子犬うまれました



 
「お、おいサビ助っ!!起きろっ!!早くっ!!」

「あー?朝っぱらからうるせぇなワビ助…ゆのが起きるだろ…」

「ま、まままたお前はゆのさんの布団に忍び込んで…!いや、そのゆのさんが大変なんだっ!!隣を見ろっ!!」

「ぁあ?まぁた涎でも垂らして寝てんじゃ…」

『やーだーっ』




・・・・・・・。




「…………は?」

『毛、ながいのやーだっ!!あついっ!!あーつーいっ!!』





いつものごとく、潜り込んだ布団の中で迎えた朝

己の腕の中でヤダヤダ離れろと暴れるガキは、何故だか見覚えがあったんだ



















「千利休ぅうぅうっ!!貴様ぁ、またゆのの部屋に忍び込んだかこの駄犬がぁあっ!!!」

「はっ!!負け犬がまた遠吠えてやがるっ!!て、そうじゃねぇだろ石田っ!!」

「…この子、本当にゆのちゃんなのか?」

「よく見ろ慶次!このふてぶてしい顔を、まさにゆのだっ」

『うー、うーっ』

「ダメダメ義輝っ!!女の子の頬、そんなに引っ張っちゃダメっ!!」

『きゃっきゃっきゃっ!!』

「本人は喜んでるみたいだけどね」




朝、起きるとゆのさんが小さくなっていた

小さな彼女を抱えて部屋を飛び出したサビ助を、まず見つけたのは三成様。そしてあれよあれよと皆が集まりこの騒ぎだ


何故、彼女が小さくなったのか。犯人は誰だ。幼なじみさんに知られると恐ろしい

そんな皆の感情が入り混じっているのに、ゆのさん本人は我関せずで義輝様に抱き抱えられている




「しかし、まさか幼子になるとは…これもわれらに降りかかった奇怪の延長か」

「…参考に聞くが、君たちの仕業ではないんだね利休くん?」

「あ?こんな都合良い術使えるなら、乳臭いガキじゃなく色っぽい女に変えるだろ」

「サビ助っ!!ち、違います半兵衛様っ!!僕らは何もしていませんっ!!」

「だから、御前が喚いても聞こえねーよワビ助っ」

「…ワビ助君が必死に弁解しているのは察したよ。しかし弱ったね、これじゃ…」

『ふーわっふわっ!!』

「む…」

「わーっ!!?ゆのちゃんダメっ!!義輝も離してっ!!」

「はっはっはっは!」




この奇怪にどうしたものか、と悩む半兵衛様

その背後から近づく義輝様の手には幼いゆのさんが抱えられていて…届く距離になるとおもむろに、半兵衛様の頭をぐりぐり両手で撫で回し始めた




「なっ…!ゆのっ!!き、貴様、半兵衛様になんてことをっ!!」

「いいよ三成君、今の彼女は幼子だからね。怒るのは大人げない」

『白いお兄ちゃんふーわっふわーっ!!わんわーんっ』

「わ、わんわん…」

「ぶはっ!!ひ、ヒヒッ…!ヒーッヒッ…!」

「…大谷君、君はもう少し笑いを抑えてくれないか」

「ゆの、こっちの白犬とも遊んでやるとよい」

「げっ!!俺を売るな毛利っ!!ガキは苦手なんだよっ…!」

「…意外ですね」




きゃっきゃと楽しげなゆのさんに向かい、次はこっちだと指差した毛利様

その先には意外にも、子供が苦手だという西海の人。彼の人柄はいかにも子供に好かれそうだというのに




「だってよぉ…ガキはすぐ泣くだろ」

「貴様の顔が恐ろしいのだろう」

「アンタに言われたくねーよっ!!って、おい大谷っ!!いつの間にゆのを抱えて…!」

「他人の嫌がることは率先してせねばな。ほれゆの、大きなわんわんよ」

『わんわん?』

「ぐっ……!」

『……かわいくないっ!!』

「!?!?!?」

「ヒーッヒッヒッヒッ!!!」

「…刑部、そろそろやめてやれ」

「なんだか可哀想になってきたね。すまない元親君」

「同情した目で俺を見るなっ!!」





…いくら犬好きなゆのさんでも、好き嫌いはあるようだ

いや、寝起きのサビ助を嫌がっていたから単に大きな犬が苦手なのかもしれないな




『あ、こっちもわんわんっ!!』

「なっ!!私は犬ではないっ!!撫でるなっ!!」

「ほら、三成様のことも平気だ。ゆのさんは細身の犬が好きなんだろう」

「…おいワビ助。さっきから犬って言ってるが、己らは正真正銘人間だからな」

「ふふ、いいじゃないか。彼女にとって友といえば犬とあの猿。犬と呼んでもらえるってことは親愛の証さ」

「…意外と前向きよな、賢人。しかしわれらが犬ならば、あとは雉が足りぬ」

「そうだね。だが雉を見つける前に、猿に見つからない方法を考えないと」

「…ちと遅かったか」

「ん?」




ガチャンッ!!





「ただいま戻りましたぞーっ!!やはり朝一番のひとっ走りは清々しいっ!!」

「ちょ、真田の旦那!自分ちだからって呼び鈴なしはやめてよ、ゆのが下着でうろついてたらどうすんのさっ」

「し、しし下着っ!!?」

「まったく…おはようゆの、朝ご飯作りに来たよー今朝は何が…い…い?」

「ほれ、」

「ああ…」





朝早くから走りに出かけていた若虎様が、噂のお猿様を連れて戻ってきてしまいました





20160609.
続く


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