『じゃあね三成、真田君。学校頑張ってっ』
「はっ!!全身全霊をかけ学業に励みますっ雪子様!!」
「見ていてくだされ雪子殿ーっ!!某、次のテストは赤点から抜け出してみせますぞっ!!」
『う、うん頑張ってねっ!!ほんと頑張ってねっ!!』
朝から一抹の不安を抱きつつ、高校の方向へ向かう三成と真田君を見送る私…そんな、いつもの朝だった
さて、私も大学に行かなくちゃ
今日は帰りに前田と買い物に行って、先月手伝ったレポートのお礼を買ってもらうし、夕飯には大谷さんや片倉さんも来るって言うし
『んーっ、今日も忙しい!さてと、夕飯の買い物も前田に手伝ってもらうとして帰りは…』
「わんっ!!」
『へ?』
さあ行こう、と進行方向を向いたその時。私の足元で柔らかい何かが揺れる
とっさに足を止め下を向けば…可愛いわんちゃんが、じっとこっちを見上げていた
白い身体に黒い模様。両頬に流れる黒い筋、ふてぶてしい目に映る私の顔は強張っていた
だって似てるんだ。よく知るダンディズムに。頭の後ろにあるキノコのような模様も
『……………』
「……………」
『…そのちょんまげとおひげは、まさか………まさか、松永さんですか?』
「おや、一目で見抜くとは。さすがはホトトギスだ」
『ええー』
可愛いわんちゃんには似合わない渋い声が、私にそのまさかを告げていた
『…で?いったい何を食べたら犬になっちゃうんですか松永さん、ビックリです』
「驚きたいのは私の方だ。目が覚めたら声帯以外、犬になっていたのだよ」
『どうせなら声帯もわんちゃんになってた方が可愛かったのに…』
「何か言ったかな?」
『わー、松永さんふっさふさですー』
膝に乗せた犬…になった松永さんをもふもふしつつ、どうしましょうかと相談する大学中庭のベンチ
私の前に現れた彼は、目が覚めると犬になっていたと言う。また私をからかっているのかと思ったけど、スピーカーのような怪しい物はない
「なんとか自力でホトトギスのもとに来たのはいいが、君にも心当たりはないか」
『はっきり言っちゃうと無いです。でも一緒に考えますよ、元に戻る方法っ』
「そうか…頼りにしているよホトトギス。君は犬派だから、今の私の方が良いなどと言わないか心配していたが…」
『ソンナワケアリマセンヨ』
「…私の目を見て言いなさい」
『そ、そんなこと無いです…!』
「……………」
そんな、つぶらな瞳で見つめないでください…!
確かに私は生粋の犬派ですけど、まさか松永さんもわんちゃんの方がいいなんて酷いこと…酷いことは…
『ぅう…!可愛いです…やっぱり犬って可愛すぎます、なんでこんなに可愛くなっちゃったんですか松永さん!』
「耳を触るのは止めなさい…いや、君が幸せそうなら何よりだよホトトギス」
『えへへ、戻る方法を探すのはもちろんですが。あとで散歩に行くぐらい許してもらえますよねっ』
「まあ…町を一周する程度ならね」
『ありがとうございますっ!!楽しみですっ、あ、帰りにわんちゃん用のお洋服とか見に…』
「あ、いた!雪子ー、午前中の講義いなかったでしょ。何してたのさ」
「白昼堂々、さぼりか貴様」
「っ………!」
『あ……』
突然、背後から聞こえた声に振り向けば…そこには同じ学部の佐助さんと、元就さんがいた
あ、バレちゃう!と焦る私の隣で、松永さん…改めわんちゃんが大人しく座り直す。それはもう犬っぽく、見た目通りに
「あれー?なにこの犬、ついて来ちゃったの?」
『あ、は、はい!大学くる途中で会ったんです。ねーわんちゃんっ』
「わんっ」
「うわ、ちゃんと返事するんだね。小憎たらしい顔の割に賢いんだ」
「ふん、適当に鳴いただけであろ。所詮は犬ゆえ」
「……………」
ま、松永さん、耐えてくださいお顔が大変なことになってます…!
早速言いたい放題な二人に、松永さんの不機嫌ゲージが溜まっていく。耐えてください、気づかれたら厄介ですから
「まあ雪子は犬好きだからね。でもこいつ、小綺麗だから飼い犬かも」
「迷ったか。犬のくせに帰巣本能に欠けるとは…」
「……………」
『も、元就さん!わんちゃんが睨んでますよ!か、飼い主は私が見つけますからっ』
「ふぅん…まあ、雪子のためなら俺様も一肌脱いじゃう。ほら犬っころ、」
パシャッ
「!?!?!?」
『え、佐助さん何してるんですか?』
「写真。ほら、迷子犬を探すポスターとかあるし。その逆もありじゃない?」
「確かに、このアホ面ならば特徴もある。我も手伝ってやろう」
パシャッ
パシャパシャッ
「・・・・・・」
『ま、松永さん…』
「いやはや…この屈辱…元に戻った時には覚えておくといい…」
「ん?毛利の旦那、何か言った?」
「言っておらぬ、寝ぼけるな猿。ほれ雪子、この犬と共に撮ってやろう」
『っ………!』
「待て、ホトトギス。まさか君までもが…」
『か……可愛く撮ってくださいね元就さんっ!!』
「ホトトギスっ!!?」
松永さん…改めわんちゃんを抱き寄せ、たくさん撮ってもらったツーショット
その写真は巡り巡ってみんなに送られ、写真で彼の正体に気づいた小太郎くんが迎えに来てくれるまで、わんちゃん弄りは続く
そしてその後しばらく、松永さんは口をきいてくれなくなりました
20160924.
『その○○と○○は、まさか………松永さん、ですか?』
わんちゃん松永さんはふてぶてしい小型犬イメージです((
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