運命の輪 | ナノ

  似た者同士


「いいか狐、ますたぁという者が貴様の主なのだろう?」

『はいっ…』

「その主の許可なく伊達政宗を雇うと言うならば、それは主への裏切りだ。私は裏切りを最も軽蔑する」

『は…はい…えっと…』

「何よりも、ここに身を置く限りあの男と顔を合わせることになるなど虫酸が走る」

「三成様、三成様、明らかにそっちが本音ですよね?」

「黙れ。とにかく貴様は伊達政宗の志願を断ればいい、それだけだ、解ったな」

『わ、わかり、ました…!』

「…来たな」

『へ?』




カランカランッ





「Hey!先輩、帰ったぜ!」

『お、お帰り政宗くん!あのね、いきなりで申し訳ないけどバイトの話は―…』

「ほら、先輩これ好きだったよな?大学の帰り道にあったから買ってきた」

『あ、ケーキ…ありがと政宗くん…って、ち、違うくて…!』

「ああ、そうだ。大事なこと聞いてなかった、店の営業時間は?」

『へ?あ、えっと、水曜日お休みで7時半から10時までと、14時から16時まで…』

「What!?なんだそれ、まぁマスターが趣味でやってるならそんなもんか…となるとオレのシフトは限られちまうな…」

『うん……はっ!ま、政宗くん話聞いて!うちはバイトは…!』

「じゃあオレは朝の一番忙しい時間と、閉店後の仕込みに入るか!それなら先輩も少しは楽だろ?」

『え…わ、悪いよそんな!政宗くんだって帰ってきたばっかりで忙しいし…大学もあって…』

「何言ってんだ、オレはアンタの所に帰ってきたんだよ。オレがアンタのいる場所にいたい」

『政宗くん…』

「ってわけで今日からよろしくな、先輩っ」

『うんっ、よろし…』

「流されるな狐ぇえぇえっ!!!」

『ひぃいぃっ!!?』




カウンターの裏に隠れていた三成さんが、バァンッと机を叩いて飛び出してきた!

飛び上がった私と驚く政宗くん、三成さんの後ろから左近くんもヘコヘコッと笑いながら出てくる


…あ、す、すみません…!




