Σ-シグマ-2 | ナノ
期間限定家族


「ナキさぁあぁあぁあごはっ!!!!?」

『抱きつかないでください明智部長、ど突き倒しますよ』

「もうすでに殴っているだろっ!!?な、何があった…部長は変態だが、無理矢理抱きつくなど珍しい」

『明日から海外出張なんです』

「ああ、なるほど」



ナキさんの補充がしたいっ!!と抱きつこうとした部長の横腹に慣れた一撃を加える

貿易会社な我が社。もちろん取引先には外国の企業も多く、今回、出張を命じられたのが明智部長だった




「ナキさんと数日どころじゃなく…に、二週間会えないなんてっ…私はどうしたら…!」

『いいじゃないっすか外国。私は2日で白米が恋しくなりますけど』

「せめて3日は我慢しろ。しかし部長が出張となるとその間…勝家は1人というわけか」

『あー、』




部長が家で預かっている高校生の男の子。男二人暮らしな彼らはもちろん片方がいなければ、もう一人が広い家で一人ぼっち




「もちろん食費などは置いていきますが…彼、手間だと感じれば食事もろくに取りませんから」

「そ、それは心配だな…少し様子を見に…」

「貴方が顔を出せば余計に意地を張って食べなくなるでしょうね」

「う゛…」

『それなら私、しばらく面倒見ましょうか?』

「……え?」

「は?」

『面倒見ましょうか』








…というわけで、





「不束者ですがどうか末永くよろしくお願いします」

『うん、部長が出張の間だけだけどよろしくね勝家くん』

「よく来たな、かついえっ!!よろしくなっ」

「ああ、頼む…キヨ」




綺麗な三つ指をついて深々とお辞儀をする勝家くん。その傍らには日数の割に軽めなお泊まりセット

部長が留守の間、我が家で預かることになった勝家くん。仲の良いキヨは嬉しそうに駆け寄り、佐助くんと小十郎くんは顔をしかめた




「だからテメェは…!俺らの正体がバレたらどうすんだっ」

『大丈夫、大丈夫、たぶん』

「ほんっ…と楽観的っ!!だいたいアイツ、ナキさんのこと狙ってんじゃん!そんな男置いて平気なのっ」

『平気だってば、あの子は…』

「同居…同棲…内縁…!」

『…あ、そうだ。紛うことなき部長一族だった』

「ほらなんか周りに花咲かせてるっ!!やばいってっ!!ほんとやばいってっ!!」



いつもは死んだような目をした勝家くんが、キラキラと輝きながら周りを見渡し落ち着きがない

友達が遊びに来た感覚のちびっ子たちは遊べーっと飛びついていくし。まぁ、うん、平気だよ気にしない




「部屋はどうしようか…キヨたちの書斎か、梵たちの寝室か」

「俺んとこっ!!かついえ、俺といっしょがいいよな、なっ!!?」

「なに言ってんだ!オレらと一緒だっ!!なぁこじゅうろ、いいだろっ!?」

「そ、それは、まぁ…」

「えーっ!!?なぁなぁさきちっ!!ぎょーぶさんっ!!俺らもっ…」

「……………」

「…ごめんなさい」

『おぉふ…』




佐吉くんが問答無用に首を横に振れば、ガックリ落ち込んだキヨ

やったーっと喜ぶ梵が勝家くんを勝ち取ったようだ。梵がここまで懐くなんて…やるな、勝家くん




「すまないキヨ…」

「…ううん、いい」

「い、いや…すまない」

「……………」

「……………」

「ヒヒッ、ほれキヨ。ぬしの友に家を案内してやらぬか、ここではぬしが先輩よ」

「友…私が…」

「っ、そうだなっ!!行くぞかついえっ!!こっちからだっ」

「あ、ずるいぞオレもっ!!」

「ワシもだっ!!」

「それがしもーっ!!」

『転ばないでねー』




勝家くんの手を引っ張り駆け出すキヨ。それを追って梵、竹千代くん、弁丸くんも走っていく

家族が増えたからね、やっぱり嬉しいのかな。笑ってじゃれるちびっ子たちが微笑ましい




「…だがナキ、気をつけよ」

『刑部さんまで…大丈夫ですよ勝家くんは、あれで真面目な良い子ですから』

「いや、あの男はぬしの料理を美味いと言う奇怪な舌を持つゆえ」

「ああ、調子に乗って食わせると身体を壊しちまうな。そりゃ気をつけねぇと」

「あ、毒的な?俺、解毒剤作ろっか?」

『禿げ散らかせお三方』




…解毒剤はお願いします















「…すごい量の本だ」




買い物に出かけた彼女、そしてその息子たちを見送った

客人である私はゆっくりしろと言われたが…いったい何をすればいいのか。とりあえず好きに使えと案内された書斎へ向かう




「難しい本ばかり…洋書もある…あ……ふっ、絵本か」




思わず笑ってしまったのは、本棚に入りきらず床に積まれた絵本たち

恐らくキヨや弁丸のものだろう。これを毎晩、子守歌のように彼女が読み聞かせているのか




「ん…?」




そしてその隣には、彼らが読むには少し退屈であろう児童書

