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「ご安心を。検閲すれすれの内容も多々ありますが、すでに知人の憲兵を通じて話を通してますから、上に睨まれることはありません」
「なっ、勝手なことを!……大体、話を通した程度で、あの連中が納得すると本当に思っているのか?貴様、数人だまくらかした程度で、うまくいくと思うなよ!」

浅慮を咎めるように、激しくののしる男たちの声を歯牙にもかけず、女は軽く一蹴した。冷淡なまでに、一切の感情を廃した淡々とした声。そんな声で、女はそれが齎す利益を売り込むべく、舌鋒鋭く語り上げた。

「ええ、納得するでしょう。今、この国は兵士を求めています。彼らの身に降りかかった悲劇、それでもなお、高潔に戦った英雄。そういった一面を誉めそやせば、国民が兵士となるのをいとわない材料となる―――そして、売上の一部を領地奪還作戦の要となる調査兵団に寄付する。……いかがでしょう。何しろ、彼らは隣人を見殺しにしたという瑕がある。この程度でその罪悪感を晴らせるなら、彼らは喜んで買いあさることでしょう」

その説得に、あるいはもたらす利益に、少なからず心を動かされたのか、男たちは悩んだように口をつぐんだ。

場に、僅かな沈黙が落ちる。
そんな一瞬の静寂。
だが、その停滞を厭うように、女は静かに口を開いた。

「人は―――忘れられたときに、本当の死を迎えるといいます。このままでは、彼らの生き様は史書に一文書き添えられるだけ。数年もすれば、記憶からも風化するでしょう」

一転、静かに、そして真摯で切々と訴えかけるような声色で語られる祈り。

「ですが、己が生きた証を誰かに伝えたい、そう願って残した手記があり、われわれにはそれを広める手段がある。ならば、彼らの意思を後世に残すためにも、周知すべきではないでしょうか」

そこには、先ほどとは違った、彼女自身の思いが痛いほど込められており、聞いているものに、その言葉が彼女にとって、どれほどの意味を持つのかを、訴えかけていた。おそらくは、これこそが彼女をこんな無茶な行動へと駆り立てた理由。心から生まれ出た、願いの発露なのだ。

「――――――その気持ちはわからんでもない。……だが、」
「……いいえ、わかっています。私が無茶を申し上げているということは。一歩踏み出す選択を為すのは困難なもの。それが、あなたがたのように、他者の責務を負う立場であれば、なおのことでしょう」
「エーリカ……、そうか、わかってくれたか。ならば―――」

そう、ついに女は諦めたように軽く吐息を漏らして、物わかりよく、引き下が――――


「ええ、ですので、私が泥をかぶってでも、その背中を押して御覧に入れます」

らなかった。

「納得できたなら、この一件は――――いやまて、いったい、何を、した、のだ……エーリカ……?」

冷えていく空気。再度静寂に沈む空間。その痛いほどの緊張感は、壁を隔ててこちらにも伝わってきた。何しろ、目の前の頭も体の動きも鈍そうな男たちですら、息をのんで、耳を澄ましているくらいだ。

一瞬ごとに静かに解放の時を待つ空気。ひりつくような緊張感。嵐の前の静けさ。思わずと言った風に、目の前の男がつばを飲み込もうと、喉を鳴らした瞬間。

「ご想像通り、すでに発注済です。つきましては、もうここひと月分を蓄えた塩庫が空になったことをご了承いただきたく存じ上げます。つまり、今回は承諾では得なく、事後承諾の報告にまいった次第で」

軽く、投げ出された言の葉。
音を立てて凍り付く空気。
そして、次の瞬間、場に走ったとんでもない怒気に思わず誰もが身体を竦ませた。


「はぁぁ!?クソっ!やりやがったな、このアマが!」
「この*****!!甘い顔見せてりゃ、付け上がりあがって!内地の変態どもに売りに出してやろうか!」

なにかが激しくぶつかる音と、硝子が割れるような音が連続する。そして、殴りつけたような鈍い音が響いてくる。いくらなんでも、女性が私刑にあっているのだ。兵士として、これはさすがに見過ごせないだろう。

キース団長と顔を見合わせて、視線で会話をする。同時に立ち上がり、慌てる商工会幹部たちを尻目に、隣の部屋へと急ぎ、――――鍵のかかっていた扉を力ずくでこじ開け、それと同時に咎めるべくエルヴィンの前でキースは声を荒げた。

「調査兵団だ!これは、一体何事、だ――――」

見る見るうちに、声に力がなくなっていく。
さもあらん。一体だれが、この様を想像しただろうか。

窓は割れ、椅子が木屑となり、カーテンはただの布きれと化した、嵐が局地的に巻き起こったかのように荒れ果てた部屋。

その中央には――――片腕で、男の腕をねじ利上げ、もう片腕でつるし上げる、細い肢体の女性。そんな床には、屈強そうな男たちが死屍累々と、鼻や口から血を流しながら、転がっている。

そのあどけないとさえ言える横顔をさらした女は、開いた扉を気にした様子もなく、まるで舞台に立つ役者のように、すらりと立っている。男を締め上げたまま。そうして、部屋の奥でたった一人だけ、何事もなかったかのように座る男に向かって、台詞を述べるようによどみなく、そして高らかに口を開いた。

「あら?そんなはした金で満足できるのですか?貴方たちみたいな業突く張りが?」
「くっ、貴様……!」
「この売女が!恩を仇でかえしおって!」
「反対です。恩を感じているからこそ、こんな手段をとったのですから」

女が首をかしげると、さらりと絹糸のような髪が流れた。かすかに見える横顔だけでも、整っていると分かる輪郭。こうして実際に耳にすると鈴のように零れる声色。夜空を思わせる黒髪から見える白い首筋が、いやに印象的だ。そんな、細く華奢な少女めいた肢体と、この状況のギャップ。なにか悪い夢でも見ているかのようだ。だが、そんな男たちの動揺を気にも留めずに、清涼な声色でエーリカは、殺気だった周囲を見渡し

「エーリカよ、何が言いたい?」
「まあ、ここは騙されたと思って私に投資してください。―――絶対に、損はさせませんから」

恐ろしいほどに自信にあふれた、そして全く根拠のない声色で、悠然と語りかけた。


*****

エーリカが全力を出したらこうなった。なお、エーリカの頭は、資金繰り5割、自分とペトラのこと4割、なんか理想っぽいふわっとした感じのこと1割で構成されている。ほとんど金のことしか考えていない。

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