マスターは干物女?


惚れた弱みというやつか




「おーいゆの!表の看板、準備中になってたぜ」

『まじか…通りで今日はお客さんがこないと思った』

「おいおい大丈夫か?ますたぁがそんなんじゃ、店潰れちまうんじゃね?」

『大丈夫大丈夫、常連さんは準備中とか関係なく来るから』

「…それならいいけどさ、って、それ何?」

『苺タルト。なんか急に食べたくなっちゃって、作った。左近も食べる?』

「お、食う食うっ!!…っていやいや仕事中になにやってんだよっ!!」

『…うん、美味しい』




静かな時間がゆっくりと流れる喫茶店。そのカウンターで、マスター(仮)な私は自作のタルトを堪能していた

そこに散歩から帰ってきた左近が登場。私に文句を言いながら、ちゃっかりタルトは食べるつもりらしい




「ゆのはなー、腕はあるけどやる気ねぇもんな。もったいないと思うぜ、それ」

『ねー、だからマスターも海外行っちゃうのかな』

「ゆのが危なくなったらすぐ戻ってくるけどな、過保護すぎ」

『うん、私もそう思う。でもだからこそ、なんとかなるんだよね私』

「なんとかなるっつーか、なんとかしてるっつーか…ま、ゆのらしいんだけどな」

『そうやって左近が甘やかすから、私も調子乗るんだよ…飲み物いる?』

「その自覚がある分、まだ大丈夫だろ…こぉひい以外で」




じゃあ、紅茶にしようかな

今にもタルトをたいらげてしまいそうな左近。彼と自分の紅茶を入れながら、ぼんやりと考えてみる

…このままじゃダメだ。だからマスターもきっと、この店を私に任せたんだと思う




「大丈夫大丈夫、ゆのが大丈夫って言ったらなんか大丈夫な気がするんだよ」

『そう…左近も同じこと言うんだね』

「…左近“も”?」

『うん、左近も』





カランカランッ





「ん?ゆの、今日は店は休みと言ってなかったか?」

『あれ、そうだっけ?』

「家康っ!!!」

「うわっ、え、どうした左近?ワシがどうかしたか?」

「…もしかして家康もゆのに同じこと言った?うわーまじかっ!!一緒かっ!!くそっ!!」

「…ワシは何故、店に来てすぐ貶されたんだろうか」

『気にしなくていいよ家康君、いらっしゃいタルト食べる?』




カランカランと鐘を鳴らしながら、店に入ってきたのは柴田屋からのお使いであろう家康君

彼を見た瞬間、左近はあからさまに嫌そうな顔になり。対する家康君も難しい表情になった




『同じこと言ってくれたんだから、気は合うと思うんだけどね二人とも』

「ちょ、勘弁してくれよゆの!絶対に違うから!家康と一緒とかねぇからっ!!」

「なっ…!それはワシの台詞だっ!!話はよく分からんが、きっと意味が違ったはず」

『家康君、何か飲む?』

「こぉひい以外で頼む」

『…ほら、一緒』

「真似すんな家康っ!!」

「何の話だっ!?」

『…あはは、なんだかんだ似てるんだよ二人は、たぶん』




いいじゃん、似てても。私は二人の同じところも違うところも好きだよ

そう言ったら二人は顔を見合わせて…カウンターに突っ伏した。また一緒だ




「いや、ゆのってほんと…何でもねぇや」

『いやいや気になる。私が何?』

「は、はは…気にしなくていいぞ、ゆの」

『……じゃあ、気にしない。あ、家康君もタルト食べる?』

「…どんだけ作ったんだよ」

『私のお腹が満足するぐらい』




だからまだたくさんあるよ、そう言って親指を立ててみせたら…二人はまた頭を抱えた。解せない





「…左近と、好みだけは似たくなかったな」

「俺の台詞だっつーの」






20160401.
あの子は海月


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