ふと手を伸ばして拾い上げようとした、その時…





「触れるな」

「っ…………」

「我の物ぞ、勝手に触れるでないわ」

「あ、ああ…すまない…」

「………ふんっ」




いつの間にか書斎の扉前に立っていた少年。私もではあるが、それ以上に切れ長な鋭い目でこちらを睨んでいる

彼は確か…松寿、と紹介された。うかがう私を鼻で笑ったかと思えば本を拾い上げ、隅にあるクッションへ座り込む


そうか、ここは、彼のテリトリー




「お前は確か…彼女の従兄弟、と」

「……………」

「…そうか、私と似ているな」

「黙れ、貴様と一緒にするな」

「っ、すまない、私と同じなど…気分を害したか」




だがそう言ってしまうのも仕方がない。私も親戚の男のもとへ身を置いている、家族から離れて

彼に世話というものをされているかは疑問だが、他人である私を追い出さずにいてくれるのだ…感謝はしている




「本が好きなのか…彼女も好きだと聞いている。これほど本に囲まれていれば退屈もしない」

「……………」

「私も好きだ、独りでいる時間も多いから…短い間ではあるが、暇があれば読ませてもら…」

「貴様の企みに我を巻き込むな。媚びを売るならばガキ共に売れ」

「っ…………」

「ふん、ナキに気に入られるために我を攻略する気か。我は何も取り計らわぬ」




少年が読んでいた本から視線だけを外し、私を見る

冷たい。そしてその表情が作るのは私への嘲笑




「他人の顔色をうかがう貴様のような男ほど、つまらぬものもない」














『お泊まり1日目にして勝家くんが家出したって何事っ!!?』

「お、お姉ちゃん、ごめんなさい…!俺がちゃんと、見て、たらっ…!」

『落ち着いて弥三郎くん、何があったの?』

「分かんないけど、松寿が書斎に入ってすぐ…ボロボロ泣きながら、柴田のお兄ちゃんが出てきて…」

『犯人は松寿くんかっ!!ほんと、あの子は容赦ないなっ…それで出て行っちゃったのか』

「う、うん、すぐに宗兵衛が追いかけて行ったけど」

『宗兵衛くんが?』













「私はっ…私は、なんて、浅ましいっ…やはり私など…!」

「そんなことないって!好きな子に好かれたい、当然だろ?手段を選べなくなるのも恋ってやつさっ」

「っ…………」




公園のブランコに座り込み、少し抉れた地面を見つめながら泣く私

その隣で同じくブランコを揺らす少年は端から見れば青年のようで、男二人、ブランコに乗る姿はなんとも怪しいだろう




「だが私は確かに、彼らにも好かれたいと願っていた…彼女に、近づくために…!」

「そりゃあわざわざ嫌われたい奴なんていないさ、みんな好かれたい、それも当然っ」

「お前もなのか…?」

「俺も俺も!みんなで仲良く暮らしたいさ。もちろん勝家ともなっ」

「…物好きだな」

「え、酷いっ!!」




そう叫びながらも少年は笑う。彼も、彼女の親戚であると聞く

ならば私と同じ…なのに何故、こうも明るく笑っているのか。立ち漕ぎをしながら長い髪を揺らす宗兵衛は、私を見下ろして話を続ける




「勝家が嫌な奴だったらキヨも梵天丸も、他の奴らもあんなに懐いてないと思うよ」

「それは…私が邪な思いを抱えながら、遊んでいたから…」

「本当に邪だったのかい?」

「っ…………」

「ちびたちも、勝家も。俺からは楽しそうに見えたけどなぁ…楽しくなかった?」

「そ、それは…」

「へへっ、ほらな!じゃなきゃ俺だってここまで追ってない、よっと!」

「あ…」




勢いをつけて飛び降りた宗兵衛が、ブランコから少し離れた場所に着地する

そろそろ夕飯だなーっと伸びをした、そうだ、もう夕暮れ。彼女ももう家に帰っているはず




「言っとくけど、うちにいる間は家族だ、けど働かざる者食うべからず!」

「っ…もちろん、私にできることは手伝っ…」

「俺の家族がよく言ってたんだよなぁ、料理上手いけど怖くてさっ」

「……家族?」

「あ、いけねっ!!ほらほら勝家っ!!怖い顔した小十郎が探しに来る前に行こうっ」

「あ、ああっ」





駆け出す宗兵衛を追って、今の家へと帰っていく

夕暮れ時特有の良い匂い…それは家が近づくほど鮮明に香ってきた













「うあ゛ぁあぁあぁあんっ!!!」

「う゛ぇえぇえんっ!!!!」

『え、ちょ、何事っ!!?なんで弁丸くんとキヨが泣いてるのっ!!?』

「す、すすすまないっ…え、絵本を、読み聞かせていた、つもり…なのだが…」

『え、勝家くんが?ちなみに何て本?』

「浦島太郎」

『それをどう頑張って読んだら子供を泣かせちゃうのかなっ!!?』





20150429.


←prevbacknext→
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -