春眠 | ナノ
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テーブルの上には紅茶とスコーンがいい香りを漂わせながら、鎮座している。それらを口に運ぶたび、絶妙な甘さと香りが口いっぱいに広がり、思わず笑みがこぼれる。
目の前に座る、シャノンもその絶妙な味に驚いたのか、目をぱちくりと見開いて、

「―――こんなおいしいの初めてよ。凄いわね、貴方のアーチャー。もしかして、コックか執事の概念英霊だったりしない?」

などと手放しの賞賛の言葉を零すほどなのだ。かなり気に入ってもらえたんだろう。


ん、もうそろそろいいかな。
――――それで、SGは何時渡してくださるのでしょう?

「ええ、貴女になら、構いません。このSG、いつなりと持って行ってちょうだい」

胸に手を当てて、たおやかに返される返答。
……いや、だから、その肝心のSGの反応がないのですが。


「ええ…それなんだけれど、やっぱりいくらなんでも、衛士としての役割は最低限はこなさないといけないでしょう?ですから、この階層では貴女がSGを暴くことを受容し、抵抗しません。ですが、それをこちらから明かすことはできないわ」
「……つまり、どういうことだね」
「もう、察しているくせに、女の口から言わせようだなんて、酷い男ね」
アーチャーの言葉に、シャノンはむっと、拗ねたように唇を尖らせる。

そうして、咳払いを一つ、
「つまり、私ともっと話してSGを見つけて、ということです。私は何時でもここで待っているから、ね?」
そういって、小首を傾げてこちらを見てくる姿は、なんの悪意もなく、ただ純粋に会話を楽しみたいだけの少女に思えた。

…なら、いい、かな?
いずれにせよ、言葉を交わしてSGを暴かなければここを通れないのだ。
お茶をするだけで、言葉を交わしてくれるなら容易いものだと思う。
そうすれば、いずれSGも見いだせるだろうし。
まあ、今回の迷宮探索はちょろそうだ。この戦い我々の勝利だ!と言ってもいいのではないか、などと考えて、香気を漂わせる紅茶を、口に含んだ。


***

―――――なんて、気軽に考えていた頃もありました。


彼女と語り合うこと、主観時間にして数時間。
いくら言葉を尽くそうとも、生徒会の面々からの助言を受けて彼女と語り合おうとも、SGの反応は全く感じられなかった。
いい加減、自分が一体ここに何をしに来たのか、自分の存在意義を疑問に思ってイライラしてもいいくらいなのだが……彼女との会話が普通に楽しくて、そんな感情すら覚えなかった。

目の前に積み上げられるのは、甘いお菓子に、柔らかな会話。スウィーツでスイートな時間だけが過ぎ去っていく。
あまりの和やかさに、こちらの危機感を削ぐような術式でも組んでいるのかと、懸念を覚えるほどだ。
見ているだけで安堵させ、武器を放棄させてしまう彼女の微笑みに、脳髄がくらくらとする。敵地にて、警戒心をゆるゆるにしてしまうとは、恐るべき人心掌握術である。



『え?あんたが警戒心ゆるゆるなのって、いつものことじゃないの?そんな小動物系のささやかな警戒心で、胸を張られてもね……』

などと、赤い守銭奴Rの失礼千万極まりないことが、通信の先から聞こえてくる気がするが、無視である。
いや、本当に楽しいお茶会なのだ。だからこそ、本当に警戒心も探索欲も続かないのだが。
なにしろ、後ろに備え付けられた台所に心を奪われたアーチャーが、剣を捨てて、ボールと泡だて器を握ることに熱中するくらいなのだ。警戒心が解けるにもほどがあるというものだと思う。貴様が用意した単純な茶菓子など、俺の矜持が認めない……む、これは電子泡立て機と圧力鍋だと!?くっ、衛士権限、恐るべし、などと言って。
まったく、ノリノリではないですか。




………いや、もしかして、これは彼の秘密…か?

――――うん、これを追及するのはまだ早い気がするのでやめておこう。
SG的に。このイベントはもう少し後な気がするし、何より今欲しいのはシャノンのSGなのだ。
疼く左手から必死で意識をそらして、シャノンに向き直る。
しかし、このままではいけないことは、ふやけた頭でも理解できる。

『ええ、ですが彼女の警戒心の値は最低値まで下がっていると思われます。この好きにもっと、彼女の本質に食い込むような会話を交わしてください』

いや、だから、具体的にどうしろと?

「マスター、この程度の甘さでいいのか味見をしてくれないか?」

貴方は黙っていてください。緊張感が木端微塵に消えるので。
だが、彼女と向き合って話をするだけでは話が進まない。
一先ず、この際アーチャーの口車に乗ったふりをして、席を外して作戦会議といこう。
そうして、アーチャーの言葉に促されるように、さりげなく席をはずそうとして……躓いた。


なんと、まさかこの私が、凛と同じ、うっかり属性の持ち主だとは――――!
無個性主人公が新たなジャンル開拓。
ニュー(ステレオ)タイプに私はなる
……などと言っている場合ではない!

もしかして、この角度、某美人な英語教師ばりに、頭から直角に落ちているの、では――――!?



「マスター!」
「―――!?」


視界がぐるんとまわり、次に襲いくる痛みから身を守るように、目をつむって
――――……って、あ、あれ?痛く、…ない?

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