運命の輪 | ナノ

  針は戻らない


『そういえば、政宗くんが私を先輩って呼び出したのいつからだっけ?』

「Ah?」

『だって小さい頃は、結ちゃんって呼んでくれてたのに』




お店が終わった夕方。大学から帰った政宗くんと、同じく高校帰りの勝家くん。そして官兵衛さんと又兵衛さんが掃除を手伝ってくれている

昔は皆で銭湯を掃除したな…と思い出していると、ふいに過ぎった幼い政宗くんの姿


彼はいつから私を先輩、と呼ぶようになったんだろう?その境目が思い出せず、うーんと首を傾げた




「…さぁな。先輩は先輩だろ」

『でも…』

「中学に入った頃からだ。伊達氏は結の名を呼ばなくなった」

『え?』

「テメ、勝家、黙ってろ!」

「同級生のいじめっ子に結ちゃん、という呼び方をからかわれたのがきっかけだ。それから先輩と呼ぶようになった」

『政宗くん、そうなの?』

「なぁにお前ぇ、いじめられっ子だったんだ、可哀想に…ケケッ」

「うっせぇオレは虐められてねぇっ!!心配すんな先輩!」

『じゃあ、前と同じ呼び方してくれる?』

「それは………できない」

『そっか…』




残念だな…

私たちのところへ戻ってきてくれた政宗くん。それでもやっぱり、昔通りにはなれないらしい

残念がる私を見て政宗くんも困った顔をする。少しだけ雰囲気が悪くなった時、真っ先に話し出すのは官兵衛さんだ




「しかし気持ちは解るぞ伊達!小生もいじめられていじめられて、いじめられ抜いてるからな!」

「だからオレは虐められてねぇっ!!一緒にすんなオッサン!」

「オッサン言うな!どっかの刑部とかいう奴が酷いいじめっ子でなぁ、ありゃ性根が腐ってる」

『あ、あの、官兵衛さん…』

「だが小生はあの程度でへこたれんぞ!むしろいつか返り討ちにしてやるさっ!!」

「黒田氏、大谷氏ならば先程からカウンターに座っている」

「なんだとっ!!?」

「ヒヒッ」




官兵衛さんが振り向いた先では、さっきから吉継さんがニヤニヤと楽しげにこっちを眺めていた

たぶん、官兵衛さん以外は気づいてましたよ




「これは良い…いや、悪かったな暗。ちと手を抜きすぎていたか」

「あれが手抜きならお前さんの本気は相当だろうな…って、違うっ!!違うぞぉ刑部っ!!今のは…!」

「われも気を引き締め次の手を考えよう。返り討ち、楽しみにしておるぞ。ヒッヒヒヒッ…!」

「何故じゃぁあっ!!?」

『や、やっぱりそうなるんですね官兵衛さん…』

「最早、狙ってやってるとしか思えないんですけどねぇ…あ」

『あ゛』




床に置いてたバケツに引っ掛かって、官兵衛さんが転んだ




「散々だなオッサン…そういやオレも昔はバケツの水をよくかぶってたな」

「やはり虐めか」

「適当なこと言うな勝家っ!!ありゃアンタがオレにイタズラ仕掛けてたんだろっ!!」

「ほう、この男が独眼竜に?人は見た目によらぬな」

「アンタ、えっと…大谷、だったか?騙されんなよ!勝家はこれでも昔、自分を怪王とか−…」




ビュンッ!!!




「うおっ!!?」

『か、勝家くん!ほうき振り回しちゃ危ないよ!』




政宗くんの言葉を遮るように、勝家くんのほうきが空を斬った!

その手際とキレに、吉継さんと又兵衛さんが思わず拍手…いえ、褒めちゃダメです!




「なにしやがる勝家っ!!」

「貴方の…他人の過去をズケズケと暴く、その、無神経さが昔から腹立たしいと何度…!」

「おいおい隠すことじゃねぇだろ、オレとアンタで竜王怪お…」

「しつこさは時に万死の罪だ…!」

「だからほうき振り回すのは止めろっ!!!」

「おい、結。柴田の坊ちゃんを止めなくていいのか?」

『怒った勝家くんは一番危険ですから…あ、官兵衛さんの着替え、持ってきますねっ』

「お、おう」










「慣れてますねぇあの女」

「まぁ幼なじみの中では年長ゆえ。しかし…」

「大谷さん、何か気になるんですかぁ?」

「いや、少しな」




ちゃっかりと逃げてきた後藤と眺めるのは、店の中で大喧嘩な若僧2人。そしてそれよりも暗が先だと着替えを取りに行く御狐殿

戻ればすぐ2人を止めようとするのだろう。当然…そう、トウゼンによ




「…あの夜、奴らには何かあると思うたがな」

「あー…狐が店を飛び出した日。魔王の妹が来たとかでしたっけぇ?」

「ああ。だが見る限り、奴らと御狐殿の間に何の隔たりもない」




それに何故か…違和感を感じるのだ。昔からの仲ならば、それであっても不思議でないはず

それゆえこの違和感が、われを悩ませているのだが




「賢人ならば何か思いつくかもしれぬが…奴はさほど、御狐殿らに興味を示しておらぬ」

「そりゃあ、半兵衛さんや…オレ様ならすーぐ解決しちゃいますけどねぇ」

「ヒッ…そうかそうか、ならばわれに代わりぬしが解決してくれるか?」

「無理矢理仲良くしてるからでしょうよぉ、特にあの狐が」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「…本当に解っていたのか」

「はい?」












『か、勝家くん!政宗くん!そろそろ落ち着いて!』

「しかし結…!」

「そうだ落ち着け勝家っ!!早まるなっ!!」

「っ………!!」

「あ………」

『…勝家くん?』




2人の間に割って入って仲裁する。その時、政宗くんも必死に勝家くんへ訴えた

そのうちの一言、早まるな、それを聞いた勝家くんの動きが止まる。その言葉を口にした政宗くんも




「……………」

『あの…大丈夫、勝家くん?』

「っ……ああ、大丈夫だ。私は冷静だ…だからお前が、心配する必要はない」

『え…う、うん』

「勝家…」

「伊達氏、」

「っ…………」

「私の前で昔の話はしないでくれ。貴方が変わろうとしたように…私もあの時の私ではないのだから」

「…………ああ」

『……………』




政宗くんがこっちに戻ってきてから、2人は私が知らない話をする

それが寂しいような、それとも知っちゃいけないような。知るべきではないような




「…すまない、結。掃除に戻る」

「っ、たく…仕方ねぇな」

『……………』





場の雰囲気が悪くなり、勝家くんはそっと背中を向けてしまう

そんな彼を見て余計な一言を言ったかと、少しだけ困りながら頭を掻く政宗くん



そんな2人の行動は…昔なら、逆だったはずなのに





20141108.

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