心の壁は高い



「う、うわあ…数日、佐助が来ないだけでこんなことになるんだな…」




ゆのちゃんの部屋から何かが崩れる音がした


彼女は仕事で不在。偶然、前の廊下を通りがかった俺は慌てて部屋の中に入る

その時目に入ったもの、それは…見事なゴミの山だった





「こんな気はしてたけどさっ!!足の踏み場がないよ、っと、よいしょっ」




佐助が仕事のため数日、この町を離れるらしい

それを聞いた俺たちはみんな揃って不安を抱く。果たして佐助がいない間、ゆのちゃんは一般的な生活を送れるのだろうか




「不安が的中しちまったな…部屋がこれじゃ、ゆのちゃん、居間で寝るとか言い出すかも」





そうなりゃ、ここぞとばかりに利休大先生がちょっかいかけるだろう

それに三成が怒って騒ぎになるし、大谷も何かしでかすかもしれない…主にゆのちゃんのせいで




「うーん、仕方ない!ここは俺が片付けとくか!」




幸村に手伝ってもら…いや、ダメだ。女子の部屋入るなどできませぬーって言いそう

無難にいくなら義輝か元親かな。最悪、毛利にも声をかけてみよう。綺麗好きそうだし




「とにかく、俺一人じゃ大変だからな。よしっ…おーい誰かーっ!!ちょっと掃除を手伝ってく…」




誰かを呼ぼう、

そう思って共有の部屋を覗き込んで声をかけた俺。その先にいたのは−…






「あ…」

「……………」

「は、半兵衛…」




横目で冷たく俺を見る、半兵衛だった

一人でポツンと座っていた半兵衛は、返事をするわけでもなく、無視をするわけでもない

ただただ俺を見ていた。無表情なままで、対する、俺は…





「え、えっと…半兵衛、一人?」

「…ご覧の通りだよ」

「そう、だよな…三成たちは散歩にでも行っちまったのか?」

「幸村君や元親君と一緒に、ゆの君の友人の墓参りに行ったよ。あとは帰る手段探しにね」

「あ、じゃ、じゃあ俺も行ってこようかな!義輝や利休大先生も誘って−…」

「僕を避けるために白々しい嘘は止めたまえ」

「っ………!」

「誰かを探していたんだろう?僕でいいじゃないか、話してみるといい」




話せ…と言う半兵衛の目は、どう見ても「早く視界から消え去れ」と言っているようだった


俺たちがこの時代に来てしばらく経つ。ようやく未来にも慣れてきた頃だ

そんな中、俺と半兵衛は初めて会話と呼べるものをしていた。互いを避けていた理由なんて今さらの話だけど





「半兵衛、俺は…」

「三成君たちがいる以上、僕は僕の事情でこの時代での生活に支障を生みたくないんだ」

「っ…………」

「だから君と、極力距離は置きたい。君も同じ理由だろう?」

「俺は、そんな…俺はお前とだって…!」

「無理だ。僕と君は決定的に何かが違う」

「半兵衛っ!!」

「………………」




ガチャンッ





『ただいまー…あれ、半兵衛様と慶次とか珍しい組合せ』

「っ、ゆのちゃんっ!!?」

「おや、今日は早いんだね」

『うん、最近お仕事ヒマだから。帰れるうちに帰る』




何の前触れもなく開いた扉の向こうから、いつも通り気だるそうなゆのちゃんが帰ってきた

珍しいねと首を傾げる彼女。なんと返せばいいか戸惑う俺に対し、半兵衛はさっきまでと違う穏やかな顔で答えた





「君の話をしていたのさ。佐助君がいないから、部屋の中を散らかしてるみたいだね」

『ギクッ……しなないから大丈夫。え、というかあの部屋の中、見たの?』

「僕じゃなく彼がだけど」

「あ゛…ご、ごめん勝手に入っちまったっ!!何かが崩れた音がして、ついっ」

『別に気にしないよ。でも下着も散乱してるから、幸村君とかワビ助先生だと叫んでたかも』

「は、ははっ…」

「……………」





…三成に知られたら俺、斬滅されちまうかも


足場を確保するために退けた布はそれだったんじゃないか。そんなことを考えると苦笑いしかできない俺

そしてケロッとした顔のゆのちゃんが次に視線を向けたのは、もう俺には見向きもしてないいつも通りの半兵衛だった




『……………』




















『毛利さん、毛利さん、慶次と半兵衛様ってなんで仲悪いの?』

「…何故、我に聞く」

『石田君とか刑部さんに聞くのは、ダメだと思って』

「貴様、存外空気が読めるのだな。確かに豊臣の者には聞かぬ方がいい」

『やっぱり…石田君はまだましだけど、刑部さんも慶次を避けてるみたいだったから』

「大谷はそもそも前田のような人間を好まぬのであろ」

『…毛利さんも苦手?』

「比較的な」




他の人と違い、あまり外出しない毛利さんは一人で部屋に閉じこもっていた

そこに押しかけ聞いたのは、慶次と半兵衛様の関係。ただならぬ仲…因縁、そんな言葉がしっくりくる





『…あの慶次が、あれだけぎくしゃくするんだから。私じゃ理解できないことがあるのかな、て』

「至極面倒な問題よ。貴様にとっては関わりたくない話ではないのか?」

『そりゃ人間関係ほどややこしいこと無いですし、我関せずが一番…です、けど…』

「……………」

『…空気が悪いのは、もっと嫌だと思います』





仲良しこよししろとは言わない。でも、みんなが気楽に生きられたら良いのに

私ならそうしたい。一人でいるにしても、同じ時間を共有するにしても、心穏やかにいたいじゃないか





「貴様の考えは分かった。しかし、それを我に向けて発言するのは何故だ」

『毛利さんにも、近しいものを感じたから。安泰、大事』

「……否定はせぬ」

『助言してくれたら、次のお休みにお団子作りますよ』

「………………」

『………………』

「…愚策は与えぬ。やるからには成果を示せ」

『イエス、おやつ軍会議ー』




がっしりと固い握手を交わし、我らがおやつ軍の重要ミッションが始まった

毛利さんと私がいるなら幸村君も巻き込ま…誘わないと。これは我が家の平穏をかけた大作戦だ





「ふん…我の調略の前に竹中半兵衛を跪かせてやろう」

『わー…毛利さん、それ、絶対に失敗するフラグじゃないですかー』

「何か言ったか?」

『ナンデモアリマセン』






なんでもない、そんな生活を目指したい





20160715.


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