運命の輪 | ナノ

  疾風と凪


「これはヨーロッパのとある民族衣装だ…うむ!やはり甘露によく似合うっ」

『あ、ありがとうございます…』

「こちらはまた別の国の…ハハッ!これも似合うなっ」

『あの、えっと、マスター…!』

「予の甘露は何でも似合ってしまうからな、実に困ったものだ。次はこれなんだが…」

『マスター!そろそろ止めてください!』

「「「…………」」」




お土産で買ってきた外国の服を私にあてがい、可愛い、これも可愛い、よく似合うっと笑うマスター

着せ替え人形にされるのは昔からだけど今は状況が違う。店の真ん中。そこには私たちだけでなく…豊臣軍の皆さんがいるから





「まさか…結くんの主が帝だったとは、流石に驚くよ」

「われらの知る者かとは思ったがまさかのまさかよな、はてさて如何する?」

「如何する、と聞かれてもね…この彼は、僕らの知る彼とはまた別人だから…」

「ところで甘露、この者らは客人かな?」

「っ―……!」

『ま、マスター!この人たちは、その…!』




三成さんと一緒のところを見られてしまった時点で隠せなかったとは思う

更にマスターはあっという間に他の皆も見つけてしまい、これじゃあ言い訳なんかできない


ニコニコと穏やかなマスター。けど解ります、心中穏やかじゃありません




『っ―……皆さん、店を、宿代わりにしてもらってます…』

「ほう…この全員が、か」

『は、はい、すみませんマスター…ごめんなさい…!』

「い、いや違うんすよ!結ちゃんは悪くなくて、俺らはこの時代と―…!」

「っ、止めろ左近!」

「けど三成様、このままじゃ―……!」

「なに謝ることはない、甘露が決めたことならば予は構わないさ」

『え……』




うつ向いて謝る私の頭を撫で、そう言ったマスターは小さく笑う

ハッと見上げれば目を細めた。そして次に視線を豊臣軍の皆さんへ




「甘露の朋を追い出すわけがないだろう。うぬらにも何か事情があるようだ、好きにするがいい」

「帝…いや、足利殿。感謝する」

『ありがとうございます!』

「ハハッ、予が甘露を悲しませるはずがない。しかし…」

『え?』

「甘露に手を出せば…どうなるかは解ってもらえているかな、若人」

「っ!!!!!?」




ピキッと、この場の空気が凍った

笑ってるようで全く笑ってないマスター。その視線の先には…顔面蒼白で他所を向く三成さんがいる


はい、マスターの彼への第一印象は最悪でした




「三成…節操は保て」

「ご、誤解です秀吉様っ!!私は、そのようなつもりで…!」

「今朝の件は本当に申し訳ない…僕からもしっかり言いつけておくよ」

「ですから誤解です半兵衛様っ!!」

「やーい、節操なしぃ」

「貴様は黙っていろ後藤又兵衛ぇえっ!!!」

『ひぃっ!?ま、マスター!三成さんとは、その、何も…!』

「いいや気をつけろ甘露、獣を飼うとはそういうことだ。予の甘露は息をしているだけで人を魅せるのだからね」

『そ、そそそういうことを人前で言わないでくださいっ!!』








「……ずいぶん猫可愛がりしてるなぁ帝様は」

「ヒッ、面白くないと言いたげな顔よ暗」

「まぁな、小生は御狐様が依存してると思ったが…ありゃあ御主人様が甘やかしてんだな」

「ベッタベタにな」

「御狐様も所々で嬉しそうに笑いやがって…つまらんだろ」

「そうよな、心中察する」

「は?」

「む?」

「刑部…お前さん今、心中察する、て言ったか?」

「・・・・・」

「つまらん、てことはまさか、お前さんも…!」

「おお、見やれ暗。更なる嵐の種が来たぞ」

「なに話をそらし―…げっ!?本当だ、なんて運の悪い…!」

「ヒヒッ」









「おはよう、結!ワシも店を手伝いに来たぞっ」

『家康くんっ!?』

「これはまた活きのいい若人が来たものだ」

「え……帝っ!?な、なぜ貴方がここにっ!?」

「落ち着け家康…私たちはもう一頻り驚いた後だ」

『家康くん、この人がマスターだよ』

「ええっ!!?」




店の扉をカランと鳴らし爽やかにやって来た家康くん

そんな彼にやぁとマスターが挨拶すれば、目を見開いて驚いた。マスターと私を見比べ、もう一度えぇっと大声を出す




「あ…し、失礼した!ワシは徳川家康、結には世話に―…」

「うぅむ…」

「え?」

「何故だろう、予の第六感が其の方を甘露に近づけてはならないと言っている」

「っ!!!?」

「…帝が彼の下心を察したようだね」

「顔から滲み出ておるからな」

『マスター、家康くんも大事な友達なんです!ね、家康くんっ』

「あ、ああ!ワシと結は友だからなっははっ……はぁ」

「今の彼女に悪気は全くないね」

「御狐殿も酷い女よな」




半兵衛さんと吉継さんが何かコソコソと話しているけれど、今は心中穏やかじゃないマスターを何とかしなければならない

誤解ですマスター、彼らとは何も間違いを起こしてません




「いいや、まだ、だ。いずれ必ず間違いが起こるぞ甘露、何せ予の自慢の甘露だからな」

『理由になってない上に私は甘露じゃありません…!』

「しかし安心するといい、世界の何処にいようと予が甘露を守りに来てやろう!」

『今、実際目の前にいるので冗談に聞こえませ―…え?』

「ん?」

『マスター…また、何処かへ行ってしまうんですか?』




そう思わせるような口振りに、私は詰め寄るように問いかけた

それに少し困ったような顔を見せるマスター。そして、やはり彼はニッコリと優しく笑む




「ああ、今回は甘露に似合う服を着せてみたかっただけだ。直ぐにまたここを発つ」

『そ、そんな!ここはマスターのお店じゃないですかっ、なのにっ…!』

「いいや、今は甘露の店だ」

『っ―……!』

「そう泣きそうな顔をするな、今宵の宴には予も参じよう。新しいマスターの誕生を見届けようじゃないかっ」

『マスター…』

「新しく廻るこの店を、予に見せてくれ」






甘露を中心に

この世界は回るのだから






20140623.
全てを回す男の降臨

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