良チョコは口に苦し 気持ちだけはあります 「うまいぞっ!!」 「うまいなっ!!」 「うまいでござるーっ!!」 「…悪くない」 『うんうん、可愛い君たちのための本命チョコだよー……市販の』 「ナキさん、手作りちよこを作りに行ったんじゃなかったっけ?」 『黙らっしゃい思春期忍者。失敗したんだよ、焦がしたんだよ、そこは察してよ』 もぐもぐと一生懸命チョコレートを頬張る息子たち。元気トリオだけじゃなく、佐吉くんもご満悦だ その隣で頬杖をつく佐助くんは呆れ顔だけど。いつものお八つよりお高いやつだもんね。美味しいよね、よかったよかった 『…うん、やっぱりお袋の味よりプロの味だよね…あっはー』 「まぁ…うん、元気出しなよ。チビたちが喜んでるならいいじゃん」 『気を使われたら使われたでダメージでかいなコノヤロー…でも、そうだよ』 嬉しそうな子どもたちの顔を見ていたら、これでよかったと思う ハッピーバレンタイン。君たちへの気持ちを込めたんだ 『あー…チョコってこんな味でこんな食感だったっけ?我ながら美味しくないなぁ』 夜。ちびっ子たちは寝静まった時間 本当は彼らに渡すはずだったチョコレートを自分でちびちび食べる。うん、不味い …料理を始めた時、湯煎なんてものは私の頭になかった。焦げたチョコでもチョコはチョコ。再利用できると思ったけど無理だったよ 『はぁ…ほんっと嫌になるよね』 「今更よ。誰もぬしに料理の腕など求めておらぬ」 『それはそれで悲しい上に独り言を盗み聞きですか刑部さん』 「それほどデカい声で呟かれては嫌でも耳に入る…ヒヒッ、その焦げがぬしの手作りか」 『ぐっ…!そうですよー、自信作ですよー、チクショー』 「いじけるな、いじけるな」 ぬっと背後に現れた気配は、佐吉くんを寝かしてきた刑部さんだった 私の目の前にある焦げたチョコを見て、ヒッヒッとお腹を抱え笑う。別に、今さら笑われたって…やっぱり悔しい 『別に自分で食べるからいいんですよ…でもちょっと期待してた自分がいたりいなかったり』 「期待?」 『市販が美味しいと分かっていても、手作りチョコに少しくらい憧れるんですよ乙女は』 「乙女は、な」 『どういう意味ですかコノヤロー』 「そのままの意味よ。ヒヒッ、味など気にせず渡せばよかったものを」 『あ、ちょ、何してるんですかお腹壊し−…』 「…ふむ、確かに不味い」 『張り倒しますよ』 「ヒーッヒッヒッ!!!」 何を思ったのか刑部さんは、焦げ焦げのチョコを一つ摘まむと躊躇なく自分の口に放り込んだ! そして素直な感想。当たり前じゃないですか、だから渡さなかったのに 「常日頃、ぬしの不味い飯を食っておるのだ。何を遠慮する」 『がっは、重ね重ね傷を抉るな刑部さん。バレンタインは特別なんすよ、不味いものは渡せません』 「乙女心か?」 『乙女の意地です』 「これまたつまらぬ意地を…不味いものを渡されたとて、怒る者などおらぬ」 『それは…まぁ…』 「しかし渡されねば、悲しむ輩もおるやもしれぬ。試しよ、今さら遠慮する仲でもない」 『………………』 「………………」 『…刑部さんが優しいと気味が悪い』 「張り倒すぞ」 『あっはー、やだそれ私の台詞』 いつも一言多い刑部さんが、今日は二言三言も多い でも、ありがとうございます。ちょっとだけ嬉しいです、うん、ちょっとね 「ほれ、魚の腑と良い勝負よ。われは嫌いではない」 『やっぱり素直には喜べないぞコノヤロー』 「ヒーッヒッヒッ!!!」 20160217. ハッピーバレンタイン (6/7) |