ちょこっと争奪戦A



『直虎…』

「ん?どうした、ゆの?」

『…バレンタインのチョコ、一緒に選んで欲しい』

「…………は?」







「ゆのに女の顔をさせたのはどこのどいつだーーーーっ!!!?」

『直虎、直虎、ここお店だからもう少し静かにした方がいいと思うよ』

「静かにどころか、唇を縫い付けておいた方がいいんじゃないかしら。あら、これとかいいんじゃない?美味しそう」

『うーん…マリアさんが選ぶチョコは確かに美味しそうだけどお高いんですよね…』

「なぜマリアもいるっ!?あと、あ、あとっ……本当にゆのが、チョコレートを贈るのか?」

『うん、』




バレンタインの1週間前の休日。同じ会社の直虎と、何故かついてきたマリアさんと一緒にデパートにやってきた私

わらわらと人の多い臨時のチョコレート売場に尻込みしていると、まず背中を押してくれたのはマリアさん。そしてオススメしてくれたチョコは、たぶん一般的なソレより金額が一桁多いと思うんだ




「でも次いつくるか分からないでしょう?ゆのが、男にバレンタインチョコを贈るなんて。ちょっとくらい奮発してもいいと思うわ」

『う、うーん…確かに…?』

「誘導するなマリア!そもそも、ゆのは私にチョコを選ぶ手伝いをしてほしいと頼んできたんだぞっ!?」

「直虎に選べるわけないから妾が一緒に来たんじゃない。いい?ゆの、コレを貴女が渡せば相手の男はイチコロよ」

『いちころ…』

「想像してごらんなさい?相手の男の顔と…貴女の手にあるこのチョコレートを」

『………食べたいって言ったらひとくちくれますかね?』

「食い意地は捨ててきてちょうだい」




まったくもう!とぷんぷんするマリアさん。ほら見ろと笑う直虎。はい、この食い意地もあって私は自分だけではバレンタインチョコが選べない

どうしても自分の好みになってしまうし…1人で選ぶと、当日までに食べちゃいそうだし。バレンタインに参戦する表明と見張りのためにも、同僚の直虎に声をかけたんだ




「うーん、ゆのが渡すチョコか…マリアの勧めるソレは確かにゆのらしくはないな」

「あらあら面白くないわよ、意外性で攻めるのもありじゃない?特別感を出すためにも普通のじゃダメね」

『特別…』

「だが背伸びをしすぎるのもな。ゆのはその男に、初めてチョコレートを渡すのだろう?」

『…うん、』

「そうねぇ…じゃあこっちは?パッケージが可愛らしいの」

「こちらはどうだ?箱はシンプルだが中のチョコレートは細工が凝っている」

「ゆのにはコレだろ?前に好きだって言ってたじゃねぇか、生チョコ」

「いえ、ゆのならばこちらのサイズかと。政宗様の勧めるそちらでは数箱買わねば足りません」

『わー、さすが片倉さん。私のことよく分かってますね』

「ふっ、当然だろ」

「……………」

「……………」

「どうしてここにいる伊達政宗っ?!片倉っ?!」

『わぁ…』




チョコレートの前であれこれ言う私たちの輪にいつの間にか混じっていた2人。我が社の御曹司、政宗と…先輩の片倉さんだ

女性ばかりのそこに立つ色男2人に周囲はざわめき出す。そんな周りの視線なんてなんのその、政宗はニヤッと笑って私を指差した




「そりゃこっちのセリフだ。なんでゆのがここにいる?バレンタイン前のチョコレート売場だぜ?」

『バレンタイン前のチョコレート売場だからだね』

「そりゃつまり、アンタが誰かにチョコを贈るってことか?一緒にいるこの2人以外に」

『そうなるね』

「………マジか」

「政宗様…さすがにゆのに失礼かと、」

「いや、小十郎が先にゆのを見つけて"そんなわけねぇ見間違いだ"と言ったから確かめに来たんだろ?本物のゆのだったじゃねぇか」

「…………」

「2人揃って失礼だなっ?!」

『直虎、直虎、私は気にしてないよ』




…政宗と片倉さんこそ、男2人でこんな所に何しに来たんだろとか。思わず口から出そうになって、やめた

そしてそして、私本人であることを確かめ終わったはずなのに。何故か2人とも私たちと一緒にチョコレート売場を回りはじめたんだ




「何故ついてくるっ?!」

「そりゃ、ゆのが誰にどんなチョコを贈るのか気になるだろ?あの白いボーイフレンドか?」

『えっと…』

「おいゆの、まさかあの白いストーカー野郎じゃねぇだろうな」

『うーん…』

「あらぁ?妾はてっきり、幼なじみの彼にだと思っていたのだけれど。他にも男がいたのね、やるじゃないゆの!」

『…………直虎、』

「やめろ!説明するのが面倒だからといって、そんな子犬みたいな目で私を見るな!お前たちも!ゆのにもプライバシーがあるんだぞっ!?」




誰だ誰だ、と興味津々なお三方から逃げて直虎の後ろに隠れる。やめろと言いつつ、ちゃんと庇ってくれる直虎かっこいい

…いや、別に、言ってもいいと思うけど




『…こっそり渡せってお願いされたから』

「だそうだ!誰から言われたかは知らないが!とにかく男は帰れ!しっしっ!」

「秘密ねぇ…まぁいい。万が一、オレにくれるってなら3倍返しじゃあすまねぇお返し期待できるぜ?」

「…話したくねぇなら無理には聞かねぇ。佐助にバレないよう気を付けとけ」

「と言いつつ、後で探るつもりよあの男たち。やぁねぇ、余裕がない子って」

『…………』




余裕がない、て言ったマリアさんをチラリとだけ見て。政宗と片倉さんは乙女で溢れるチョコレート売場をあとにした

…なんだったんだろ。とりあえず、チョコレートの秘密は死守できたからいいか。そう呑気に考える私を直虎が小突いた




『いてっ』

「まったく…あの男共といい幼馴染みといい、どうしてゆののまわりは妙な男が集まるんだっ!?」

「イケメンの落武者くんもいるのだしねぇ…選り取りみどりだけど、妾も少し心配よ」

『んー…意外と大丈夫だと思ったり。それに、みんなと一緒にいるの楽しいですよ』

「ぐっ…!ゆのがそう言うなら、だがっ…」

『直虎とマリアさんもいるし。みんなと一緒だから、こうやってバレンタインもしてみようかなって気持ちになれたような気もしたり…しなかったり?』

「どっちなのソレは…でも可愛いこと言ってくれるじゃない!じゃあ妾たちも、バレンタインにチョコレート交換しましょ」

「ん、そうだな!よし、2人が驚くチョコレートを用意してやる!楽しみにしておけっ」

『わーい、楽しみ』

「別に驚きは要らないのだけれど…」





楽しみだね、楽しみだね

そんな楽しみとチョコレートを誰かと共有したいと思えるなんて。やっぱりみんなが一緒なお陰じゃないかな



20240208.
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