姉妹シリーズ/純愛系



豊臣の左腕には姉がいる

実直で堅物の弟に対し、姉は慎ましいながら掴み所のない女。では、今宵はその女の話をつまみとしようか








「……はて、牡丹には会えぬとな?」

「ここ数日、体調が優れないらしくてね。三成君でさえ部屋にはそう入れない」

「病か」

「僕も詳しくは分からないが、三成君の慌てふためいた様子から察すると…」

「…………」

「…なんて、三成君が心配しすぎなだけだよ。きっと大事ないさ」

「左様か、」




己の手元にある行き場を失った土産。その届け先である女は、何やら病に伏せているらしい


地方での戦…とも呼べぬ小競り合い。太閤の命でソレを鎮めたわれが大阪へ帰還したのは、実に数ヶ月ぶりであった

そして、われの帰りを迎えた男…あの姉弟と同じ銀糸を持つ軍師から告げられる。三成の姉、牡丹に会う事は叶わぬと




「君がいない間に家康君や官兵衛君も見舞いに来たが、会ってもらえなかったらしい」

「それは…会えなかったのか、会わせなかったのか。牡丹の意志か三成の仕業か」

「もちろん後者だろう。病人に官兵衛君を会わせては悪化の一途だ」

「まあ、三成が姉の元へ徳川を向かわせるなど有り得ぬとして…ぬしはどうだ?」

「僕?僕は少し、ね。だがここ最近は顔を合わせていないよ」




クスリと笑った賢人は、意味ありげな言い回しを仕掛けてくる

その視線は手元の土産へ。見てくれるな、ぬしほどの目利きは持たぬゆえ大した物ではない




「…そのこころは?」

「牡丹君への土産を持った大谷君が城に戻った時、僕が彼女の部屋にいると修羅場だからさ」

「ヒッ…それはそれは気遣い痛み入る。しかし牡丹に会えぬなら、この土産もここでお役ごめんよ」

「それは勿体ない。三成君に預けるといい、彼も姉に会う口実ができるから喜んで引き受けるだろう」




…それも、そうか


賢人の言葉に納得はすれど、残念…などと思う己もいる

長期の遠征、それをあの女に告げた時。それはもう心細そうな顔をしたのだ。この土産と共に無事を告げれば晴れると思ったが




「ああ。留守の間、牡丹君には君の武功を逐一知らせていたからね。無事の報告を急くことはないよ」

「そうか、そうか…ならば日を改めよう。体調が優れぬなら仕方あるまい」

「あるいは…」

「ん?」

「いや、何でもない。僕には専門外の話さ、そう言えば三成君なら…あ」

「ああ、」




はたと男の動きが止まり、同時に聞こえてきた別の男の声

それは今から探そうとしていた者だ、ちょうど良い…と振り向いた先から、




「刑部ぅうぅううっ!!!!!」

「三成よ、相も変わらず忙しないな。だがちょうど良い、ぬしに頼みが…」

「刑部っ!!戻ったならば何故言わんっ!!?早く言えっ!!!」

「いや、今戻ったばかりゆえ…われに何用か?」

「いいから来いっ!!もはや刑部に頼る他ないっ!!」

「むっ…な、何処へ行く三成っ!?待て、そう引っ張るな!」

「…ふふっ、行ってらっしゃい」




現れた三成は挨拶などなしにわれの腕を掴み、さらに隣にあの賢人がいるにも関わらず急いてこの場を後にした

いったい何事か…いや、この男がこれほど乱される理由は太閤か徳川か、あの…





「…牡丹が伏せているとな」

「っ!!!!?」

「やはりか…」

「刑部っ…!」




引っ張られ向かう先は牡丹のいる部屋だろう

われの言葉にやっと足を止めた三成が振り返る。そして、恐らく姉を気遣いいつもよりは小さな声で告げた




「姉上が塞ぎこまれている。匙や湯治でも治せぬ病らしい。どうしたらいい!」

「どうしたら…われは医者ではない、ゆえに助言はできまい」

「だがっ…貴様が大坂を離れてからだっ!!姉上が日に日に表情を曇らせてっ…」

「われが?ふむ……ああ、ああ、なるほどな」

「?」




牡丹が伏せったのは、われがこの城を離れてしばらくしてかららしい

その事実と、先程、賢人が言いかけた言葉。それらが導く答えに…ニタリと己の口元がゆるんだ




「…任された、牡丹の病はわれが治してやろう」

「っ…本当か刑部っ!!?」

「ああ、なにせこの土産こそは、牡丹のための“薬”ゆえ」



















『…………』

「牡丹、牡丹、」

『え……』

「ヒヒッどうした牡丹よ、ずいぶんとまた顔色が悪い。ぬしにそのような顔をさせる者は…」

『吉継、さま…?』

「…ああ、われしかおらぬな」




覗いた部屋の中にぽつんと座る牡丹。それに話しかければ、目を見開きわれの名を呼ぶ

白い肌はより白く、細い腕はより細く、小さな肩は…より小さく見える


…久々に見た牡丹は、今にも消えてしまいそうだ。その病の原因は…




「まったく…あれほど、心配するなと言い聞かせたに」

『吉継さまっ…あ、よくぞご無事でっ…』

「無事なものか、帰って早々に危篤の知らせを受けた身にもなれ」

『危篤…?』

「今まさに、われの目の前でしにそうな顔をした女子のことよ。われを待つぬしが倒れてどうするのだ」

『も、申し訳ありません…』




目の前に座りそう告げれば、申し訳なさそうにうなだれる牡丹


…ああ、そうよ。これは病に侵されたわけではない

ただ数ヶ月。われを待つ日々に…われの無事を祈る日々に気を張りすぎ、体調を崩しただけであろ




「…違うな。“だけ”ではない…すまぬ牡丹、心配をかけた」

『そんなっ…これは私が勝手に…ご心配をおかけ致しました』

「まったくよ。これではまた、賢人にからかわれてしまうではないか」

『半兵衛さまに…?何故、吉継さまが責められるのでしょうか』

「ヒヒッ、いやこれはしばらく覚悟せねばなるまい」




本人に自覚は無かろうとも。待ち人の無事を確認した牡丹の顔は、少し色を取り戻していた

三成の言う通り、われにしか治せぬ病。われが原因にしてわれが薬、それをからかわれずしてどうする




「さて、その話はよい。それよりも先に、言わねばならぬ事があった」

『はい…』

「…ずいぶんと待たせた。戻ったぞ、牡丹」

『あ…は、はいっ、よくぞお戻りくださいました吉継さまっ』




この挨拶が、この役目が、この薬となる事実がある限り。いつまでも土産片手に、ここへ戻って来るのだろう

願わくば、ぬしがそれを安心して待てる日がくるように





20180129.
純愛系姉弟と刑部と賢人

たいへん長らくお待たせしました…!


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