子猫ひろいました



 

『石田君、石田君、今日は外に出かけたい気分だから。一緒にお出かけしよう』

「…貴様が率先して外出とは珍しい。また友の墓か?」

『うん、じゃあお墓参り。あそこは、石田君と出会えた場所でもあるし』

「……………」




休日の朝。私を見つけ開口一番に、そんな誘いを口にしたゆの

…いつもの私ならば気づけたはずだ。その“朝”の違和感に。そして阻止できたはずだ。何故なら…









『…二度あることは三度ある』

「三度どころの話ではないだろう」





ゆのの気まぐれは、時として事件を引き起こす

そして今回は…






『この子も、どこかの武将さんかな?』

「知るか」

「うー?」




ゆのの友が眠るあの木の下で、言葉も話せない幼子を拾ってしまった




















「はぁ…僕がため息をついたところで解決するわけじゃないが、どうしたものか」

「申し訳ありません半兵衛様っ!!またしても約束を破り拾いものをっ…!」

『見て見て石田君。この子、男の子だよ男の子。綺麗な銀髪だよ』

「貴様は黙っていろ…!」

『…お口チャーック』

「うーっ」

「まだ2歳に満たないくらいかな。着物からして、僕らと同じ時代の子に間違いないようだね」




泣くこともなく私の膝に座り、半兵衛様からの鋭い視線を甘受する男の子と石田君と私


今朝、石田君と共に墓参りに行った時のこと。あの木の下で小さな男の子と出会った

1人ポツンと座ってたこの子も、どうやら過去から来たらしい


半兵衛様や石田君と同じ髪色。例に漏れず私の好きな色で、それを撫でれば不思議そうに見上げてきた




「むぅ…?」

『この時代の子なら誘拐だけど、石田君たちと同じ境遇なら保護だよね保護』

「確認だが、誘拐じゃない確証があったから連れてきたんだよね?」

『…たぶん?』

「はぁ……まあ、いいか。最近誰かさんの影響で、僕も考えることが苦手になってきたところさ」

『それは困る。私、赤ちゃんの世話とかできませんから、半兵衛様に頼るつもりだったのに』

「僕も困るよ。子どもなんていないからね」

『……………』

「そんな目で見たとしても、私にもいないからな」

『んんー…』





これまで保護した人たちは、生まれた時代が違えど良い大人たちばかりだから話ができた

けれど今回の彼は違う。話ができないどころか、こちらの言葉も分からない


お腹がすいたらどうしよう、眠くなったらどうしよう、トイレになったらどうしよう、後は…




『……………』

「…半兵衛様、ゆのが考えることを諦め始めましたが」

「ゆの君、今回ばかりは頑張って考えてみてくれ。下手をすれば命に関わるんだ」

『確かに。よし、じゃあ頑張って子守りしますよ。よろしくね、えーっと…』

「名か?わざわざ名付ける必要はないだろう。赤子に情が移っては困る」

『そっかそっか。じゃあよろしくね、おチビちゃん』

「その呼び方も可哀想な気もするが…まあ、どこぞの誰かに比べればましか」

「おーい、ゆの!ちょっといいか?」

「噂をすれば」

『あ、なんとかべ君』





ちょうど良いタイミングで現れたのは、何やら慌ただしい様子のなんとかべ君だった

私たちの歓迎に首を傾げる彼だが、私の膝に座る男の子を見つけた瞬間その表情は固まった。うん、ですよね




「……………」

「黙ってないで、何か言ったらどうだい元親君」

「…ゆのと竹中のガキか?」

『んんー…じゃあ、それでいいか』

「笑えない冗談はやめてくれ元親君。ゆの君もちゃんと否定しなさい、あと三成君もそんな目で僕を見ないで」

「っ…も、申し訳ありませんっ!!」

『この子も同じ迷子くんだよ。挨拶しようね、おチビちゃん』

「でいっ!!!」

「ぐえっ!!?」

『おお…!』




はじめましてーっと、なんとかべ君の目前まで男の子を持ち上げた次の瞬間。突き上げられた彼の拳が、なんとかべ君の顎にクリーンヒット!

勢いで後ろに倒れそうになった男の子と私を石田君が支え、なんとかべ君は…そのまま床にひっくり返った




「いってて…な、何しやがるゆのっ!!」

『え、あ、うん、ごめんっ』

「なぜ貴様が謝るっ!!?今のはこのガキがしたことだっ!!」

『へ?』

「ああ、僕もはっきりと見た。この子が元親君を殴り飛ばしたんだよ」

「は…はっ!!?おいおい、俺がこんな赤ん坊にぶっ飛ばされたってのか?」

『当たりどころが悪かったんだね。大丈夫?おてて、痛くない?』




そう言って腕の中の男の子を覗き込めば、彼はケロッとした顔で私に拳を見せてきた

あれ、もしかして確信犯…なわけないか。偶然当たっちゃったんだよね




「ふふっ、もしくは元親君のゆの君に対する下心を察知したのかもね。今は彼女が母親代わりだから」

「母親なぁ…自分の世話もできないゆのには無理じゃねぇか?」

『うん、私もそう思う。でも頑張らないと、ね、おチビちゃん』

「うん!まーっ」

『あはは、うん。まんま、まんま』




年の割に大きな手が私に伸びてくる。今度は拳じゃなく、紅葉のおてて

それに指を差し出したらギュッと握られた。あ、これは、我が子じゃないけどキュンとくるかもしれない




「…存外、様になっているぞ」

『ほんと?石田君も抱っこしてみる?』

「…止めておこう。私を見た瞬間、拳を握り込んだ。撃ってくる」

「おや、三成君も駄目みたいだね。何か疚しいことが…」

「竹中、あんたにも拳向けてるぞ」

「……………」

『んんー?』




この子は物心もついてるか怪しい年齢にして、生粋の女好きなのかな?

それとも、男を見ると戦ってみたくなっちゃう戦闘狂?




『…なんて。しばらくよろしくね、おチビちゃん』





子猫にしては牙をむく、真っ白猫ちゃんがやって来ました





20170115.
銀髪組と真っ白子猫


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