「テメェ、朝の…!また来やがって!」

「その台詞、そのまま貴様に返してやる!狐!これを雇うなと言ったそばからか!」

『すみません!すみません!』

「Ah?テメェ、先輩脅してやがったのか…!朝も言ったがオレが戻ったからには先輩を好き勝手させねぇぞ!」

『あ、あの、落ち着いて政宗くん…別に三成さんは、その…』

「三成様もちょっと落ち着きましょうって、ね?ね?大人気ないっすよ」

「…………」

「…………」

『うぅっ―…!』

「っ………はぁ、」



ギリギリ睨み合う政宗くんと三成さん…左近くんも困ったように頭を掻いている

確かに、彼らが戦国武将であることは政宗くんにバレない方がいいと思う。ただでさえ勝家くんを巻き込んでしまったんだ




『…政宗くんを雇ったら、いずれバレちゃいますよね』

「でもさ、俺が言うのもアレだけど…結ちゃん的には味方が増えていいんじゃね?」

『それは…』

「家康も勝家んち行っちまったし…俺も三成様には逆らえないからさ。アイツも結ちゃんの幼馴染みなんだろ?」

『はい…で、ですけど…』






「アンタが嫌がる先輩につきまとってんだろ、だが残念だったな。先輩がアンタに振り向くことはねぇよっ」

「憶測で語るな!誰が狐など…そもそも、ここへ先に居座ったのは私だ!後から来た貴様にとやかく言われる筋合いはないっ!!」

「HA!それが何だ、政宗“くん”と三成“さん”じゃ明らかに親しみに差があるだろ!無謀かどうかくらい判断しやがれ!」

「私を三成くんなどと呼んでみろ、直ぐ様その首はねてやる…!年上を敬わぬ者を私は許さん!」

「三成様、それ、三成様が言えたことじゃ…」

「黙れっ!!」

「うぃっす、」






『…あの二人、絶対に一緒にいられないと思うんです』

「確かになー…話は噛み合ってない気がするけど。とはいえ竜王さんも退いてくれないような」

『………はい、』

「三成様に折れてもらうのもなー…俺も結ちゃんも無理だろ、刑部さんも煽るだけだし、やっぱり秀吉様かあるいは―…」

「僕を呼んだかな?」

『きゃあっ!!?』
「うわっ!!?」




突然、背後からやぁと爽やかに現れた半兵衛さん!私と左近くんが揃って悲鳴をあげれば彼はまた楽しそうに笑う

い、いつの間に…!驚いて固まる私たち対し、半兵衛さんは成り行きを見守っていたらしく、睨み合う三成さんたちに視線を移した




「伊達政宗…今更誰が来ようと驚きはしないが、こうも有名どころが集まるとは恐ろしいね」

『あ、あの…』

「ああ、解ってる。君が仲間を呼び寄せてるようには見えないよ、君を疑うわけじゃない」




もしそうなら、もう少し賢く事を運ぶだろうしね

そうクスリと笑った半兵衛さん。次にふむと何か思案する様子を見せて…




「三成君、少しこちらへ来てくれないか?」

「っ―……は、半兵衛様っ!!?」

「っ!!?アンタいつの間に…!」

「おいで、三成君」

「は、はい!」




まさに、有無を言わせぬといった雰囲気の半兵衛さん


彼が三成さんの名前を呼んで手招きすれば、直ぐ様飛んできて直立不動だから

…やっぱり怖いです



「騒ぎは起こしちゃダメじゃないか…彼は独眼竜かい?」

「は、はい!今朝、この店にやって来たのですが…また現れ、私はそれを…!」

「追い払うつもりかい?結君、君もなのかな?」

『え―…』

「半兵衛様!奴はこの狐の仲間に違いありません!」

「三成君、落ち着いてくれ。それで?どうなんだい」

『え、あ、えっと…!』




半兵衛さんと三成さん、二人の視線に挟まれアワアワと慌てる私

それを見た左近くんが助け船を出そうと口を開くけど―…それは半兵衛さんに阻まれた




「…………」

『わ、た、私は…そのっ…』

「落ち着いて思うまま答えればいい、僕らはそれを咎めはしない」

「狐…!半兵衛様が聞いている、早く答えろ!」

『ひぃっ!!?あ、わ、私はっ…〜〜っ…!』





私はっ―……!






『ま、政宗くんに、お店に、来て欲しいっ…』

「っ!!!!?」

『私は、このお店を、再開したいんです!』




政宗くんが一緒に働いてくれるなら、これ以上心強いことはない

帰ってきてくれた政宗くんを、私は迎えたい

そう震えて伝えた私はまたボロボロと、泣き始めてしまう。滲む視界に見えたのは、驚いた三成さんの顔だった




「…そうか、なら仕方ないね。三成くん、政宗くんに僕らの正体を知られないようにするんだよ」

「っ―…しかし…!」

「ここは彼女の店だからね、残念だが僕にも君にも秀吉にだって決定権がないんだ。そこは君も解っているはずだよね」

「っ……しかしコレは、家康や左近につけ込みっ!!」

『あ……』

「これは…っ…!」

『…………』

「〜〜っ!!!!」

『え、え、きゃあっ!!?』




突然、何を思ったのか私の手首を掴んだ三成さん

そしてグイグイと引っ張りされるがままな私を投げ捨てた先は―…





「勝手にしろっ!!」

『きゃあっ!!?』

「先輩っ!?テメェッ!!何しやがるっ!!」

「勝手にしろと言っている!」




私たちを訝しげに見つめていた、政宗くんがいた

私を受け止め怒鳴る政宗くん。そんな彼を今一度睨み付け、そのまま三成さんは…乱暴に扉を開き店を出て行ってしまう



『み、三成さん…?』

「あの野郎…!っ、先輩、大丈夫か?怪我はないよな」

『う、うん…ありがとう、政宗くん…それで、えっと…』

「Ah?」

『…これから、よろしく…こんなマスター代理だけど、』

「っ―…当たり前だ!オレに任せとけば安心だぜ、先輩っ」

『……あは、』









「三成様…どうしちまったんですかね」

「ふふっ、ちょっと驚いたんだよ。彼女が自分に反論したからね」

「結ちゃんが?そりゃ………驚きっすね」

「だろ?彼もここの家主が彼女ということは解っているんだ。ただ彼女がそんな振る舞いを全くしなかったからね」

「それがいきなり反発してきてガーンッと」

「家康君や君だけでなく僕まで彼女の肩を持ってしまったから、そこもガーンッだろう。まぁ、一度結君の立場を認めれば少しは素直になると思うよ」

「…半兵衛様、荒療治っすよね」

「ふふ、今更気づいたのかい?」

「う゛……で、でもそんなことして!半兵衛様まで狐に憑かれたって判断されちまったんじゃ…」

「ああ、僕は大丈夫だよ」





僕は決して、彼女に心を許しやしないから



そうクスリと笑った半兵衛様が視線を移したのは未だに半泣きな結ちゃんと、それを慌てて慰めてる竜王の姿だった

そうそうその目。この人は単に穏便に済ませたかっただけで…結ちゃんを認めたわけじゃないんだな




「んー…」

「どうしたんだい?」

「いや、何もないっす。とりあえず拗ねた三成様探して来まーすっ」

「ああ、お願いするよ」






この人も三成様に似て、素直に本音を口にできない人なんだなと思う






20140316.
御意見番・半兵衛

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