『珍しいね、兄さんの方からお茶しようなんて。嬉しいけど!嬉しいけどっ!!』

「ああ、たまにはな…小十郎と吉継も悪い、急に呼び出して」

「気にするな。雪子の言う通り珍しいからな、はじめは竹中の陰謀かと疑ったが」

「その賢人はおらぬ上に、われと片倉という人選…いったい何事か」

「……………」




兄さんに呼び出され、嬉々として待ち合わせの喫茶店に向かえば…そこには仕事帰りの片倉さんと大谷さんも一緒だった

4人で囲むように座った隅っこの席。真剣な顔をした兄さんが、改まったように咳き込み深呼吸をする




「…吉郎がそんな顔するなんてな」

「すまん…実はお前たちに相談があってな」

「ほう…それこそ珍しい。だがそう畏まらずともよかろ、浅い仲でもない」

『そうだよ兄さんっ!!例え世界中を敵に回しても、私が兄さんの願いを叶えてみせるからっ!!』

「ぬしはちと黙っておれ」

「雪子…ああ、ありがとう。やはりお前たちを選んで良かった」

「もったいぶらず言っちまえ。お前の相談ってのは何だ?」

「実は……」

「実は?」

「か、会社の同僚に、告白しようと思っているんだが…」

「………………」

「………………」

『………………』





・・・・・・・・。





「同僚に告白しようと思っているのだが、」

「二度も言うなっ!!こ、ここ告白っ!!?少し待て、落ち着け吉郎っ!!テメェ、誰の前でそんな話を−…!」

「むっ!?い、いかん片倉っ!!雪子が倒れるっ!!」

「なっ−…雪子っ!!?」





次の瞬間、椅子と共に傾いていく私の身体。正面には驚いた顔の兄さん、左右からは片倉さんと大谷さんが慌てて手を伸ばしてくる


告白、告白、告白


聞きたくなかったその言葉。大好きな兄さんが、誰かに告白したいと言う。いったい誰に?いや、私は知っている



ようやく“彼女”に−…





『っ!!!!?』





ダンッ!!!!





「雪子っ!!?」

「踏ん張ったか…!」

『っ……わ…』

「わ?」

『わっ…私に任せて兄さんっ!!絶対にっ上手くいくようにっ全力アドバイスするからっ!!』

「ああ…頼もしいな雪子っ」

『っ、ふっ…!』




なんとか踏ん張った私は泣くのを我慢して、兄さんに向けて力強く親指を立てる

ほっと胸を撫で下ろした左右の二人。安心しないでください、あとで、ちゃんと、慰めてくださいよ





『ぅ…ぅうっ…!』

「ま、まあ…吉郎もついにか。学生時代から女を寄せ付けなかったのにな」

「成治や小十郎の周りに多かっただけではないか?」

「ヒヒッ、違いない。しかし…片倉はまだしも、何故われも呼ばれたのか」

『ぐすっ…大谷さんに、女誑しの気があるからじゃないですか?』

「・・・・・・」




渋い顔をして睨んでくる大谷さんだけど見てください、兄さんも片倉さんもウンウン頷いてますよ

普段なら大谷さんの軽口を咎める兄さんだけど、そんな彼の手も借りたいなんて…必死なんだ。自分の気持ちを伝えるために





「しかし、だ。そんなもん自分の気持ちを伝えるだけだろ?他人に頼る必要があるのか?」

「告白の仕方がわからない…」

「中坊かテメェ」

『ちょ、兄さんを虐めないでください片倉さんっ!!兄さんはピュアなんですっ!!』

「そうよなぁ…吉郎が告白を決意したとなれば。相手からも、ある程度の好意を感じるのであろ?」

「あ、ああ…」

『むしろ兄さんからの告白を断る人っているんですかっ…!?』

「雪子、お前は黙ってろ」

「ならば話は早い。呼び出し二人きりとなる、場所はそうよなぁ…ああ、車でよかろ」

「しゃ、車中かっ…!」

『……………』

「…雪子、耐えられなくなったら帰っていいんだぞ」

『へ、平気ですっ…ちゃんと、聞かないと…兄さんの気持ちをっ…!』




大谷さんからの助言に逐一頷きながら、兄さんは真剣に告白の言葉を考えている

それは私の知ってる兄さんじゃないみたいで、ズキズキと胸が痛い。でもこれは、二人の幸せのために乗り越えなきゃいけない痛みだ





『だって相手の女性も、兄さんが大好きですからっ』

「…会ったことあるのか?」

『ありません…でも、その道のプロに調べてもらいましたから間違いないかと』

「その道のプロ……風魔かっ!?風魔を使ったのかっ!?」

『さすが伝説の忍。転じてもその腕は確かでした』

「忍は探偵じゃねぇんだぞ!ったく…だが、雪子が認めたなら確かなんだろうな」

『はい…兄さんは、幸せ者です』





そして相手の女性も、幸せ者になれる。今の兄さんなら幸せにしてあげられる

ちゃかす大谷さんに不満を言いながら、兄さんの視線はふと正面の私に向けられた





「ど、どうだろう雪子…」

『え?』

「告白の台詞だ。女のお前からして、どうだった?」

『…………ふふっ、』

「っ…………!」

『大丈夫!だってその人は、兄さんの運命の人だものっ』





告白の言葉は大切な人が自分だけに向けてくれたものだから。極論、何でも良いと思うんだ

その言葉を口にする前に、気持ちはとっくに伝わっているはずだから

















「…吉郎は帰ったか」

「ああ、まとまった!と喜んでな…ヒヒッ、ついに吉郎に、か」

「そうだな…さて、雪子。もう大丈夫だぞ」

『……………』

「……………」

『っ……ぅ…うぁあぁあんっ!!!に゛ぃさんがぁあ゛っ!!!っう、ひっく、ぅううっ!!』

「よしよし、よく耐えた。偉いエライ」

『お゛お゛だにざん゛んっ…!がだぐら゛ざんっ…っ、兄さんは、幸せに、なってくれますよねっ…!』

「当然だろ、自分のためにこれだけ泣いてくれる妹がいるんだ」

「吉郎はすでに幸せ者ゆえ安心せよ」

『はいっ…っ、胸を張りますっ!!私はっ!!兄さんを一番幸せにした妹ですっ!!』





それはこれから先も変わらない

ただ一人、また一人と、家族が増えていくだけなんだ





20160818.
告白の仕方がわからない…

秀吉様忌日と四周年。リクエストありがとうございました!


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