満月の夜



「うちの社長も粋ねぇ、定時後の会社でハロウィンパーティーするなんて!」

『政宗のお父さんですからね。そりゃパーティー好きですもん』

「あの父にしてこの子あり、だな。ところでゆの、その仮装は何だ?」

『おばけ』

「シーツ被っただけじゃないかっ!!?こんな時にも手抜きなんだな…!」




日も短くなり、空には月がのぼる定時後の会社。その大会議室で開かれたのは、有志によるハロウィンパーティーだった

うちの伊達社長は大のパーティー好き。特にハロウィンやクリスマスなど、巷を騒がすイベントにはいつも全力だった


かく言う私もマリアさんや直虎と一緒に参戦している。シーツのおばけ。オーソドックスだと思う




『つかこのシーツ、魔女っこなマリアさんに被せた方が良いと思う。マリアさんまじ歩く18禁』

「あらいいじゃない、コスプレなんてこんなものでしょう?妾の素肌を見る機会を奪うなんて可哀想だわ」

『後輩くんたちが目のやり場に困ってますが。そして直虎は……なんでフランケンなの?』

「な、何が悪いっ!?ハロウィンの仮装といえばフランケンシュタインじゃないかっ!!」

『直虎が納得してるなら良いけど…』




他の女性社員たちは、猫耳だったりお姫様だったり。ハロウィンっぽさに関わらず、各々好きな格好をしている

楽しんだ者勝ち、なパーティーだけど。私たちの一角はいろいろな意味で異質を放っていた




「でもハロウィンなら、貴女の幼なじみ君が張り切っているんじゃない?」

「確かに。よく会社のパーティーへの参加を許してくれたな」

『佐助にはパーティーのこと、言ってないから』

「それは……後々怖いんじゃないかしら?大丈夫なの?」

「むしろよくバレずにすんだな。お前のことなら何でもお見通し、という感じだが」

『根回ししてくれた狼さんがいるから』

「おい、ゆのっ」

『あ…噂をすれば』




熱い視線と黄色い悲鳴を浴びながら、人混みを掻き分けやって来た狼男

頭の大きな耳とふさふさ尻尾、いつものスーツとは違う青いベストに同じ色のネクタイ。そしてカラコンまで付けて完璧なコスプレを披露するのは…先輩の片倉さんだった




『…すごく似合ってますね、狼男』

「ん?ああ、政宗様の見立てでな。ゆのも似合ってるぜ」

『おばけかてるてる坊主か、見分けつかないですけどね』

「おい片倉っ!!貴様、パーティーに乗じてゆのに何をするつもりだ…!」

「幼なじみ君を出し抜いてまで参加させるなんて…怖い男、何を企んでいるんだか」

「おい、酷い言いぐさだな。俺はたまの息抜きを手伝ってやって……井伊、テメェなんでフランケンシュタインなんだ?」

「お前もかっ!?ふ、フランケンシュタインの何が悪いっ!?」

「…貴女、それに自力で気づかない間は恋人できないわね」




なぜだ、なぜだと怒る直虎を軽くあしらうマリアさん。でも、自らフランケンを選ぶ方が直虎っぽいけどね。なんだかんだ似合ってるし




『…私もゾンビとかの方が良かったかな』

「なんだ?おばけじゃ不満か?」

『いえ、片倉さんが選んでくれたものに文句はないですけど』




佐助に内緒である以上、彼にコスプレ衣装の相談はできなかった

だから残る相談先は片倉さんだけ。前日、彼が用意してくれたこの衣装を受け取った時…私は少しだけ、首を傾げた




「…さて、ちょっと確認させてもらうぜ」

『あ……見せられるものじゃ、ないんですけど』

「ん?なに言ってんだ。さっき言っただろ、ゆのも似合ってるって」




直虎とマリアさんがよそを向いた瞬間、ふわりとシーツをめくった片倉さん

その下には…サキュバスな衣装に身を包んだ私がいる。高いヒールに初めて履くような網タイツ。おへそも出して肌寒い


…片倉さんが私に準備した衣装は二着、だった




「似合ってるぜ、ゆの。自分でちゃんと鏡見たのか?」

『いえ、あんまり…どうせシーツで隠しちゃうし』

「ああ、確かに」

『これならシーツの下は、普通の服で良かったんじゃ…?』

「いや、このシーツは他の連中から今のゆのを隠すためだからな。必要だった」

『んんー…?』




他の人の視線から私を隠すようにシーツを引っ張り上げ、顔を覗き込んでくる片倉さん

隠す必要がある?私を?誰から?何で?


そこまで思考を巡らせた私は、だんだん考えるのを諦めてくる。まあ、いいか、この衣装を準備したのは片倉さんだから




『…片倉さんの好きにしてくれたらいいです』

「…ははっ、そうか。じゃあもう少し俺が堪能したら、またシーツ被っててくれ」

『………………』

「今のゆのは、俺だけが知ってりゃ良いんでな」






そういえば今日は、満月だった気がする





20161031.
ほのかに病み病み


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