「ったく、お前さんは相変わらず分からず屋だな三成!気分転換も大事だろ、なぁ御狐様?」

『は、はいっ』

「狐を甘やかすな官兵衛。時には鬼となり追い込まねばならん、貴様も自覚はあるな狐?」

『え、えっと…』

「はっきり答えろっ!!貴様は店で勤めを果たすのかっ!?官兵衛とサボるのかっ!?」

「決めていいんだぞ御狐様っ!!小生と息抜きするのか、三成に怒鳴られながらけぇきの試作をするのか」

『ひいっ!!?え、選べって言われても…!』

「狐っ!!」

「結っ!!」

『ぅ……!』





お店の真ん中で私を挟み、いつになく激しく口論を繰り広げる官兵衛さんと三成さん

原因である私はといえば、いつも通り優柔不断で返事を決めかねていた


店がお休みの今日、遊びに出ようと誘ってくれた官兵衛さん。その様子を見ていた三成さんが待ったをかけてきたんだ




「狐…貴様は確か今月中に新作のれしぴとやらを3つ、考えると言っていたな」

『は、はいっ』

「…今、いくつだ」

『……ゼロ個です』

「遊びに出かける暇などあるかっ!!貴様は台所から出るなっ!!今日中に完成させるつもりで励めっ!!」

『す、すみませんっ!!すみませんっ!!!サボっててごめんなさいっ!!!』

「いやいや、御狐様は悩んで悩んでその上で案が出ないんだろう?根詰めすぎなんだ、息抜きして何が悪い」

『官兵衛さん…』

「貴様が狐を連れ出したいだけだろう。もっともらしい嘘を吐くな」

「おう!小生が御狐様と出かけたいんだ、邪魔するな三成っ」

「貴様ぁあ…!」




…官兵衛さんの言うとおり、私の新作レシピ作成は滞っている。いわばスランプだ

季節の変わり目はメニューの変わり目。新作ケーキを待ってくれてるお客さんもいる、だけど…




「1日ぐらい構わんさ。三成こそ見張りと称して結と一緒に過ごしたいんじゃないか?」

「貴様ら贄と一緒にするなっ!!狐っ!!早く選べっ!!」

『あの、えっと、じゃあ…!』

「おっと待ったっ!!御狐様、ちょいと耳を拝借っ」

『へ?』




とんとんと私の肩を叩いた官兵衛さんが、耳に口を近づけてボソボソと囁いてくる

三成さんの視線が痛い。いやそれより、官兵衛さんが私に伝えてきたことは…




「おい、いったい何を企んでいる」

「言うもんか!小生と御狐様の秘密だっ」

『あ…で、でも…私…』

「いいからいいから!小生の言うとおりにすりゃいいんだよ、な?」

『ぅうっ…でも、そんなこと、私できませんっ!!』

「あっ!!おい待て結っ!!結ーっ!?」

「ふんっ…狐に何を言ったかは知らんが、ふられたな官兵衛」

「うるせぇっ!!くそ、こんなはずじゃ…おーい御狐様ーっ機嫌直してくれーっ!!」

「……官兵衛め。狐が逃げる程だ、余程のことを言ったに違いない」





さて、戻るのを待つかと。三成さんが席につく気配がした














『か、官兵衛さん…本当に二階から出て行くんですか?』

「おう!三成は今頃、小生が結を不機嫌にさせたと思い込んでるからな!さらっと逃げちまおうっ」

『でも、バレたらもっと怒られるんじゃないかと』

「その時はまた言い訳を考えるさっ、と!ほら結、小生目掛けて飛び降りてこいっ」

『えいっ!!』

「うぉおっ!!?」





所変わって二階の窓辺。一階にいる三成さんから逃げるため、官兵衛さんから提案されたのは一芝居でした

彼を拒んだように見せかけ、死角である二階から出て行く。バレてしまうんじゃないかという怖さ半分…ちょっとしたドキドキ半分


後者が勝った今。先に飛び降りた官兵衛さん目掛け、私は窓から飛んだ





「ほ、本当に飛ぶとは思わなかったな…!」

『ふふっ、昔はお転婆してたので。二階くらいなら朝飯前です』

「ははっ!!さすがは御狐様だ。じゃあ三成に気づかれる前に行くかっ」

『はいっ』




尻餅をつきながらも私を受け止めてくれた官兵衛さん。互いに顔を見合わせ立ち上がる

けどまさか、三成さんがあんなにあっさり引っ掛かってくれるとは思いませんでした




「ふっふっふっ…三成め、ここが戦場なら御狐様に首を取られていたな!」

『ふふっ、背後を取ったってやつですね!私も忍になった気分ですっ』

「どうだ、小生だってちゃんとした軍略練れるだろ?」

『はい!さすがは豊臣の軍師さんですねっ』

「そ、そう素直に褒められると照れるな…いや、御狐様を連れ出すためだからな!今なら半兵衛や刑部だって出し抜けるさ」




照れ隠しで頭を掻きながら、空を見上げた官兵衛さん。私も同じ方を見つめる…うん、絶好のお出掛け日和ですっ





『…ありがとうございます官兵衛さん』

「んー?」

『私が行き詰まってたから、外に誘ってくれたんですよね?ありがとうございます、』

「何のことだ?言っただろ、小生が結と出掛けたかったんだよ!」

『ふふっ、はいっ!!』

「ははっ、さてと。いざ抜け出せたはいいが何処に行くかな」

『え、決めてなかったんですか?』

「まぁな。よし、次に風が吹いたらその方向へ行こう!風の吹くままってなっ」

『いいですね、風任せ。きっと素敵な場所にたどり着けますよ』

「おう!御狐様が飽きるまで、どこにだって付き合うさ」






私もです、アナタと一緒なら…帰った後、三成さんに叱られるのも平気な気がします。たぶん






20161008.
「どうだ、小生だってちゃんとした軍略練れるだろ?」

この後めちゃくちゃ怒られた((

官兵衛の賢いのに空回るカッコ良いのか悪いのか分からないとこ好きです…ただ報われることは望めない…愛故、愛故です…!


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