運命の輪 | ナノ

  皇帝の威光


チュンチュンッ




『あ、雀…ふふっ、朝ご飯食べに来たのかな。パンくずだけど食べる?』



チュンチュンッ




天気のいい朝。今日も1日頑張ろう、そう気合いを入れて店の前の掃き掃除をしていると、数羽の雀がぴょんっと降りてくる

群れになって仲良く跳ねる彼らは餌を探しているようだ。せっかく掃除はしたけど…開店までまだ時間はある、ちょっと待っててね




『よし、残り物でごめんね。これどうぞっ』



チュンチュンチュンッ


パラパラとまいたパンくずに集まる雀たち。啄みながら跳ね、場所を変えてまた啄む

食べきってくれたら掃除も楽だね。それにしても人に慣れてるな…そんなことを考えながら雀を眺めていると、




カランカランッ




「ん…なんだ狐、もう支度か」

『あ…おはようございます秀吉様。ちょっとこの雀たちに餌を…』




ヂュンヂュンヂュンヂュンッ!!!


バサバサバサッ!!!




『・・・・・・』

「・・・・・・」

『・・・・・・』

「……すまん」

『ひいっ!!?こちらこそすみませんっ!!なんかすみませんっ!!』




秀吉様が店から出てきた瞬間、戯れていた雀さんが勢いよく飛び去っていく

残されたのは気まずそうな秀吉さまと…どうしていいか分からずひたすら頭を下げる私でした














「それは君の威光によるものだよ秀吉。君の姿に恐れをなした小鳥がたまらず逃げ出した、それだけさ」

「…逃げたのか」

「…ああ、いや、相手は小動物だからね。少し君に驚いただけかもしれないよ」

「…我の顔が恐ろしかったのか」

「…すまない秀吉、今の君にかけてあげられる言葉が僕には分からない」







「…秀吉さま、ちょっと落ち込んでね?小動物など踏み潰してくれるわ!とか言いそうなのに」

『さ、左近くんにとって秀吉さまのイメージってそんなのなんだね…何もしてないのに勢いよく逃げられちゃったから』

「そりゃ俺らからしても秀吉さまはでっかいんだ。小鳥から見上げちゃあ化け物だろ?」

「左近…今の言葉は貴様の遺言で間違いないな?」

「げっ!!違います三成さまっ!!秀吉さまってばまじすっげーなって意味ですってばっ!!」

『ひいっ!!?』




皆さんが起きてくる頃、早朝の一件で落ち込んだ秀吉様に半兵衛さんが声をかけるが効果はない

そっと見守るしかできない私たちも同じ。左近くんは余計な一言で今まさに三成さんに斬られてしまいそうだ




「今さら何言ってんだ。お前さんは恐れられてなんぼの覇王さまだろ?鳥なんざ蹴散らせ蹴散らせっ」

「………………」

「官兵衛くん、余計なことを言わないでくれ。だが秀吉、君が気にすることじゃない。たかが小鳥だろう?」

「…先日は犬に逃げられ、我を見た猫が塀から足を滑らせた」

「…うん、ごめん」

「ふむ、そこまで畜生に嫌われておるとは…ヒヒッ、流石は覇王か由々しき事態か」

「刑部、笑っていないでなんとかしろ」

「賢人がお手上げである以上、われにどうしろと言うのだ…」

『うーん…』




…怖がられてるのか驚かれてるのかどちらにしろ、果たして秀吉さまに近づける動物がいるのだろうか




『…そう言えば』

「ん?」

『マスターはすごく、動物に好かれやすかったと思って』




カランカランッ!!!




「はっはっはっ!!!予を呼んだか甘露っ!!?」

『きゃあっ!!?』

「足利っ!!?」

『マスターっ!!』




突如、ガランガランと扉が鳴ったかと思えば飛び込んできた影

それは、その声は、間違えるはずもなく…今は異国を旅行中で、今回は何か獣の被り物を着込んで帰還したマスターでした




「甘露に呼ばれ馳せ参じたぞ。これは今回の土産だ、やはりどの国へ行こうと狩りは楽しいなっ愉快愉快っ!!」

『自分で狩ったんですかっ!?困ります!こんなのどこに片付けたらいいんですか…』

「ううむ、甘露に似合うと思ったが…確かに少々大きすぎたな」

「御狐様に着せる気だったのか…あ。そうだ!太閤なら丁度いい大きさだろっ」

「太閤…おおっ!!確かにそうだ、これはうぬにやろうっ」

『あ゛……』



パサッ



「・・・・・・」

『ひ、秀吉さまっ…!』




官兵衛さんの言葉に頷いたマスターは、あろうことか秀吉さまにその毛皮をバッサリかける

固まったままの秀吉さま…それを見て青ざめる左近くんの隣で、彼の左腕が黙っていない




「貴様ぁあぁあっ!!!秀吉さまにっ!!何をっ!!しているっ!!」

「お、うぬもこの毛皮が欲しかったか?すまんがこれしか用意をしていない、共用にするかうぬ自身で狩りを…」

「貴様を狩るっ!!!」

『ひぃいっ!!すみませんっ!!すみません秀吉さまっ!!三成さんっ!!!』

「退け狐っ!!先に貴様を毛皮にするぞっ!!」

『ひぃいぃいっ!!?』

「甘露を羽織るか…その趣向もなかなか…」

『想像しないでくださいマスターっ!!うちに毛皮は必要ないですっ!!』




必死に叫ぶ私を見て、ならば仕方ないと秀吉さまの上から毛皮を回収するマスター

未だにプルプル震えて怒る三成さんを吉継さんと左近くんが必死になだめる。ごめんなさい、本当に失礼なことを…!




『マスターもちゃんと謝ってください…!秀吉さま、今は動物に複雑な感情を、ですねっ…』

「ほう、動物に…ならば丁度よいっ!!甘露、隣町に新しい動物園ができたのを知っているか?」

『動物園…ですか?』

「動物園?なんだぁそれ?」

『いろんな種類の動物が集まった場所です。珍しい動物や外国の動物…私も、実際に行ったことはないんですけどね』

「珍しい動物?南蛮のとか?はいはいっ!!俺行きたいっ!!」

「左近っ!!」

「はっはっはっ!!素直はよいな若人よ!予も甘露を誘うために戻ったのだ、共に行くか」

『え…ええっ!!?』




バサリと毛皮を羽織ったマスターが先陣をきって歩き出す…それ着て行くんですかっ!?

その背中を見つめ、次に豊臣の皆さんが目を合わせる。今からみんなで動物園に行こうというんだ…動物園、か




『…今日はお店、お休みにしますね。家康くんたちも誘ってみます?』

「本当に動物園とやらへ行くのか…!」

『マスター、言い出したら聞かないので…あの、秀吉さま…』

「………………」





肝心の、彼の決断は…





「…行くか」




重い腰を上げた大将を見て、皆さん一斉に外出の準備を始めた


…果たして秀吉さまは、動物に好かれることができるのでしょうか





20150526.
秀吉さまは野性的

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