運命の輪 | ナノ

  触れる触れない距離感


「っ…ぅうっ…ちょ、これなんか味変じゃね?いつもと違うの作っただろ!」

『ならいつものに変える?この紅茶、又兵衛さんは好きみたいなんだけど…大人の味すぎたかなぁ』

「ぐ…そんな挑発、どこで覚えたんだ…!飲むっ!!全部飲むっ!!」

『ふふっ、頑張ってね左近くん』





「…三成、左近と結の距離が近すぎないか」

「…奇遇だな、家康。私も同じことを考えていた」

「昨晩、勝家と共に遅く帰ってからだ。何故か…」




二人の距離が近づいている


店のかうんたぁとやらで笑いながら話す二人を眺め、ワシと三成は少々顔をしかめ合っていた。昨日何があったのか、帰りが遅かった結に聞いても秘密だとはぐらかされてしまう

湯飲みの茶を飲み干し渋い顔をする左近、その肩に結が触れた瞬間…ああ、何故胸が痛むんだ




カランカランッ





「失礼する」

『あ…勝家くんっ!!』

「よう勝家っ!!どうしたんだ、何かあったか?」

「お前に用があるわけではない…結、これを見て欲しい」

『これって?』

「…私が来年通う、大学のパンフレットだ」

『っ!!!!』




次にカランと音を鳴らし、開いた扉から入ってきたのは勝家

元気よく手を振る左近を一瞥し、結の方へと近寄る彼の手には数冊の薄い書物。ぱさりと広げ指差せば、結は必死に覗き込んだ




「…お前にも、話しておくべきだと思った。私はこの町を離れ、ここへ通う」

『勝家くん…』

「だが必ず、またこの町へ戻ろう。その時は…私も新しい私だ。皆で集まれるように」

『っ……うん!』

「お、言うなぁ勝家っ!!結もよかったなっ」

『うんっ!!』

「…結を呼び捨てるな。何のつもりだ左近」

「いいじゃん細かいことはっ!!俺と勝家と結の仲だろ、な?」

「は?」

「ごめん、悪かった、だから真顔はやめてくれっ!!」

『ふふふっ』









「…近いな」

「ああ、近い」

「距離だとかじゃなく…その、あれだ…うん」




憧れるような三人の距離感をじっと眺めてしまう

まるで昔から知ってるような、まるで話さずとも心を汲み取れるような、まるで…



ガタンッ!!




「っ!!!!?」

「……………」

『っ…あ、あのっ…政宗くん?』

「…悪い、先輩。ちょっと用事思い出した、今日はこれであがる」

『あ……う、うん…お疲れ様…』

「……………」




次の瞬間、店の隅に座っていた独眼竜が椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がる

そして結が、三成が、皆が見つめる中…彼は足早に店を出て行ってしまう。戸惑う結の傍らで、左近が隠すことなく舌打ちをした




「なんだアイツ、急に…結、気にすんなよ!いじけた竜王さんなんかさっ」

『でも…』

「結、残念だが左近の言う通りだ。伊達氏ならばすぐ戻る」

『……うん』

「そうそうっ!!なんの心配もないって……残念だがってどういう意味だ、勝家?」

「そのままの意味だが?」

「酷いっ!!!」

『………あはっ』






「…独眼竜は急にどうしたんだ」

「知るか。貴様と同じで左近に嫉妬したんじゃないのか」

「そうか…って、ち、違うぞ三成っ!!ワシはそのようなっ…!」

「…面倒な奴だ、腹立たしいなら、気にくわないならば、直接言えばいいものを」

「三成?」

「………………」




何かを思い出すように顔をしかめた三成が立ち上がる

そして三成もまた、独眼竜に負けず劣らず盛大に椅子を蹴り飛ばした













「伊達政宗、貴様、狐に何の文句がある」

「うおっ!!?テメェ、石田、なんでいんだよ…!」

「私がこの店にいることに、貴様の許可など必要ない。そして貴様より先にいた」

「っ…そうか、気づかなかったぜ…先輩は?」

「柴田屋へ行った。ふんっ、貴様は雇われている身で店番もできないのだな」

「っ……うるせぇな、考え事してただけだ」

「……………」




椅子の背に身体をあずけ、天井を見上げていた伊達政宗

つい先ほど狐は柴田屋へ出かけたが、声をかけたコレは生返事。心配そうに振り向きながら店を出ていった




「考え事…貴様に考える頭があったか。意外だな」

「黙れアンタに言われたくねぇよ。オレだって悩むさ…だが先輩への文句じゃねぇ」

「ならば何を悩む」

「Ah?なんだアンタ、意外とお節介だな」

「話題そらしの煽りはいらん、私の問いに答えろ」

「へいへい…まぁ、たまには他人の意見も聞いてみるか」




なぁ、石田…

そう呟き振り向いた奴の左目が私をとらえた。夕焼けの差し込む店内で、伊達政宗は少し自嘲するように笑う






「この店…どうすれば潰せると思う?」

「っ!!!!?」

「オレはどうすればマスターから先輩を取り戻せる?」




目の前の独眼竜に先日、私の前に現れた銀髪の男の姿が重なる


あの店さえなければ貴方たちは解放される…あの男はそう言った。それと似た言葉を、何故、コイツが…!




「石田?」

「っ…何故、この店を潰すっ…裏切る気かっ…理由を答えろっ!!」

「理由…そりゃあ、この店がある限り先輩はずっとここにしかいられない」

「っ…………」

「オレや勝家は好きに出ていける。アンタたちが好んでこの町に来たように、オレたちは自由なんだ」

「それは、狐…結も同じはずだ」

「違う。マスターが手放さねぇんだ、そして先輩もアイツから離れられねぇ」




だから…




「オレはこの店を、潰したい」

「……………」

「あの左近が先輩に近づいた。それだけで苛立つ自分も情けねぇが、アンタらがまた、先輩を閉じ込める理由になりそうで嫌なんだよ…」




はぁっと深く息を吐いた伊達政宗は、再び天井を仰ぎその目を閉じる

痛むのだと。苦しいのだと。見たくないと言いたげに。その姿が、私は…






「…貴様らしくもない」

「っ……オレらしく?HA!アンタがオレの何を知ってるって?」

「私に意見を求めた、他人の力を借りようとした、その時点で貴様は貴様ではない」

「っ…………」

「…潰したいならば勝手にしろ。貴様があの男に勝てるとも思えんがな」

「……そう、だな…そうだ。店を潰したところでマスターは、また別に先輩を連れ去っちまう」

「……………」

「ああ、悪いな石田。さっきの情けねぇ話は忘れ…」

「何があった」

「っ…………」

「貴様と結…いや、貴様たちの間に何があった」




男を見下ろしながら問えば、その目がみるみる開かれていく

そうだな、と呟いた声はか細い。夕暮れではあるが、結が帰るまでまだまだ時間はある




「石田…アンタは四年前の話、どこまで知ってる?」

「何も知らん」

「そうか、じゃあ初めからだな。四年前、オレも勝家も…市もまだ中学生だった。まだまだガキだったんだ」

「……………」

「先輩だけ高校生の姉さんで…それでもオレたちは、昔から変わりない仲間だった」





それを崩したのは、見たこともない大人たちだった






20150310.
凶王と竜王の昔語り

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