春眠 | ナノ
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ランサーズヘブンWB

「――あっ…」

なんと、ランサーは俺たちの前で、シャノンの指についた米までもなめとったのだ。


シャノンは驚いたように手を引こうとしたが、軽く食い込んだ歯に押しとどめられた。
濡れた指先をくすぐるように、ランサーの舌がなぞりあげていく。
それを呆然と見やり、いくらか遅れてその事実を理解した途端、シャノンは頬が紅色に染めあげ、首まで赤くした。
そうして、ランサーが彼女に腕を回そうとして……自分の手も汚れていることに気がついたらしい。
それを見た、シャノンは頬を赤くしたまま苦笑して、濡れた手ぬぐいでランサーの手を拭っていく。

「別に同じように舐めてくれてもいいんだが」
「調子に乗らないで」

耳まで赤くしながら、ランサーの手を丁寧に拭っていく彼女に、ワタクシ、嫉妬が隠せません。


「おっ!」
「!?」
「引きがきたぜ!おらよっと!―――おう、立派なタイじゃねえか。今晩はこれを食うか」
「あなたが作るの?」
「おう、これの礼だ。大雑把だがなかなかに旨いはずだぜ」
「―――ええ、楽しみにしているわ」

と嬉しそうに顔をほころばせるシャノンと、ランサーの姿は、まさにカップルの名に相応しい強敵具合だった。





日はまだまだ高く、これからが釣り時よと言わんばかりの、穏やかさ。
だというのに、だれたように後ろの体重を預けて片手で竿を持ちながら、もう片方の腕で体重を支えるランサー。
もうお前、釣りする気ないだろ。


そんな生ぬるい視線もいざ知らず、彼らは並んで座ったまま語り合う。

「つか、お前もうちょっと足を投げ出したほうが楽だろ」
「………だめよ」
「ん、なんだ。お前泳げなかったっけ?」
「い、一応泳げるわよ。ただ、その。水辺に行くと、よく水辺の女妖に足を引っ張られるから……」

なにそれ、怖い。

「ああ、お前昔っから、変な女に好かれたもんな」
「む、あなたに言われたくありません」
「はっ、そりゃそうだ。なら安心しな、俺がついてるからにゃ、指一本触れさせねえよ」

シャノンの頭に手をやって、なんでもないように言うランサーは、男の目から見てもかっこいい。


「クー、……」
優しげに頭を撫でる手が離れ、元の位置に戻る。それを寂しげに見たシャノンは、意を決したように眉に力を入れ、そのまま空いたばかりのランサーの手と、地面の間にそっと滑り込ませた。

「…………………」
「…………………」

シャノンはうつむいたまま、微動だにしない。それにつられたように、ランサーの息のつまるのが気配がここまで聞こえてくるかのようだ。思わず耳をそばだてている野郎どもまで、思わず口をつぐんでしまうような空気がそこにはあった。

そうして同時に目を上げたふたりは、瞳を絡ませあい、しばらく見つめる。
が、耐えられないようにシャノンの方から視線をぎこちなくそらしてしまった。だが、それを見たランサーの手に力がこもる。それを感じてか、彼女は海に視線を向けたまま頬を染めて、はにかむようにそっと微笑んだ。


っつーか、何でここでそんなことするのかな!
見ろよ、その背後。まるで墓場か葬式会場みたいな空気が流れているじゃないか!!


やっぱりそんな陰気な空気に見向きもせずに、ランサーは竿の先を見ながら声を上げる。

「あーー、なんだ、ならまずは手始めにプールでも行くか?」
「プール?」
「ああ、どうだ」
「ええ、いいけど。私水着持ってないわよ」
「マジかよ。んなら、まずは買いにいくか……おい、買ってやるから、水着は俺が選んでもいいか?」
「…変なの、選ばない?」

そんなランサーを、じとーとした目でシャノンは不審そうに眺めてみる。

「おう、選ばん選ばん」
「ふう、まあいいですけど。―――でも、買ってくれなくてもいいのよ。ランサーが働いた金銭なんだから、好きなものに使ったらいいじゃない」
「俺は人に指図される気はねえよ。俺が買ってやりたいと思ったから、出すんだよ。まっ、こんな時くらい男を立てろって」

その言葉にシャノンは目を軽く見張って

「ええ、それじゃあお言葉に甘えましょう」

花がほころぶように、可憐に微笑んだ。

「おう、そうしとけ」

なんということだ。挙句デートの約束まで取り付けたぞこいつ!
逆立ちしても挽回できない壁がアングラーたちの間に立ちはだかったのだった。


かくして、4度目にしてランサーの楽園は華麗に奪還されたのであった。

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