電気 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


微笑ましげにこちらを見つめ、きゅっと細められる暖かな色の瞳が、なんだかくすぐったい。
が、そんな至福の時を、無遠慮な男の声が打ち壊す。

「おい、ペトラ!行くぞ!!―――――おお、この間のヒヨコか」
「あ、オルオさん。って、ひよこってなんですか!」

このブロッコリー頭め、ペトラに色目を使ってるのを知っているんだぞ、と言った思いを視線に込めて睨みながらも、ムッとして言い返す。

「いや、ひよこだろ。初めて見たペトラにひたすらついていくところとか、刷り込み本能でもあるのかってちまたじゃあ有名だぞ、お前」
「な、―――失礼な。そんな本能ありません!ただ、恩を返したいだけです。ひ、人として当然でしょう!」
「おー、おー、そうだったかな。まあ、いいじゃねえか。いや、こんなこと話している場合じゃなかったわ。つまり、なんだ……ペトラ、集合がかかったぞ」

それだけ言って、ペトラとの時を邪魔した、いけ好かない男は踵を高く鳴らしながら、妙に切れ味よく踵を返して去っていく。

「……なにあれ、今回は誰の真似のつもりなのかしら、舌を噛めばいいのに」

全くだ。まねをする対象が何者かはわからないが、なんだか言動が周囲から浮いていて、キャラ設定間違っているようにしか見えない。あと、(頭が)モサ男の分際でペトラに近づかないでほしい。……いや、これがちょっとした独占欲からくる嫉妬のようなものだと自分でも理解しているが。


「とにかくあなたが元気そうでよかった。じゃあ私、もう行かないと……」
「そっか。―――ね、聞いたんだけど……遠征に行くんだって?」
「うん。3日後にね」
「そう、なんだ。あの、気を付けてね。――――まだ、ペトラに話したいことたくさんあるのよ!」
「大丈夫。こう見えて私の成績はかなりいいんだから、ちゃんと戻ってくるって。エーリカは心配性だね」

私の不安が滲む言葉にペトラはくすぐったそうに笑い、頭をなで繰り回して、人込みの向こうに消えていった。

大丈夫……そう口にしながらも、こちらを安心させるようなペトラの瞳の奥には、隠し切れない揺らぎがあった。そう、だって、誰もそんなことを断言できるわけがないのだ。訓練兵の中で一番すぐれていたという息子を持っていた老婆が、私に語ってくれた。

巨人に立ち向かうだけ無駄だったのだ、と。あれほどすぐれて、誇らしかった息子ですら、初めての遠征で骨すらも返ってこなかった。あの壁の向こうは人を拒む地獄。人は、ただこの壁の中で小さくなって暮らしておけばよかったのに。――――最初から勝てるわけがないのだから、と、切々と身を切るような声で語ったのだ。

その言葉に偽りはないだろう。―――――私の持つわずかな記憶が軋んだ音を立てて疼く。背後から遅い来る振動。掠める手。足元から這い上がってくる圧倒的な死の気配。ペトラはその恐怖に、今から立ち向かわなければならないのだ。

だが、彼らは足を止める事をしないだろう。
人はより良い未来を求める生き物だ。誰よりも高く、誰よりも先へ。際限のない拡大欲求。それこそが、人を人たらしめてきた原動力である。
そう、その心を忘れたとき、人は本当の意味で滅びるのだ。


だから、彼女を―――彼らを止めることなんてできはしない。
だが、この壁の内からでも助けることはできるだろう。

聞くところによると、巨人はほとんどを視覚に頼るらしい。ならば、その視覚をより効率的に奪う道具があれば、多少は役に立つのではないかと思ったのだ。いや、ほんの思い付きではあるが、概して発明は馬鹿みたいな思い付きから生まれるものである。

――――まあ、無駄になる可能性は大いにはあるが、酒場で弱みを握―――もとい、意気投合した飲んだくれの商人に提案したら、ノリで作ってくれるような気がする。いや、作らせる。持つべきものは友。みんな本当に酒が入ると口が軽くなってよろしいことですね。まあ、ダメもとだが、何もしないよりはましだろう。うん、まずは―――資金調達か。

容易いことでは全くないが、そのくらいハードルが高い方がやりがいがあるというもの。
なにより、できるかできないかではない。無駄になるかもしれない。だが、やらずに後悔するくらいなら、全力でやり切ってみせる。ただ、それだけのことなのだ。


prev / next