阿部真人と町田辰徳の
思春期真っ盛りの会話

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「好きな人が男って変かなぁ」

昼休み、ぽつりとひとり言のような相談を親友からされた。

「いきなりどーした」

黒板の方で盛り上がってるひっか達をよそに、俺と辰徳は窓側の席に座っていた。

「あれ?キモチワルイとか言われる覚悟してたけど」
「…同性愛でガタガタ言うほど子供じゃねぇし、頭ごなしに否定する気にもなれねぇよ」
「真人がそこまで大人な気もしねぇけど」
「喧嘩売ってんなら言い値で買うぞゴラァ」

声はいつもより少し小さめ、周りに聞かれたくないんだろうな。
そして、話題を変えれば簡単にこの話をやめそうな気もして自分から話に行けない。

「俺さ、同性愛って自分に関係ないって思ってた。だって普通に女子好きだし」
「…そだな」
「でもさぁ、なんでかなぁ、好きになっちゃったんだよなぁ」

盛大にため息をついて、困ったように笑う。持ってきたお菓子を口に放り込み俺にも渡してくる。
コイツは、俺とひっかの関係を知らない。多分仲がいい親友同士程度にしか思ってないんだろう。それはありがたい、実にありがたい事だ、どうもこの時代のこの国じゃ同性愛は否定的だ。だからありがたいんだが、今の場合はカミングアウトしたって大丈夫だよな。

「あんな、俺ひっかと付き合ってるんだわ。まだ三ヶ月だけど」
「え、」
「あー引いた?」

ポカンと口をあけて虚を衝かれたように俺を見つめる。

「い、いや、俺だって男の人好きになっちゃったし、引きはしねぇけど…驚いたっつーか」
「そっか、いや実際俺は周りに助けられたと思うぜ。サトとかおもしろがるけど拒絶しなかったし、龍太郎は驚いたけど受け入れてくれたから、こうして付き合っていけてるんだと思う」

珍しく真剣に話す。
俺たちが言う愛だの恋だのは、立派な大人からみりゃ小さくて馬鹿馬鹿しいものなのかもしれない。だけど、俺たちはその小さくて馬鹿馬鹿しくて小さな世界で精一杯愛を見つけて、恋をして手を繋いでる。

ああもう、糞ったれ。

こんな甘い気持ち、付き合って以来だ。

「だから、その気持ちに否定的になんなよバーカ」

恥ずかしくなって、飲みかけのパックのいちごオレを飲む。
なんて甘ったるい。

「…真人がそんなに真面目に答えてくれるなんて思ってなかった」
「俺だって色々考えて生きてるんだよ」
「好きって大切だよな」

ポツリ、また独り言のように言い放つ。
しかしその言葉は、さっきよりしっかりと芯を持っていて簡単には変わりそうになかった。

「俺やっぱりアイツのこと好きだわ、こればっかりは嘘つけねぇ」
「ならそれでいいじゃねぇか」
「おう、さんきゅ」

今度はちゃんと笑って辰徳はまた一口、お菓子を放り込んだ。

「真人ーこれどーよ!」

ひっかが話しかけてきた。黒板にはびっしり描かれたひっかの絵、珍しく抽象的な幾何学模様(たぶん)が随所に描かれているかっこいい絵。

「いいんじゃねーの?」
「だろー」

満足そうににっこり笑って、また絵に何かを描き始める。こうなったら次の授業まで描きそうな勢いだ。

「…なぁ辰徳」
「んぁ?」
「俺も、好きってのに嘘はつけねぇわ」

そう言うと辰徳は少しだけ驚いたような顔をして、また笑った。

「お前の顔見りゃわかるよ」

チャイムが響く。

小さな世界の中の大きな愛。

残り少ない学生生活ぐらい、甘ったるくてぬるま湯のようなこの場所で愛を叫んで恋に溺れてもいいじゃないか。







-End-

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