ちょこっと争奪戦@ 『バレンタインデーほにゃらら〜♪バレンタインデーほにゃらら〜♪』 「…おい、毛利。真田。ゆのがすっっっげぇ上機嫌で怖いんだが」 「いつも雛ぐらいの声で喋るゆのちゃんが、鶏もビビるくらい大声で歌ってるよ…大丈夫かな?」 「安心するといい、あれはきっと"ばれんたいん"が近づいたからだ!ゆのの機嫌が最も高ぶる祭りだろう」 「ばれんたいん…」 「ふっ…さすがは帝よ。こちらの世の祭りをよく知ってるではないか」 「うむっ!!そしてその通りぃ!!!!!某も!!!!今から楽しみで!!!!!」 「げっ、真田と…あと毛利も気味悪いぐらい上機嫌じゃねぇか…!」 「ほ、ほんとに祭りなんだよな?槍が降るとかじゃないよなっ?!」 俺と元親、そして義輝が散歩から帰るとそこにはこの世の祝い事が全部きた!…てくらい上機嫌なゆのちゃんがいた 今から踊りだしても可笑しくない彼女を眺める幸村と毛利もなんだか楽しげで…義輝曰く、ばれんたいんって祭りの日が近いらしい 「もともと南蛮の菓子を贈り合う文化らしいが…その日は日頃ならば手の届かない珍しい菓子も店頭に並ぶという。ゆのにとっては夢のような祭りだろう」 「へぇ…菓子ねぇ…」 「なんだ前田、アンタあまり興味ねぇのか」 「うーん、甘味も嫌いじゃないけど。おやつ軍のみんなくらい楽しみかと言われるとね…」 「なんでも、女子が意中の男に"ちよこれいと"を贈ることが多いらしいが」 「恋の話かなっ?!!!」 「急に興味持ったなっ?!!!」 これは話が変わったぞ!と目を輝かせる俺を見て、隣の元親がちょっと冷たい視線を向けてくる 義輝は義輝で首をかしげるけど、いやいや俺にとってはそっちが本題だって! 「そうとなれば…おーい!ゆのちゃ…むぐっ!?」 「待て待て待て!アンタ、まさかゆのに、ちよこれいとを渡す相手を聞くつもりかっ?!」 「え、も、もちろん…」 「馬鹿野郎っ!!そんなもん、面倒なことにしかならねぇだろ!誰に渡したって地獄だぞ…!」 「えぇ…元親は欲しくないのか?ゆのちゃんからちよこれいと!」 「いや、欲しいが、欲しいがそれを今聞くのは…!」 「ゆの、ばれんたいんには予にちよこれいとをくれないか?」 「言ってるそばからあの自由将軍っ!!!」 「義輝ーーーっ?!!」 『え、義輝様。バレンタインチョコ欲しいの?』 「うむ!他の誰からでもない、ゆのからのちよこれいとを予が受け取りた…」 「ちょっと待った義輝!!一回落ち着こう!」 「抜け駆けしてんじゃねぇぞ!」 『わぁ…』 鼻歌まじりにチョコレートの広告を眺めていると、いつの間にか散歩から帰ってきていた義輝様…と慶次となんとかべくんが背後から現れた 今日も仲がいいなぁと眺めているわけにもいかず。なんせ突然、義輝様がチョコレートをおねだりしてきたんだから 「なんだ、貴様もちよこれいとを欲するか。まだばれんたいんは先よ、先走るでない」 「うむ!某も八つ刻にはよくゆの殿から"ちよこれいと"を頂くが、特別な品となれば焦らず待つのがよいかと!」 「おやつ軍はちょっと黙っといてくれ…!」 「た、たぶん2人とは目的が違うからさ…!」 『いいよー』 「ん?」 「へ?」 『義輝様にチョコあげる』 どれがいい?って義輝様に広告を見せると、彼を止めようとしていた慶次となんとかべくんが目をまんまるにして固まる 義輝様も少しだけ動きを止めて…そして、微笑んだ 「うむ……そうか、そうか!予にちよこれいとをくれるか、ゆのっ!」 『うん、』 「ま…待て待て待て!そんなあっさり決めんのかよ!いつものアレか?!考えねぇ悪癖かっ!?」 「い、いいのかゆのちゃんっ?!義輝に、その、大事なちよこれいとをあげてっ…いやゆのちゃんが決めたなら俺は止めないけど、他にも渡したい人がいたなら…」 『あげるあげる、義輝様よく言ってるよね朋って。私たち友だちだし、何もおかしくないよ友チョコ』 「…………」 「…………」 「とも、」 「ちょこ、」 『友チョコ』 義理チョコよりもワンランク上、いつもお世話になっている友だちに贈る友チョコ。義輝様は大人だからオシャレなチョコレートが似合うかな、あまりお高いのは私じゃ用意できないかもだけど これなんかどう?って私が指差したチョコをじっと見つめる義輝様。うん、じっと見つめる。じっと見つめるだけで… 『…義輝様?』 「………何か、思っていたのと違うな」 『あれ?違った?ごめんなさい…?』 「いや…ゆのちゃんは気にしなくていいよ…義輝もほら、そんな顔しないでさ。せっかくの男前が台無しだろっ」 「ぶっ…ふ、ははははっ!!あの将軍様が!素直に口説いたのに流石はゆのだなっ!!」 「元親も笑うなって!ちよこれいとを渡す相手さえ聞けない男が義輝を笑う資格ないからな!」 「ぐっ…!そりゃまぁ…」 『…………』 悪い悪いと謝るなんとかべくんを、プリプリ怒る慶次。義輝様はちょっとだけ寂しそうな顔をしたけど、すぐに真剣な表情で何かを考え始めていた …これは、考えるのが苦手な私でもなんとなく察した。もしかして、義輝様が言ってたチョコレートは義理どころか友チョコでもなく−… 「あー…ゆのちゃん、悪いな。せっかくばれんたいん楽しみにしてたのに水を差しちまって」 『慶次…』 「せっかくだからさ、友ちよこはあげてやってくれよ。ただ、一番大切なちよこれいとは、ゆのちゃんが渡したい奴に渡してくれよな!」 『…………』 「あ、でも、できればこっそりで!そうじゃなきゃ、この家にいる奴らみんなの涙でここらが海になっちまうからさ!」 約束だぞ、なんて言った慶次は義輝様となんとかべくんを連れて2階の部屋まで戻っていってしまった 残されたおやつ軍…幸村君と毛利さんは首をかしげる 「騒がしい奴らよ…あの男がねだる友ちよことは何だ?」 「さ、さぁ…友とつくならば、友人と共に食べるちよこれいとでは…?」 「そのままではないか、その程度で何故あそこまで騒ぐのだ」 『…………』 「…………ほう、なるほど」 「ゆの殿?」 黙った私を見てどうした、どうしたと心配そうに顔を覗き込んでくる幸村君。それに対して、私なんかよりもっともっと頭のいい毛利さんは、友チョコではない他のチョコの存在に気づいたようだ ああ、ほんと、どうしたものか 『……ゆっくり、決めよう』 バレンタインまでまだ日はあるのだから 20240208. 続きます ← ×
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