夕暮れは昼と夜が混ざった色だと、彼女は綺麗に笑って言った

すると彼は恥ずかしそうに、そっぽを向いて頷いた





『ほら幸村さん、そんなに慌てて食べなくてもいいのよ。たくさん作ったんだから』

「むぐっ!!す、すまぬ…兎が俺のために作った料理だ。食わねばと、つい…!」

『ふふっ、嬉しい。佐助さんもたくさん食べてね』

「いやぁ、俺様は味見でたくさん食べたからお腹いっぱい…」

「味見…?」

「なんでもないよ旦那!いやーそれにしても、兎ちゃんの料理の腕も上がってよかったねっ!!」

『佐助さんがたくさん教えてくれたから、ね』

「佐助…」

「兎ちゃんわざと言ってるっ!!?」

『ふふふっ』




とある竜を思い起こさせる、黄色く輝く三日月の浮かぶ空。その下、屋敷の屋根の上、触れるくらい近くに並ぶ二つの影

我らが真田の旦那とその恋人、兎ちゃん…そして俺様の三人で、今宵は月見酒と洒落込んでいた




『私が佐助さんに頼んだの。幸村さんは何でも美味しいって食べてくれるけど…』

「と、当然だっ!!兎が俺のために作ったならば、例え泥でも美味いっ!!」

「旦那、そこは吐き出して欲しいな。でも今夜のは俺様、手、出してないから。兎ちゃんの手作りで間違いないよっ」

「そ、それはそうだが…」




もにょもにょと口ごもりながらも、兎ちゃんが料理を差し出せば口いっぱいに頬張る旦那

…ま、旦那の気持ちも分かるけどね。なんせ愛しの兎ちゃんが、他の男と二人きりで料理してたわけだし


兎ちゃんに他意はない。ただ純粋に、旦那に美味しいものを食べて欲しかったんだ…昼の兎ちゃんは、だけど





「あーあ…夜は意地悪兎ちゃんだからね。あんまり旦那を虐めないでよ」

『虐めるなんて人聞きの悪い。私は幸村さんに隠し事をしたくないだけ』

「えー、秘密の一つや二つ抱えてた方が円満に運ぶこともあるんだから」

『あら?私だって秘密の一つや二つや三つ…ふふっ』

「ぐ、ぐぐぐっ…!」

「ちょ、俺様睨むのやめてくんないっ!?ほんと、何にもないから、本当に…」




今夜だって水入らずで楽しめば良かったのに旦那が、兎ちゃんが、俺様を誘ったんだ

…嫌な気はしないけどさ。ただ妬かれるこっちの身にもなって欲しいな




「俺様なんて放っておいて、二人仲良く朝まで楽しみなよ」

『まあ、佐助さんを仲間外れになんて…そんな寂しいこと言わないで、ね』

「またそうやって…!旦那が勘違いしちゃうから、それとも何、酔ってんの?」

『さあどうかしら…酒に弱い女はお嫌い?』

「だぁから、またそんな−…!」

「兎っ!!!」

『あら、』

「げっ!!」





…兎ちゃんの態度に、とうとう真田の旦那が声を荒げた

名前を呼ばれた本人はケロッとしてて、対する旦那は顔が真っ赤っか。それはいつもの照れじゃなく…怒りで、だ





「先ほどから佐助とばかり話してっ…!それほど佐助と話すのが楽しいかっ!!」

「い、いや、別に旦那を無視してたわけじゃ…」

「佐助は黙っていろっ!!!」

「ごめんなさいっ!!!」

『怒らないでくださいな、幸村さん。貴方を忘れてるわけじゃあないのよ』

「ぐっ…兎、は…!」

『はい?』

「佐助と某、どちらが大事なのだっ!?」

「うわー…」




真田の旦那から出たのは、まさに今さらな言葉だった

でも本人は必死な声で。屋敷のみんなに聞こえちゃってるだろう大きさで…ああ、そろそろ俺様は去り際かな


立ち上がる俺様を後目に、兎ちゃんはきつく握られた旦那の拳に手を重ねた。そして月明かりに照らされた横顔に、ほんのりと笑みが浮かぶ




『そんな意地悪な質問しないで…佐助さんが大事じゃないなんて、私も、幸村さんも言えないでしょう?』

「そ、そのような意味では…」

『どちらも大事よ。でも、貴方が愛しいわ幸村さん。他の誰よりも一番に』

「うっ…また、兎は、そのような意地悪い返しを…!」

『ふふっ、私は幸村さんに隠し事をしたくないだけ…ね』

「兎…」

「…じゃあお二人さん、あとはごゆっくりー」





そっと闇に消えた俺様に、兎ちゃんはチラリと視線を寄越した


その悪戯っぽい笑みときたら

旦那には見せないでくれよ、また惚れ直しちゃうだろう






20160825.
「佐助と某、どちらが大事なのだっ!?」

幸村伝発売日に原点回帰っ!!個人的に幸村はいじめたい可愛さ…


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