仮間輝×阿部真人
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「はぁ…」
体が、熱い。
まだ夏も来ていないのに、体が火照って炎天下を歩いてるように額から汗が落ちる。工業を選んだ最大の難点はこの暑さだと思う。真夏だろうとなんだろうと安全のため通気性の悪い作業着を着る。今日みたいにバーナーを使っての演習の時は余計暑く感じる。
演習前に行われる安全確認や、作業確認のための教師の長い話。よけい暑く感じる。
ふと、となりを見ると他の奴らは俺と同じように暑そうなのに、1人涼しい顔をしてる奴がいる。
「ひっか」
「んー?」
よく見るとうっすら汗をかいてるが、やっぱり傍から見たら涼しげだ。
「暑くねぇ?」
「それなりに、でも我慢できる」
「そっか」
「だって真人みたいに中にTシャツ着てないし、あっついでしょ?」
「あー確かに」
そう言えばと、まだ大丈夫かと高を括った数分前の自分を恨む。少し肌寒いくらいだし、なんて今の自分だったら間違ってもそんなことは思わないのに。
首筋まで汗が落ちてきそう、そんな風に思ったら一気に演習が面倒くさく感じ、俺はため息をついた。
「ねぇ真人」
バチチッ!
大きな音が聞こえ始めた。どうやら作業確認の実演が始まったようだ。周りの人達が真剣にそっちを見る。俺もそうしようとした、けど。
「ひゃっ」
首筋を舐められた。
幸い、俺の小さい声はバーナーの音でかき消された、周りは気づいてない。
それから耳元に輝の顔が近づいてきて、息が掛かる距離で、ささやいてきた。
「エロい方が悪いんだから」
少し高い輝の声は耳から脳に一気に届いた気がした。ゾクゾクと俺は危うく背中から来る快楽に正直になりそうだった。
これが夜なら良かった、タイミングの悪い相手を恨む。
輝は自由だ。それは、良い意味でも悪い意味でも。縛られない相手、縛ってこない相手と言うのは本当に付き合ってきて楽だ。しかし、その自由さ故に不安になることもある。それでも、不安なる度に抱きしめたり、キスをしたりして満たしてくれる。でも、それは今じゃない。
「勝手に盛んな!」
小さな声で抵抗する。まだ弱い耳から輝は離れない、それどころかいつの間にか腰に手を回されている。
「だから言ったじゃん、真人が悪いんだからって」
「ふっざけんなよ…!」
「だって、汗かいてて首筋ちょーエロいんだもん。そりゃあやりたくなるよ」
また首筋に舌を這わす。ざらざらとした舌の感じがダイレクトに伝わる。弱いところを知り尽くしている輝は遠慮なく攻めてくる。腰の手も乗せるだけでは無くなり、いやらしく、何かを探るように、まるで愛撫するように触ってくる。
「やぁっ…!」
「えろーい」
「ホント、いい加減に」
「はぁーいストップー♪」
その二人の間にサトが入ってきた。にこにこ、にやにやと人の悪い笑みを浮かべている。
「お盛んなのはいいけどさ、今は我慢の時だよ輝クン♪」
「いいじゃん、サト」
「俺は良くても真人クンが危なそうなんだケド」
「サ、ト?」
少し潤んだ瞳でテトを見る、その表情は実に官能的だ。
救世主のようにも見えた、なんだかんだ言って忘れてしまいそうだが今は授業中だ。いくら他人の関心がコッチに向いていなくても、だめだ。
「真人も抵抗しなきゃ駄目デショ、愛しの恋人からの要求でもねぇ」
「真人はいーの、俺がやりたいからやっただけし」
「ほんっとお盛んだねぇ輝」
「それほどでも」
「こらぁお前ら話聞いてんのか」
ちょうどよく教師の声がコチラに向かってくる。普段から真面目とはかけ離れたメンバー故に目もつけられている。いつもならウザイと思う所だが、今だけは助かった。
それから演習も滞りなく終わり、作業着から制服へ着替える。
さっき話を聞いてなかったせいで、少し小言を言われ遅れて着替える。更衣室におれたち三人しかいなかった。
「あーあ、どっかの誰かさんが盛ったから小言聞くことになったなぁー」
「だれだろうねー」
「オメェだよばーか」
「はいはい、真人ごめんね」
「ねぇ俺には?輝サン?」
黙々と着替えていたのに突然話を振られて驚く。そして適当に返事をしてまた着替えに戻った。
まだ体と心臓がドキドキしている。耳元で囁かれた感覚、背中を駆け上がる確かな快楽。思い出すだけで体が反応しそうになる。
「ひっか、」
「ん?なに?」
「…今度は人のいない時にしろよ。」
ぴくん、輝は反応した。
「分かった、でもサトは悪い虫だから今のうちに主張しとくね。俺のだよって」
すると突然のキス、チュッ、なんて可愛らしい音が大きく聞こえる。
俺はへなへなとその場にしゃがみこんだ、赤い顔はサトに見られたくなかった。
以来、その時来てたTシャツを見るとその時を嫌でも思い出してしまう。
当分このTシャツは着ないことにしたのだった。
-End-
サト「俺いるんだけどこのホモ野郎ども」