子犬めでました



 


「…で、つまりアンタたちが言いたいのは、朝起きたらゆのが小さくなってたって冗談?」

「冗談じゃねぇよっ!!見ろっ!!ゆのだろゆのっ!!」

『さーすーけっ』

「そりゃ小さい頃のゆのには似てるけどさ、人間が縮むなんて信じられないんだよね」

「…そこは日頃から言ってる愛の力とやらで分かれよ」

「いや俺様、子どもは大嫌いだから」

「……………」

「うぉおぉお…!長曾我部殿っ!!この童がまことにゆの殿であるかっ!?」

「そうだ真田っ!!アンタなら分かってくれると信じてたっ!!」

『ぶーっぶーっ』

「ほら見ろ、ゆのも文句言ってるぜっ」

「って言われてもね」




幼くなった彼女を見た幼なじみさんは、存外冷静でした


いや、彼女がゆのさんであると信じていない、というのが正しいのか

傍らで無邪気に笑う彼女を見ても、何の感情も向けていないみたいだ




「…チッ、餓鬼だろうがゆのはゆのだろ。御前の気持ちってやつも底が知れるぜ」

「お、おいサビ助っ!!」

「は?あのさぁ、この子が本当にゆのなら話は別だよ。でも他に疑うべきとこあるだろ」

「他って?」

「…ゆのの子ども、とか」

「ぶはっ!!?」

「三成様っ!!?」




ゆのさんの子ども…そう彼が告げた瞬間、隣の三成様が勢いよく飛び上がった!

そして次に僕の、いや、サビ助の胸ぐらを掴み揺さぶってくる…えっ!!?




「千利休ぅうぅうっ!!貴様の仕業かぁあぁあっ!!!答えろこの駄犬がっ!!」

「ぁあ゛っ!!ふざけんな負け犬っ!!よく考えろ己の仕業ならまだ生まれてねーよっ!!」

「…ねぇ、それ、どういう意味?なんで利休大先生が父親って話になるわけ?」

「お、おい石田っ!!千利休っ!!落ち着けっ!!」

「…確かに茶人は、女の寝所へ忍び込んでおるからな」

「…僕も一瞬考えたが、それにしては子どもが大きすぎる」

「まぁ月日を考えるなら、われらのうちの誰かではなかろう」




だから落ち着け、刑部様がそう言えば三成様も渋々サビ助から手を離す

真っ先に疑われるのがサビ助なのは仕方ない…が、しかし。この子がゆのさんの娘というなら、相手は他に誰がいるのだろう




「俺様じゃない前提だけど、他には一人しかいないよね。つかあの人だよね」

「あの人とは?」

「片倉の旦那」

「右目かっ!!?」

「あはー、ちょっとぶっころ…お話してくるからその子をよろしくね」

「今、彼をまさに亡き者にしようとしているね」

「ちょ、なに呑気に見送ってんだよっ!!待って佐助っ!!まだそう決まってないからーっ!!」

「行ってしまったな。気の早い男だ、なぁゆの?」

『よしてるさま、ゆの、おなかへった!』

「はははっ!!そうかそうか、確かにかの者が出て行ったゆえ朝餉はお預けとなった」

「…ゆのちゃんも義輝も呑気すぎるよ。でも本当だね」




朝餉の準備をすることもなく早急に出て行ってしまったから、彼らの言う通りお預け状態

日頃料理をするのは彼と、時々ゆのさんのみ。彼女がこうなった今、僕たちは何もできやしない




「…元就君と幸村君は、たまにゆの君と台所にいるだろう?」

「そ、某は食べる専門ゆえ」

「…右に同じだ。足利と前田ならば、カラクリの使用も可能ではないか?」

「うーん…どうかな義輝?」

「うむ、よかろう!ではゆの、予と飯事といこうかっ」

『ままごとっ!?じゃあゆのがママねー、行こうパパーっ』

「あい分かった!さぁ、慶次も行くぞっ」

『ダメ!けいじじゃないの、赤ちゃん!』

「俺も巻き込まれてる上に赤ちゃんなのっ!?し、仕方ないなぁ…じゃ、ちょっと行ってくるなっ」

「が、頑張ってください…」




幼いゆのさんを肩車し、存外乗り気で台所へ向かう義輝様

それに巻き込まれるかたちで慶次殿もついて行く。彼なら料理も問題ないだろう、何でもできるお方だから




「…まさか将軍に、朝餉を作らせる日が来てしまうとはね」

「仕方なかろ、われらでは台所が惨状となるのみよ。ゆのも楽しそうゆえ問題ない」

「そうだな…しかし、」

「どうした三成、何か思うところでもあるか?」

「…あれが、猿に全てを委ねる前のゆのかと思うとな」

「……………」




三成様が言う通り、あの無邪気な少女が…ゆのさんのような無気力な女性になる

その過程にいる男。もしも彼から今の彼女を遠ざけたなら、もしかして…




「もしかして、なんて考えるなワビ助。あの猿なら、もう一度やり直してでもゆのを思い通りにしようとするぜ」

「っ………分かっているさ。別に僕は、もとの彼女を否定しているわけじゃない」

「はっ、ならいいが−…」

「わーっ!!?ダメだよゆのちゃんっ!!今のゆのちゃんは包丁持っちゃダメっ!!メッ!!」

「…己らはさっさと、アイツが元に戻る方法を見つけてやらねーと…」

「む…いかんっ!!慶次!ゆのが冷蔵庫の中に入ろうとしている!」

「ぎゃーっ!!?ゆのちゃんお願いだから大人しくしててっ!!」

「……手遅れになるぜ、いろいろ」

「は、はは…」





台所から聞こえる声に、僕たちは不安になることしかできませんでした





20160620.
まだ続く


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