「ナァ、最近アンタが可愛がってる黒猫のムドォーって奴?だッーー「虎さんね、」」
「アー、トラ?まぁ、トラでもネコでもパンダでもナンデもイイんだケドさぁー」
「あげないわよ」
「ンー?いらネェーけどー」
「惚れても無駄だからね」
「惚れるとかナイから、違くてー」
「あ、あたしに惚れてもダメだからね」
「とりあえず聞け」


何処まで聞いてて何処に焦点を置いて投げ返されているのか。言葉が行き交う中、たいして趣旨の前進もなければ、会話さえ完了されない、このやり取り。半ばどうでもいい内容ではあるけれど、親切に一つ教えてやろうとしているこの気遣いを無下にする祈は眼前でプンスカ、頬を膨らましている。

「睨むなって、ブサイクが余計ブサイクになっちまうだろ!」
「玲に言い付けてやる」
「アーハイハイ。どーぞ、どーぞ」
「会長に言い付けてる」
「そりゃ、勘弁!ゴメン被る!」

白い机の下。視覚では届かない小さな攻防。爪先が脛をガツンと蹴ってきている。何度も何度も。場所が場所なだけに心なし痛い。地味な痛さとはこういうことだろうか。応戦しながら、片手に持つグラスを置けば膝が机の裏を打ち付けた。振動で倒れそうになり、慌てて手を伸ばし無表情で戦いを申し込む目の前のバカをジト目で見てやった。

「なによ?」
「あぶねーだろ!足癖悪いのはアタシだけで十分だわ」
「そうね。今当たったの斗南さんの足だしね」
「……」

下での冷戦。上での口論。下は激流、上は嵐。同じぢゃねーかよ。癪だが正論に息が詰まる。誤魔化すようにジュースを飲み込んであちらこちらに、目線のみを泳がせて、ーーあぁ、そういえば、と気付く。祈の奥を淡々と過ぎて行く虎を一匹見つけた。忘れていた。ほんの一時間前の出来事を。別段重要視するものでもなく、確実に私の優先順位は地下越えというランクなのだが、いかせん目の前の人物は彼女にゾッコンなわけで、些細な事でも伝えるべきかと悩んだのは少なからず良心ではあるのだろう。否、もしかするとたんに面白いからなのかもしれない。ハッキリ言えばどちらも正解。寧ろ面白さへの期待感の方が勝っていた。

「ナァーーいのり〜」
「黙って。あなたと話す事なんてないわ」
「そんなこと言ってイイんすかね?」
「なによ!?いいに決まってるでしょ!!?」
「ヘェー、虎の事でもか?」

瞬間、目が合う。怪訝にも警戒する、鋭い目はいかにも攻撃的だった。敵対視すげぇー、と思いながら少し優勢だということには優越感が募る。自然と口角が上がっていくのがわかった。


「無道さんが、、なに?」
「たいしたことぢゃないンっすけどねー」
「ふーん。で?」
「槇の刃友と虎のキスシーン見たってだけ」







沈黙。面白いぐらいの固まり具合。少しは反応するかと思えば全く動かず、呆気に取られていた。というより、完全にショックで脳が追い付いていないと言った方がしっくりくる。あまりにも予想以上だったために、やべっと、焦燥がジワジワ這い出てしまっていた。
うん、どーすりゃいいの?


罪悪感が少々募り始めた時、祈の肩がぴくっと僅かに動き、意識が全て祈に傾く。僅かに動く唇。ぼそっと何かを言ったが全く聞こえず、え?っと聞き直した瞬間祈が勢い良くテーブルを叩くから今度はこちらが固まる。


「だから、なんで早く言わないのよっ!!」

突然の轟音と怒鳴り声。そして無鉄砲に振り下ろされた掌。驚きに避ける事も出来ず理不尽に与えられた痛みに目が点になった。

「斗南さんっ!人で遊ぶのはどうかと思うのよね!前にも言ったわよ?あたし!!特に無道さんの事になるとあたしが暴走するの知っている癖に、ほんとっ嫌になっちゃう」

捲し立てられたの、かもしれない。否、捲し立てられた。自分の非はさて置き、祈は何食わぬ顔でわたしを怒鳴りつけている。なになに?わたしが悪いンですか?そーですか、さいですか。楽しんでたのは確かに間違ってねぇーけど、

続きはこの口から吐き出そうとした。しようとした。無理だった。何かを言う前に塞ぐ。劣勢になる前に阻む。逆頬に痛み。こいつ、わかってやがる。なにもかも。

「いてぇーっ!!!ナンデ、アタシは殴られてるンすかねぇ!!?ええぇ???」
「手が滑ったわ」
「嘘つけっ!!」

両者立ち上がった。集団の中で。公共という場の中で。今にも恐ろしい戦争が起ころうとする中、ーーわたしはヤるつもり満々だったが、それも第三者に妨げられ、不完全燃焼のまま中止された。

わたしは、声の方へ振り向いた。「あぁ?」
っと不良紛いな威圧も添えて。すれば会話内容の主。原因の根源が、無表情に立っていた。


「祈さん、ちょっといいですか?」
「なに?用があるならここでもいいでしょ」
「ここだと、、困ります。あなたがいいなら、いいんですけど…」

そう言えば無道は祈の耳元で何やら呟いた。すれば祈は真っ赤。リンゴのように熟した、女になっていた。そのまま、無道は有無なしに祈の手を引く。

「お、おい、ちょ、そりゃないっしょ?」
「あ、斗南さんこんにちわ。ちなみにガセネタやめてくださいね」
「ガセ?よく言うわ」
「ガセですよ、ゴミを取ってあげただけです。これは本当ですから」

そう言うや否や、わたしの悶々とする気分も知らず祈を持ち帰ってしまった。面白くない。実にヤられ損だ。苛立ちに乱暴な仕草で残り少ないジュースをグッと飲む。一つ、深呼吸をし、若干冷めてきた脳が鮮明にあの不敵な笑みを思い出していた。

さて、本当はどっちでしょーかね??






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祈さんがひたすら残念




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