「す、好きですッ!付き合ってください!」

そう言われて差し出された可愛らしいハートマークのシールが貼ってある手紙が小刻みに揺れていた。今、目の前で垂れている頭もやっぱり同等に揺れている。そのおかげで、相手の表情も見えないし、自分の引き攣った顔も見られなくて済んだ。

わたしより一回り小さい彼女に、見に覚えはない。けれど、可愛い顔付きをしていると第一印象は良い方だ。雰囲気もおおらかで優しそう。着いて行くタイプだと、判断。人は見た目では分からないというから、勝手な判断程危ない事はない。そんな事、重々承知。現に現在進行形で危険と隣り合わせ状態。

背後の視線が痛い。背筋にぞわっと言いようのない寒気が走って瞬間背が伸びる。肩なんて強張ってカクカクだった。本当に目の前の彼女が見てなくて良かったと安堵する中、早く次の一手を出さなければ後が怖いと思った。

「わりぃ、、、」

小さく零した声に目の前の頭が上がる。うっすら、涙を浮かべた純粋までの瞳が分かっていたと言わんばかりに緩んで、笑った。

「ご、ごめんなさい。でも聞いて、くれて…あ、りがと、ございま」

語尾は嗚咽で消されてしまった。罰が悪い。なぜか、こちらが悪いことをしてしまったんではないかと錯覚する程に。それでも、やっぱりその好意は受け取れなくて、嬉しい事には嬉しいんだけれど、こういうのは曖昧にするのが一番達が悪い。ハッキリと、付き合えないと言えば、差し出された手紙をくしゃくしゃにポケットに入れて、律儀にもう一度「ありがとうございました」と感謝も添えるからたまったもんぢゃない。その場に立ち竦んだわたしは動けぬまま彼女の背を見送った。










「オイ…」

掛け声の後の沈黙が部屋を支配する。もう一度投げ掛けても、やはり無反応で、足を投げ出し枕を抱え込みながら雑誌を見ている祈はこっちを見ようともしなかった。

「祈、機嫌直せって」
「無理」

返答。これだけでも進歩。なぜなら、この一方的な冷戦が始まったのは20分も前のことだったからだ。

「仕方ないっしょ?ちゃんと断ってンぢゃん」
「あたしが後ろから見てたからでしょ?このタラし」
「待て!!祈以外にお付き合いしたコトもねぇーし、遊んだコトもねぇーぞ!」
「知ってるわよ!!そーいうことぢゃないの!」
「ぢゃぁ、ナンナノヨ?」
「……斗南さんってモテるわよね…」

腕に力が篭る。祈は枕をギュッと抱き締めた。枕に顔を押し込むもんだからくぐもった声は聞き取りにくいが、確かにわたしへと伝わった。結局、どうにもならない嫉妬と面白くない苛立ちと付き合ってても募る不安が祈を拗ねらせていた。多分、これは自惚れぢゃない。自分と一緒だったらいいなと思うのはここだけの話にしていただきたい。


「紗枝…」

滅多に呼ばない名前。横になる、祈りを背中から抱き締めた。

「斗南さんは背も大きくて」
「おかげサマで、祈を抱きしめられるぢゃん」
「不器用だけど優しくて」
「紗枝のが優しいよ」
「がさつで足癖悪いけどイケメンで」
「紗枝は、可愛いだろ」
「モテるのなんてわかってたけど…」
「紗枝もモテるっしょ…」




コッチも、不安なンだよ。

耳元で囁いた言葉は事実で隠すようにより一層抱き締めた。僅かに、祈が身動ぐ。緩んだ腕の中で器用に反転させた祈は今度はわたしの胸板に顔を埋めた。

「ゴメンな、」
「うーうん、あたしが悪い。ごめん」
「こーいう素直なところも好きだ」
「…」
「アンタにしか、こんなこと言わないし、言えねぇー」
「…」
「嫉妬してくれてありがと。スゲぇー嬉しいよ」
「……バーカ」


祈の腕が背に回る。スライドさせた顔が素肌に当たり、ちゅ、ちゅ、と唇が押し当てられて行く。好きにさせていたら、首筋へと落ちた。近い唇から吐息が撫でる。ブルっと一瞬震えてくすぐったさに目を閉じた。

こんな祈は滅多にお目にかかれない。
今日は最初っから、珍しい事尽くしだった。


「柊、好き…」

機嫌は直った模様。抱き締めて、素直になったのは正解。だから、見降ろした祈の顔が赤いのも瞳が潤んでいるのも、撫でられた頬も、誘うような情緒的なキスも、そんなあたしへのご褒美だ。


抑えられない愛と不安は結局のところ隣り合わせで、どうにもならないから確かめていくしかないのだ。








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