。」

最悪だ。
赤い顔がバレるなんて。
なんて取り繕うかと思ったが、いつかはバレることだし、きっといつかは言うことだ、ほんの少しほのめかすぐらい別にいいよな?

「母体に戻れ、くそ兄貴。」
「じゃあなんだよ」

「すげぇ幸せなことがあったんだよ。」



願うことは、いつまでもアイツが俺のとなりに居てくれること、俺の隣にアイツがずっと居てくれることかな。



-End-

 

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