ぐすっ、グスン
あやなの大きな目から今にも零れそうな大きな雫。それでも、必死に我慢する唇は切れて血が滲んでいた。膝も擦りむいて、おでこは青く丸いコブが逞しく出来上がっている。あー、可愛らしい顔が虐められっ子みたいになっちゃって。

「あやな、だいじょうぶ?」
「だ、ン、だい、じょ、ぉぶ」

全然大丈夫なようには見えないよ。もう一度同じ言葉で慰めようとしたのに、今度はすんなり、涙声混じりに言うもんだから、もう言えなくなってしまった。

「泣くかと思った」
「泣か、ない」
「そうだね、泣いてないね」

今だに、グスン、グスン。鼻をする音がする。もしかして、鼻血でも出てるんぢゃないかとまた心配すれば異常はなかった。



もう少し早く言えば良かったんだけど、気付くのに遅れた目は確かに尖った石を見ていた。危ないっ、声が出てもちょっと遅い。勢い良く傾いた身体は一瞬だけ宙を舞い顔面着地。滑り込んだ数十センチは結構強烈すぎて、呆気に取られてしまったけど泥だらけの傷だらけの身体は軽快に起き上がっていた。


「ねー、あやな。痛かった?」
「痛くないっ」
「ぢゃーなんで泣きそうなの?」
「泣きそうぢゃないっ」
「我慢して偉い!」
「ゆかりの面のが痛いから」

ポツリ、呟いて笑う。まん丸いお日様のようで、赤い頬もなんだか美味しそう。キョトン、としてわたしもつられて笑う。「あたしのおかげ?」そんな冗談をあやなは真面目に「うん!そう!」って言う。恥ずかしいよ。なんだかわからないんだけどさ。

「ま、いいや!早くやろ!」
「だめ!手当てが先でしょ?」

放り出された竹刀を拾いに行く。その分距離を縮めてお隣さん。あやなは、自分の怪我なんてどうでもいいみたいで、竹刀の傷を確かめている。あー、良かった。あんまり傷付いてない。ってクシャって笑う。本当に嬉しそうに笑う。よかったね、わたし、あやなのそーいうところ好きだよ。きゅっと、閉じられた口からは絶対出ないから許して。


竹刀を担ぐ肩が揺れる。いこう、とあやなは手を出した。当たる、当てる、その分だけたくさん強くなれるよね。




手当てしよー。
うん。大丈夫だけど、ゆかりがそう言うなら。

裂けた唇を軽く舐めて、あやなは痛そうに笑うやせ我慢をしていた。






見えない目印


(私たちだけの特別な時間)




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